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左翼との対話|エッセイ

 初夏のある昼下がり、僕は大学で言語学の講義を聞くために商学部7号館に向かっていた。
 商学部があるメインキャンパスは、僕が普段通っている文学系学部のキャンパスとは道を挟んで少し離れたところにあり、僕は週に1コマだけ道の反対がわに渡って講義を受けていた。

 メインキャンパスの広場(とてもせまい)では、その日もメガホン越しに軍拡反対の叫びが聞こえていた。声の主は反戦活動を行っている学生団体の代表者で、その時期は主にウクライナ戦争に関連して何かの主張を行っていた。僕はそれを横目に7号館に入っていった。

 講義を聞き終えて建物から出ると、彼らは大声で主張をするのをやめてチラシ配りを行っていた。僕が家に帰るために(僕の帰宅は早い)門の方へ歩いていると、代表者らしき人物からチラシを渡された。僕はそれを受けとった。するとその瞬間、

「岸田政権が軍拡法を成立させようとしていることについてどう思いますか?」
と訊ねられたのである。

 僕はとっさに「それはおかしいです」と返事をした。
 正直に言うと軍拡法については何も知らなかったのだが、たぶんおかしいんだろうなと思った。おかしくなかったらこんな質問をするはずがない。

「おかしいですよね!!」と彼は同意した。そしてたて続けに、

「さらに岸田政権は軍需産業推進法も今月の参院で成立させようとしているんです。これってやばいですよね?」
と訊ねてきた。

 僕は「やばいです」と言った。ほかに何を言えるだろうか。

 すると彼は、
「そうなんです。これはやばいという言葉を使わないとすれば、シビアな状況なんです!」と述べた。

 「そうですか」と僕は言った。そして、実は自分は軍拡法や軍需産業推進法についてよく知らないので、それについて簡単に教えてほしい旨を伝えた。
 彼はウクライナ戦争に関連した日本の防衛上の最近の動きについて詳しく説明してくれた。
 僕はその説明でわからないところがあると、さらに質問をした。するとそれについて新聞の記事などを取り出して説明を付け加えてくれた。

 こうして我々は約1時間を立ち話をして過ごしたのである。この間、横を通り過ぎる学生たちの視線はなかなかなものであった。あいつ、捕まってるよ・・・という視線である。
 しかし僕は言いたい。僕は捕まっていたのではなく、自ら彼と対話をしたのだ。この状況の「大学っぽさ」にけっこうウキウキしていたのである。

 結局軍拡法について僕は何も覚えていない。けれど、大学構内で1時間も話をしたということは僕にとってとても貴重な経験となっている。
 自分の主張を持ち、それを毎日叫んでいる人を僕は尊敬したいと思った。話をしてくれたF田さん、ありがとう。またお会いしたら話をしましょう。

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