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大事な人を失った話


今でもときどき思い出しては胸を苦しめるエピソードがある。私の愚行によりある人生が狂ってしまった。きっとこの話を見た人は私のことを醜い、軽蔑するべき人間であると思うだろう。しかし他の人には私のような人生の二の舞を踏んでほしくはない。だからその胸のつかえを取るためにもここに書き残していこうと思う。


私にはかつて心の底から大事にしていた親友がいた。

物語の始まり

まずその子との出会いについて語ろうと思う。
出会いはとある高校で同じクラスになったというありきたりな話だった。
しかし当時の私達の仲は険悪だった。いや、どちらかといえば私が一方的に彼女を振り向かせようと一生懸命になり、それが空回りした結果、彼女は私のことを心底嫌悪していた。
私が軽い、ふざけるような態度を取ると彼女は大いに怒り狂い、時には私の存在を認識しないようにしてしまう程であった。
これにはお調子者の私も落胆してしまう程だった。
しかしそんなわだかまりも夏休みのとある出来事で全て消し飛ぶことなった。

あの頃の夏休み


その日私は部活の空き時間があり、特にすることもなかったため、校舎をただ自分の心の赴くままに進んでいた。
しかしそれだけ歩くとまあ暑いわ疲れるわで何をしているのかという気持ちが勝ってきた。
そろそろ部室に帰ろうかと振り向いたところ、ふと目線の先には髪が長く、スラリと背の高い―彼女がいた。
なんと偶然かと私が立ち止まっていると、彼女が私に気が付き、ツカツカと進んできた。
ここでおどけようと思ったが、そういう雰囲気では無いことを察知した私は固まってしまった。
すると彼女は一言。

「みのりも旅をしてるの?」

私は思わず「旅?」と聞き返してしまった。
始めは何を話しているのか分からず、てっきりからかっているのかと思った。
しかしその時の彼女の瞳はまっすぐで、純粋そのものだった。
いつも見ていた怒っている姿ではなく、ただ私そのものに目を向けてくれていた。
そして放浪している私の姿を旅人と示してくれたそのたったの一文字で私は彼女の虜になってしまった。
その後、どんな話をしたか覚えてはいない。
ただ分かることは、彼女はその一件で私への態度が穏やかになり、喧嘩や漫才のようなことをしながら3年間というあまりに濃い時間を共に過ごすこととなった。
一緒にご飯に行き、部活で大騒ぎし、日常で大騒ぎをして…。そして彼女から来るメッセージに胸を踊らせていた。この感情が何だったのかを当時の私には分からなかった。でも今なら分かる。全て遅かったけれども。
「この時間が永遠に続けばいい」私はひたすらに祈っていた。

しかしいつだって永遠なんて言葉は存在しない。

―高校生最後の春、私に恋人ができた。

一生忘れもしない話

私は当時言われたから付き合うと言った、自分軸ではなく相手軸にしか合わせて動くことのできない空っぽな人間だった。
恋人になって欲しいと言われたからそうする、一緒にいて欲しいと言われたからそうする、髪の毛や癖が気に入ったと言われたからそうする…。自分は何も考えてなかった。とにかく好きではないけれどもとりあえず付き合おうという最低な人間そのものであった。

その出来事があって以降、受験や恋人に時間を大幅に注ぎ込んだその結果彼女と会って連絡をする機会がめっきり減ってしまった。
クラスが離れてしまい話す機会も減ってしまったが、他のことも重なり、全く会わなくなってしまった。
合わない時間の時に、彼女は一体何をしているのだろうか、一緒に話せる機会をどうにかして作れないだろうか。ただ彼女に会うための口実を考えていたが、私には話しかける勇気がなくただ時間だけが過ぎていった。
結局彼女に会えたのは文化祭の日であった。
私達は最後の文化祭に備え、部活でもクラスでも忙しく準備をしていた。
私はその時に恋人と一緒に店を回る約束をして過ごしていた。
文化祭当日、私は恋人と文化祭を回るつもりだったが、のっぴきならない理由で相手から一緒に店を回ることを断られてしまった。
私はあまりにもショックで頭が空っぽになってしまった。
ふわふわ、くらくらかどうか分からない頭で部室に戻り気持ちだけでも落ち着けようとした。
部室に戻った先には、いつもと変わらない彼女がいた。
私はその姿を見ると、今までに込み上げてきた感情が一気に押し寄せ、彼女の目の前で嗚咽を漏らしてしまった。
ぐちゃぐちゃになった感情、言葉しか伝えられなかった私は相当滑稽だったかもしれない。
そんな私でも彼女は「大丈夫」と言いながら、優しく抱きしめて私が泣き止むまでしばらく傍にいてくれた。
とても温かい、優しい雰囲気だったな。今でもその気持ちを覚えている。
文化祭が終わるまで他愛のない会話やつもりに積もった話をして私たちはまた今度会う約束をした。
その時の彼女は、どこか寂し気ででも何か強い決心を決めたような様子に見えた…はずだった。
しかし後に、出来事が後の惨劇につながってしまうことも知らずに…。

終わりのゲームの始まり

文化祭が終わり、私は本格的な受験期に入った。そしてそのころ恋人との付き合いで価値観の違いでぶつかることが増えてきた。
そんなイライラが募る中、恋人から突然連絡が届いた。
忙しい時に何事かと連絡を見てみるとこう書いてあった。
「俺のロッカーの私物が全部消えている。本も服も、全部。全部。」
最初は何かの冗談かと思った。恋人に誰かの所に間違えて入れたのではないか、そして本当にないのか再三確認をしてみた。
―しかしどこにもない。
さすがの異常事態で勉強の合間を縫って一緒に探してみたが、全くといっていいほど見つからなかった。
そしてそれと同時に「あす」という名前のアカウントのSNSが接触をしてきた。
私はこのアカウントからのフォローが来て確認をしてみると、恋人の私物を全て奪った趣旨の内容が投稿されていた。
「ぼくが盗んだ。見つけたければ隅から隅まで探してみなよ」
「暇人だからずっと必死に探してやんの。滑稽すぎるね。」
こんな内容を書き込み、明らかに私達へ挑発をしている様子だった。
私はこの犯人をすぐに見つけたかったが、探す手段もなかったため、他の友人や彼女に相談を持ち掛けた。
特に彼女は、恋人の私物を勉強の合間を縫っては必死に探してくれた。
そして私がこの一件で恋人と揉めてしまい、ギスギスしてしまったときの私を誰よりも支えてくれた。
あの頃の彼女はとても穏やかで、優しい手で私の背中をさすり、ただ話を聞いてくれた。それだけでも心の平穏を取り戻すことができた。
そんな出来事からすでに1カ月が経とうとしていた…。

Iと愛と哀と

この事態を重く見た恋人は、警察に相談をすることを決断した。
ほぼすべての私物が1カ月以上戻ってこないのは以上であると判断した結果とのことだった。
しかし彼はその前に、学校に相談をしており、もはや個人の問題ではなく、学校全体を揺るがす出来事となっていた。
私はただ恋人の私物が戻ってくること、そして犯人にはこんな真似をするのはもうやめてほしいと祈っていた。
私は相変わらず届く「あす」からのSNSを怯えるようになっていた。
「そんな場所を探しても見つかるわけないのに、頭が悪いのかな。」
どうしてこんなことをするのか、もしかすると身内なのか、そうだとしたらいったい誰がどうしてこんなことをしてしまったのか。
そんなことで頭がいっぱいになってしまい、当時は友達もとい恋人のことも信用することができなくなってしまった。
もし自分の友達がこんなことをしているとしたらどうすればいい。
「裏切者!」と言いながら警察や学校に躊躇なく差し出すことはできるのだろうか。
私は、あくまで内部ではなく、誰か別の人間の愉快犯という可能性を信じていたかった。
しかし私は、こんなことを抱え続けていたが、彼女はその姿を見逃さなかった。
「あんた、きっと今回の件を抱え込んでいるでしょ」そう厳しい声で言ってきた。
今までにない厳しい言葉だった。私ははっと彼女のことを見た。
すると彼女は何も言わなかったが、悲しそうな目をしていた。そして立て続けにこう話した。
「なんで相談してくれないの。あんたがそんな日々弱っていく姿を見て、こっちがいい気分になると思うわけ?どんな時も一緒にいて乗り越えようって約束したでしょう。」
この言葉、いつか私が彼女に話したものだった。その約束覚えていてくれたんだ…。
私はこみ上げていた悲しみを全て彼女にぶつけた。
どうしてこんなことになってしまったのか、身内がこんなことをしていたら早く止めないといけない、自分のせいでこんなことになってしまったのかもしれない。
その感情を彼女にぶつけてしまった後悔もあったが、彼女はただ私のお話を聞いてくれた。
そしてもう一度、「あす」と名乗る犯人を見つけて話をしようと決めた。








だがその必要はなくなった。
「みのり、私があすだ。あんたの恋人の私物を取ったのは私なんだ。」
―夜中に彼女から突然犯人であると名乗ってきたからだ。

告白

私は自分が一瞬何か見間違えてしまったのかもしれない、いやそうであってほしいと願った。
しかし現実は残酷だった。
彼女は自分のしてきた罪を全て私に告白してきた。
恋人の私物を全て奪ったのは私、「あす」というSNSは自分が作ったものである、私物はある場所に保管をしている。
矢継ぎ早に全ての事実を彼女は私に告げてきた。
私はその時に怒ることもなければ、悲しむこともなかった。ただ、あまりに唐突で困惑するしかなかった。そして私はやっとのことでメッセージを打った。
「なんで?」
本当にこの一言に尽きてしまった。今まで一緒に恋人の私物を探してくれて話を聞いてくれたのは何だったのか、犯人探しをするために、自分の時間まで割いてきてくれたのはどうしてなのか、そして何故こんなことをしてしまったのか。
とにかく全ての感情や考えの洪水を起こしてこの言葉しか絞り出せなかった。
しばらくの間沈黙が続いた。彼女は私のことが初めから嫌いだったからその周囲に嫌がらせをしようとしたのか。
とにかく悪い想像しか思い浮かばなかった。しかし、ただこの返事が返ってきた。

「私は、あなたを愛していた。違う人にもみのりを取られたことに嫉妬を覚えたんだ。」

私は思考停止をしてしまった。自分の考えていることの想像以上のことであった。どうして私は彼女の気持ちに気が付けなかったのか。

「あの文化祭の日にみのりを泣かせた彼が許せなかった。約束していたのに、やっぱり行けなくなったからって言って、そのままにしていたあいつが。」

彼女の文面から彼に対する憎悪が嫌というほど伝わってきた。
彼女は自分の感情を押し殺して私たちのことを見ていたが、あの文化祭の一件で彼女を狂わせてしまったのだった。
私があのときに、彼女の前で悲しそうにしなければこんなことにはならなかった。
ただただ空しい気持ちが募っていった。しかし、どうしても聞きたいことがあった。

「じゃあ、どうして私物を隠して、SNSで挑発するようなことをしていたのに、あんなに探してくれたり一緒にいてくれたの。どっちが本心だったの」

彼女は冷静にこう答えた。
「どっちも本当。みのりのことを大事にしたいけど、行き場のない怒りもぶつけたかった。ごめん、ぐちゃぐちゃだね」

私は何とも言えない気持ちになった。彼女をここまでにしてしまう原因を作りすぎてしまった。
今まで彼女の気持ちを見ようとせずに、好き勝手してしまったせいでこんなことになってしまったのだ。
そう考えた途端、胸が苦しくなってしまった。

「私、明日先生たちに今回のことを伝えようと思うんだ。みのりの彼氏にも謝らないといけないんだ。これは一人で行かせてほしい。」
彼女はそう断言した。私が一緒に着いてくることを既に見通してこのようなことを伝えてきたのだろう。
私に彼女の言葉を否定する義理は無い。
彼女の意思を尊重しようと思った。とにかくこの事態が収まることを祈った。

しかし、彼女は次の日、その次の日も学校に来なかった。

どこにもいない

私は彼女を待ち続けたが、学校に来なかった。
私は心配になり何度も連絡を入れたり、クラスを見に行き、同級生に話を聞いた。しかしどこも音沙汰なしだった。
数日後、私は教師から呼び出された。どうやらここ数日彼女は無断欠席をし、連絡が取れないとのことだった。保護者にも伝えたが帰って来ておらず、捜索願を出したと話を聞いた。
そして彼女について何か心当たりがないか確認された。
その話を聞き、背筋に寒気が走った。
―まさか。
教師が私の様子がおかしいと気が付いたのか、知っていることはすべて話してほしいと伝えられた。
私は慌てて今回の出来事のすべて(彼女の思いは隠した)を伝え、最悪の事態になるかもしれないと話した。
この時私はすでに落ち着きを失い、教師からなだめられなければならないほどであった。
その後すぐに彼女の捜索が始まった。もちろん私もそのチームに加わりたいと懇願した。
「受験が~」と言われたが、それどころではない。今ここで行かなければ、きっと一生後悔する。その思いを必死に伝えた。
結局私はその日の授業を全て公欠にしてもらい、必死に彼女を探しに行った。
心当たりのある場所はすべて行った。
声がかれるほど、彼女の名前を呼び続け探し続け、電話も何度もかけた。
私は涙が込み上げたが何とか抑え、震える足を必死に鼓舞して探し続けた。
しかし日が暮れても結局彼女を見つけることはできなかった。
教師にまだ探していたいと必死に伝えたが、遅い時間で危険であるということ、そして警察の捜査を信じて明日を待とうと言われた。
これには私も頷くしかなかった。
彼女を信じて待つしかない。悪い方に考えるな、絶対返ってくる。
そう思いながら一日が終わった。




そして日が変わる前に、彼女はひょっこりと家に帰って来たのだった。

おとぎ話みたいなハッピーエンドはどこ

彼女は家に帰って来て、次の日学校へ来た。
私はその話を聞き、クラスへ向かった。もちろん苦情の一つや二つぶつけたかった。
「今までどこに行っていたんだこのばか!散々心配かけて!」
そう言おうとしてクラスに入ったが、彼女の姿はない。クラスメートに聞いても、彼女は来ていないとだけ言われてしまった。
一体どういうことなのだろうか。私は訳が分からないまま授業を受けようとしたところ、教師に呼び出された。
教師曰く、彼女は今別室で事情聴取を受けているとのことだった。
そのためしばらくはクラスには戻らない。また細かいことが分かり次第すぐに話をすると言われた。
私はその話を聞き、とにかくこの事態が無事に収束することを願った。
しかし、現実はそう甘くなかった。

まず今回の件で恋人と私の仲に確実に亀裂が入ってしまった。
犯人は私の親友であったことや、警察沙汰になる手前まで行き、家庭や学校を巻き込むほどのストレスに発展したことへの怒り。
そして来年の入試に向けた大事な試験を今回のせいで本領発揮できなかった怒り。
親友とつるみ続けるのか、自分とつるみ続けるのかどっちを選ぶつもりだ。
このような会話ばかりになってしまった。
―彼女か恋人か。私は最悪な形の二者択一を選ばなければならなくなった。
今回の件は、私が原因で起きてしまい、恋人の大事な時間を潰してしまったのは重々分かっていた。それに彼にとって全く知らない先輩から嫌がらせを受けて、面倒なことで心身を削らされて被害者はこっちだと言いたい気持ちもわかる。
しかし、私は親友のことが心配だった。
確かに彼女は重い罪を犯して「加害者」と言われる立場だった。
しかし今ここで縁を切ってしまえば、彼女の本心を聞けないかもしれない。
そしてこれから先のつながりが無くなってしまうことへの不安が強かった。
彼女は本当に自分の手で最期を迎えてしまう可能性があった。

私は悩みに悩み続けた結果、恋人と別れ親友を選んだ。
(この後恋人ととても揉めてしまい、その内容もなかなかひどかったため、別のnoteにいつかまとめようと思う。)

そんなひと悶着が私側で起こった。
一方彼女はどうなったかというと…。

結論から述べると、彼女から以下のことを伝えられた。
・無期限停学
・彼女の保護者と恋人の保護者で大揉めした(彼女の過去の話や特性の話が出てきてそれがよりヒートアップさせてしまったとのこと)
・彼女の家庭で今回の件で崩壊気味になってしまった

私はすべての出来事を聞き、絶句してしまった。
私の一つの行動ですべて状況を悪い結果に持って行ってしまった。
彼女が今回の事件を起こす前に、様子がおかしいことに気が付いて止めておけばこんなことにはならなかったはずだった。
全て後悔の念が降り注いできた。どうすれば良かったのだろうか。今になっても答えは分からない。

後日譚

この事件があり、学校を卒業した後も私は連絡を取り続けた。
彼女がどこかに行ってしまわないように必死につなぎとめておきたかった。
くだらない話をして、ドラマの感想や変なアレンジを加えて笑わせてみようとしてはみた。
彼女はくだらないと笑ってくれていた。この時間が続いてほしかった。


クリスマス、彼女から一件連絡が届いた。
「うちの家族、自殺しちゃったんだって」
私は持っていたスマホを落としてしまった。青天の霹靂すぎて動揺してしまった。
あの事件の後に、家庭がごたごたになって家族がどこかに行ってしまった話は聞いていたが、こんなことになってしまうとは思わなかった。
その後、彼女は家族との思い出をポツリ、ポツリと語り始めた。
その内容はあたたかい内容から、家族とこうしたかったという願望を全て込められていた。これが彼女の最初で最後の本心だったのかもしれない。
全ての話を終えた彼女は、「じゃあね」と一言だけ残し去っていった。
私は「死なないでね。また会っていろいろ話そう」とメッセージを残した。
しかし、このメッセージに既読が付くことは二度となかった。

結局彼女との縁は切れてしまった。

後日友人にそのことの顛末を話すと
「きっと、あの子はみのりに自分のことをただ受け止めてほしかっただけだと思うよ。」と言われた。
私はそのことに気づくのが遅すぎた。そして自分が彼女に対してどういう気持ちだったのかもそのころにやっとわかった。
いつも何か失ってから後からこうすれば良かったと後悔することばかりだ。
私のわがままのせいで、多くの人に迷惑をかけて、彼女の人生そのものを壊してしまった。
もっと早く彼女の気持ちに気が付いていれば良かった。
私は結果として彼女の心を踏みにじってしまったのだ。

ただ今彼女に感じているのは、罪悪感と謝罪したい気持ちだけではない。
どこかで今日も元気に生きていてほしい。あなたの幸せを祈りたい。



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