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知らぬ間に崎陽軒


 その日、私は、12歳の少女に救われた話というタイトルの記事を書いていた。なかなか苦戦したものの何とか形になり、もう一度見直したら投稿しようと、文章を推敲していた。

 その時、書き綴っていたのは、自己否定、感情の手放し、イジメに関することなど、至って真面目なものだ。最初から順を追って、気になる表現はないか、無駄な表現はないか、記事を見直す。
 基本、私の推敲は、無駄を削ることに神経を注いでいる。気持ちがほとばしると、余計な表現、文章を書き込んでしまうからだ。

 推敲中、ある一文に目が止まった。どう考えても、おかしな単語が紛れ込んでいる。何故こんな所にあなたが? 私は驚きを隠しきれなかった。
 投稿した記事の一部分をご紹介したい。

自分は精神的に弱い、という強烈なインプットと、
それが元で引き起こしてきた自己否定の方が
私の人生に大きな影響を及ぼした気がする。

 ね、真面目でしょう。私が書いているとは思えないような生真面目さだ。
普通、ここに何かがつけいる隙きはない。しかし実際、このようにして、その単語は紛れ込んでいた。

自分は精神的に弱い、という強烈なインプットと、
それが元で引き起こしてきた自己否定の方が
私の人生に大きな影響を及ぼした気がするきようけん

 突然、登場する崎陽軒。しかも、ひらがなだ。これではまるで、崎陽軒が私に悪影響を及ぼしたかのようである。予期せぬ出来事に、崎陽軒の名物キャラクター、醤油入れのひょうちゃんも困惑を隠しきれないだろう。
 なぜ、こんな事が起こったのか。理由は簡単だ。

 一旦記事を書き終えた私は、パソコンから離れ、昼食を作っていた。その合間に、夫が、インターネットで崎陽軒を検索していたのだ。そのコピペが残っていて、記事を推敲している際に、何かの間違いで、貼り付けてしまったらしい。

 私はこれを見つけ、腹の贅肉をブルブル震わせて笑っていた。

「私の人生に大きな影響を及ぼした気がするきようけんw わ、私の人生に大きな影響を及ぼした気がするきようけんwww」

 私の数少ない長所は、こんなどうでもいいことに、たっぷりと時間をかけて、味がなくなるまで爆笑できることである。

 笑い続ける私を見ながら夫が言った。

「何も間違ってないでしょうお。崎陽軒は、我々の人生に大きな影響を及ぼしてるでしょう?」

 そうなのか?
 
笑いながら考える。確かに一度、私は崎陽軒の話をnoteに投稿している。私の中での焼売ナンバーワンは、551蓬莱の肉焼売で揺るぎないが、2位には崎陽軒がつけている。

 私が尊敬する東海林さだお氏も、崎陽軒のシウマイは、備え付けの楊枝を使って、つまらなそうに食べるべし、とおっしゃっている。
 だから、いつも、顔はつまらなそうに、心は楽しく、夫婦で崎陽軒のシウマイを食べている。おそらく、ずっとこのスタイルは続けていくだろう。

 我が家の焼売界において、崎陽軒が大きな影響を及ばしていると言って過言ではない。

私の人生に大きな影響を及ぼした気がするきようけん

 それにしても、知らぬ間にキレイに紛れ込んだものである。もし、このまま気が付かずに、この12歳の少女に救われた話を投稿していたらどうなっていただろうか。

 読んでくださった皆さんの頭の中は
「きようけん!?」
 
となり、内容が一気に吹き飛んだに違いない。

 危なかった。
 12歳の少女に42歳が救われる前に、崎陽軒に足元をすくわれるところだった。皆さんも、投稿前の推敲は綿密にされることを推奨したい。



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