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ヨシコンヌフィクションヌ【詩と小説】

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ヨシコンヌが書くフィクションです。
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#よしこの作り話

ナオヤクラシマに、会ったのだ。

ナオヤクラシマに、会ったのだ。

「この掌の木片にどんな夢を見るか。

いいんだ、別に。

わからないのだろ?」

仰向けのままで薄ら笑いながら、

ぼそぼそと呟いている彼は

明らかに酔っ払っていた。

倉島直哉だ、とすぐにわかった。

この大学のシンボルである樹齢云十年の桜舞い散る中庭に、

陽の光の下で銀色に鈍く光る

でっかい鳥籠のインスタレーションを創った、

誰もが羨む才能を背負った、

あの、

ナオヤクラシマだ

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多胡修繕店【小説】

空を、雲が、覆っている。

指先の感覚が無くなるほど、寒い。
そして、上之ヶ原駅のホームには、相変わらず全く人気がない。
簡単な屋根と壊れかけた木のベンチがあり、そこにオレンジと深緑のスケッチブックを両手で抱えて、ぼぅっと座っている女がいる。
久留米桂である。
黒髪のワンレングスに色白細身、ロングブーツにジーパン、黒のタートルのセーターにアイスブルーグレーのダウンを上から羽織っている。田舎駅で見る

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櫻来記【小説】

櫻来記【小説】

今日のことを忘れないように、

なんて、

その時34歳だったお祖父ちゃんは云って、

未来の孫である16歳の私に

その桜の携帯ストラップをくれたのだった。

だから、私は忘れないようにこの日記を書こうと思う。

お祖父ちゃんはその頃からお酒に弱くて、
500mlのキリン一番絞りの缶を半分くらい飲んだところで
もう酔っ払っていた。
家から一番近いローソンにそれを買いに行って、
そのすぐ側の公園に

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ごたまぜのオレンジ 【小説】

ごたまぜのオレンジ 【小説】

煙草の煙をゆっくり吐き出してから、その人は云った。

「また新しい人が来たよ」

その人は小学生塾の理科の先生だった。
白衣がなぜかいつも薄汚れていて、
黒ぶちのめがねをかけていて、
ひげも生えていて、
髪もぼさぼさで、
完全におじさんだったけど、
笑うと、
その辺のいる男子と変わりがなく見えたので、
みんな、その人のことを
『リクちゃん』と呼んでいた。

「ささげはるかだよ、リクちゃん。知らない

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