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崎陽軒が輝いて見えた

あまり走らないでいると良くない。
私のことではなく、車のことである。
それならば、ちょいと出かけよう、ということになり、
我々夫婦はドライブに出かけた。

フードコートの他に、ラーメン屋や焼き鳥屋などが並ぶ施設に入る。
こういうところでの買い物は、普段の買い物とはときめき度が違う。
久々に楽しい買い物を楽しむ。

目に飛び込む崎陽軒の赤い看板、心が踊る。
シウマイとビール。いや、白ワインもいいな。
安い赤ワインも、中華と合うんだ。
特にシウマイは小ぶりでお酒のお供にピッタリ。むふふふふ。
よし、昔ながらのシウマイは決まった。
あっ! 久々にお弁当も買いたいぞ。
あの角切りのたけのこはお弁当じゃないとね~
弁当をどれにしようかが悩みどころだ。
うーーーーーん。

こういう時、私は惜しげもなく迷う。
食べ物で後悔したくない欲望がすごいのだ。
今日もいい食事だったと一日を終えたい。
そうなると、真剣である。
オーソドックスなシウマイ弁当か、チャーハン弁当か…

すると、横を、二人の女性が通り過ぎた。
お母さんと、成人してる娘さんらしい。
「あー、崎陽軒だー。崎陽軒もいいよねー」
娘さんが、歌うように言う。
お母さんが、穏やかに「そうだね」と笑顔で答える。
かなり微笑ましい。
「私、チャーハン弁当がいいなー」
また歌うようにそう言った。

私は、ずずい、とレジに歩み寄り、店員さんに言う。
「昔ながらのシウマイの小さい方と、あと、チャーハン弁当ください」

あの娘さんのご推奨とあらば、きっと後悔しないはずだ。
私は満を持して、店員さんから戦利品を受け取る。

パン屋の前を通ると、カレーパンの匂い。
カレーパンには空洞があるので、
上の部分を割って、溶けるチーズを入れると最高だな。
などと思いながら、チーズ入りのバタールをトレイに乗せる。
おやつのアンパンも忘れない。
すると、パン職人の若い女性が、
チーズバタールの焼きたてを、ナイフでカットし始めた。
私のは出来たてではない。
あー、しまった!僅かの差で、私は!私は出来たてを逃してしまった…。
なんと、なんということだ!

パン職人の女性が、一瞬、ピクッとして、恐る恐る後ろを振り返る。
そこには圧迫感極まりない熱視線で、切られたパンを凝視する私がいる。
「こちらを今、袋に詰めますから、どうぞお持ちください」
私のトレイに乗ったチーズバタールの袋をひょいと掴み、代わりに
ポン、と切りたてのパンを置いてくれた。

あなたには幸せになってほしい。

そんな願いを込めながら、お礼を言い、私は数種類のパンとともに、
レジに向かった。

「レジ袋はどうなさいますか?」

あ、持ってない。
2020年7月から、レジ袋が有料になった。
でもなんとか両手に抱えれば、車までは持っていけるかも。
私はレジ袋を買わなかった。
代金を支払い、何とか両手にパンを抱えた。
店外で待っていた夫に
「車に一旦戻らないと…」
と言いかけた時、
夫は、私の手から、ひょいひょいパンを受け取って
崎陽軒の袋の中に入れたのだ。
そういえば、崎陽軒ではレジ袋うんぬんは聞かれなかった。
いつものように、はい、と渡されたので、
何も考えず、はい、と受け取った。

今、崎陽軒の袋には、
一番下に、歌うような娘さんご推奨のチャーハン弁当、
その上に昔ながらのシウマイ、そしてその上に
幸せになってほしいパン職人の女性から受け取ったパンがいる。
そして、その後、
新潟県妙高市の名産「かんずり」の瓶までもが乗ることになった。
今日ほど、崎陽軒の懐の深さを感じたことはない。
そして、振り返る私の目には、崎陽軒の赤い看板が、よりいっそう
輝いて見えたのだった。

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