見出し画像

目的を迷子にしないために

先日、私の母が、自宅の前で、迷子の男の子に遭遇した。
先に、若い女性が、男の子を保護していたらしいのだが、
泣いている男の子を目前に、どうしていいかわからず、
オロオロしていたそうだ。
母が話しかけると、男の子は母の手を握って離さなくなったという。

こういう時の母は、実に頼もしい。
もう、見た目からして、子供に安心感を与える雰囲気がある。
どっしりしていて、丁寧で、子供が親しみを感じるものを
多く持っている人だと思う。
男の子も、母と遭遇して、多少は安心しただろう。

母は一旦、自宅に戻って、荷物を置きたかったのだが、
男の子が、なかなか手を離してくれなかったらしい。
何とか言い聞かせて、荷物を置き、
買い置いてあったポッキーを、男の子に渡して、交番に向かった。

私は電話で、この話を聞いていたのだが、
このへんから、母の口調が険しくなった。
交番に着いたら、既に父親は交番の奥にいたそうなのだが、
その場で、ありがとうございます、と言っただけで、そっけない。
警察官は、一番最初に男の子を保護した女性にだけ話を聞いていて、
手を引いて、ポッキーまで持たせた母は、ほったらかし。
急に手持ち無沙汰になった母は、
そのまま宙ぶらりんな気持ちで帰宅したそうだ。

話をしているうちに、母の不満が再燃したようで、
今の若い父親は、あんなそっけない感じの人しかいないのか、とか、
オロオロしていた女性のことも、
いい年して子供のあやし方もわからない、と文句を言いはじめた。
話の雲行きが怪しくなってきたので、私は、適当に電話を切った。

そして、うーん、と考える。
おそらく母は、交番で待つ父親が、男の子の顔を見た途端
わっと、男の子に駆け寄って、
「有難うございます!有難うございます!」
としきりに頭を下げる中、「あーよかったですねぇ!」
などと明るく言って、大団円になるのを期待したのだろう。
あまりに淡白な幕切れに加え、警察官からも思ったように労ってもらえず、
憤懣やるかたない思いだったに違いない。

報われない善行ってあるよなぁ…

そんな事を考えながら、noteを見ていたら、
のりまきさんの、友達の「しめちゃん」と正義感という記事に出会った。

酔っ払いに絡まれた女性を、のりまきさんが一喝し、撃退したのものの、
後味の悪い結末になる話が書かれている。
(記事そのものはとても後味良い、素敵な投稿です。是非ご一読を!)

私はその出来事に、母と重なるものを感じてしまい、
以下のようなコメントをした。

のりまきさんの善行が報われなかったのが悲しいです。
思い切って行動し、心も労力を費やしたのに、
それを誰も受け取ってくれない。
せっかくの善行が、後味の悪いものになることは、とても悲しいことです。
こういう報われない善行が、
世の中には溢れているんだろうなと思いました。

有り難いことに、このコメントに、のりまきさんから返信を頂いた。

はなまるえさん、ありがとうございます。
女の人が逃げれたから本来の目的は達成できてます。
行動できない人もいるからしゃあないですショボン。
はなまるえさんのように感じてくれる人がいるなら
まだまだ希望はありますね。

この返信を読んだ時、私はハッとした。
女の人が逃げれたから本来の目的は達成できてます。
私の頭には、完全にこの本来の目的が抜け落ちていた。
のりまきさんはショボンとしつつも、それを見失っていない。

称賛を浴びることはなくても、きちんと目的は果たされている。
男の子が父のもとに帰れたらなら、それでいいはずなのに、
認められたい、褒められたいという気持ちの強さは、
大事なものを置き去りにしてしまう。

男の子は、母の手を握って、離さなかった。
恐ろしいくらい心細い思いの中で、男の子が求めたのは
母の手だったのに、母はその尊さを見失ってしまった。

そして、母の善行は報われなかったと思ってしまった私自身も
母と同じ穴の狢なのだ。

報われたい、認められたい、褒められたい、有難うと言われたい。
強い承認欲求は、本来の目的を忘れさせるほどの威力がある。
もしかしたら、承認欲求のせいで、自分すら見失う可能性がある。

目的を迷子にしないためにも、
承認欲求は適度に手放した方がいいものなのだ。
そのことを肝に銘じておきたい。
そう思った出来事だった。





迷子になった男の子が、大きくなって、こう思ってくれたら、
母も報われるだろうな、と思って書いた、ショートストーリーです。↓


お読み頂き、本当に有難うございました!