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あなたの1ページしか、見えなくて

その言葉を聞いたとき、わたしは息が止まるかと思った。

いまの仕事を始めて、まもない頃。
いや、いまだって入社後1ヶ月と少しなので、「まもない」と言っても過言ではないのだけれど。これは、もう少し前の話。

いろんな業務があって、共有フォルダの場所や、スプレッドシートの名前が覚えられなかった。
覚えられる気もしなかった。
「これはやばい」と早めに気づいたわたしは、とにかくメモを取って、「次やるときは、時間が掛かるだろうけど、ひとりでできるように」と努めた。

電話は、出るのも掛けるのも、好きじゃない。
仕事だからやるけど、好きか嫌いで問われたら、やっぱり好きじゃない。
でも、日に日に電話の機会は増えてゆく。

仕事を教えてくれた上司は、とてもかろやかに仕事をしていた。
さくっと電話に出て、掛けて、言葉遣いが丁寧で、その丁寧さは「業界に適した気遣い」で、すごく美しかった。
わからないことがあって声を掛ける、「いま大丈夫ですか?」と言うと、必ずその瞬間に手を止めてくれた。
この人はすごいなあ、かっこいいなあ、とわたしは、眩しい気持ちで見つめていた。

だから、「電話かけるの、苦手なんですよね」と言われたときには、びっくりした。
信じられない、と思った。
「得意そうに見えていました」とすなおに言ったら、「いやいや」と、やっぱりかろやかに笑っていた。
「得意そうに見えること」と「実際に好きか嫌いかは違う」という、すごく当たり前なことを、わたしは再認識することになった。
わたしだって、ライブやるのは好きだけど、何百回やっても緊張する。
そういう矛盾は、たくさん存在する。

お昼休憩が一緒になったときに、かけられた言葉も衝撃だった。
「松永さんは、すごいですね」と言われた。
当然「いやすごくないです。ぜんぜんわかってないです」と答える。

「今日教えた内容もね、わたしは最初やるのに1日かかったよ」と言われて、びっくりした。
わたしが、おどおどしながら1時間半くらいで終えた内容だった。

そして上司は、こう続けた。
「オフィスワークが始めてで、最初はほんとうにダメだった」
「電話に出て、保留して取り次ぐのだってうまくできなかった」

ほんとうですか?とわたしは何度も言った。
決して、そうは見えなかった。
もう、信じられない話だった。

そしてわたしは、この上司のことをもっと好きになった。

そうだよね、当たり前だよね。
誰でも「最初の一歩」は存在して、そのときは苦しい。
程度の差はあるけれど、最初からうまくいくことって、少ない。
それこそ、「もっと長く頑張っている人」や「その場に長くいる人」には、到底敵わない。

そうか、この人はここで、真摯に歩んできたんだ。
諦めず、一歩ずつ
まわりを真似て、覚えて。

だからわたしにも、丁寧に教えてくれるんだ。
「何度も周りに助けられた」と言った人だから、その有り難さや、わからないことへの不安を知っているから
だから、そうだったんだ。

わたしは今日も、この上司に憧れている。
この人が隣りに座っていると、安心する。

わたしも、まだまだだけど
やっぱり、この人みたいになりたいな。

笑顔で、「大丈夫ですよ」って言って、助けてくれて
自分もわからないことはすなおに、「ちょっと待ってね」と言って調べてくれる。

わたしはその姿をやっぱり、「格好良い」と思っている。




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