Havana club

 北谷で仕事をてきぱきと終わらせ、バイクで向かうは南風原ジャスコ。ジャスコのリカーショップに行けば、目当ての酒が売っていることを聞きつけたからだ。
 でもちょっと待てよ、この近くに業務スーパー浦添店があったはずだ、なにせ那覇における酒の元締めみたいなところだから、ひょっとすると置いてあるかもしれない。
 まずは立ち寄ってみると、あった!! あるじゃないですか! 幻のキューバRum酒「Havana club」1260円。
 文豪ヘミングウェイがこよなく愛したキューバの銘酒 Havana club。いつも有難う、ワールド商会さん、ムチョ・グラシアス。

 やったね! 遠くまで行かなくて良かった! なんと今日はステキな日なんだ!「グアンタナメラ ぐあひや・グアンタナメラ~」と気分よく口ずさんでいたその時、すぐ横の別のRum酒が目に入り、その値段に目が釘付けになった。

 670円・・・ なんと Havana club の半分の値段。
 670円といえば、日頃愛飲する石垣の銘酒、泡盛「請福」900㎖ 環境にやさしい紙パックと値段も同じ。
 べつに670円以上も酒に払わないという不文律があるわけではないが、状態化したケチであることは否定しない。しかし、この価格はやはり企業努力の結晶、コストダウンの証、並々ならぬ地道な努力を評価せずに何を評価すれば良いのか。
 初志貫徹、幻のキューバの至宝、文豪が愛した一品にすべきか、それとも企業努力の結晶Rum酒にすべきか、握りしめた両手のボトルを見比べ、陳列棚の前でずいぶん考え、悩むに悩んで、そして買ってきたのは・・・

 それがこのRum酒「モナコ ラム・ゴールド Monarch Rum Gold 750ml」税抜き670円。

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 ビン詰販売元はアメリカオレゴン州。でも Product of the CARIBBEAN という、ころし文句にのせられついつい買ってしまった。
 よくよく考えれば、ラム酒を作れるのは、原料のサトウキビが豊富にあり、生産コストの安いカリブ諸国でしか作れないはず。とりあえずカリブ海諸国のRum酒であれば、それほど気にすることもない。

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 酒ならいつも飲んでいるけど、Rum酒はあまり飲む機会がなく、実はよく知らない。先日、Lineグループ上の会話でキューバの話題が出たので、Rum酒が飲みたくて、いつしか忘れていたら、誰かが「今これ飲んでま~す」と、Havana club の画像をUPするもんだからついつい。

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 30代前半にカルフォルニアに移住、運よく日本食レストランでの仕事はありつけたが、でも想像以上に激務、くたくたに疲れ果て泥のように眠る日々が続いた。一日で最も忙しいディナーの合間に車中でとるわずかな休憩が、唯一自分を振り返る時間となった。
 勢いに任せてやって来たアメリカでの生活、職にも就けたが、体力が及ばず、いつまでも続けられる仕事ではないことはよく分かっていた。でも、ここを辞め何をするか、自分に一体何ができるのか、アメリカに残るべきか不安が常によぎる。

 同じ店で働く中南米からの移民のバスボーイが、ひとり休憩中の車中でつぶやくように歌っていた。
 「Guantanamera Guajira Gantanamera, グアンタナメラ、グアヒーラ・グアンタナメラ」
 辺りはひっそりと静まる駐車場の片隅、彼の澄み切った歌声は、ひんやりとした夜の空気の中なお一層と透明感を増す。

 レストランで働く中南米からの殆どの人々が同様に、故郷には仕事もなく、生命が常に脅かされる劣悪な環境から逃れるため、強制送還を顧みず国境や数々の検問を越え、何度も危険な目に遭いながらも、ここまでたどり着き、ようやく仕事を得たに違いない。それでも、ここは彼らにとっていつまでも安住の地ではない。

 バスボーイの彼とて同じ境遇であろうと容易に推測でき、慣れない環境、店に来たばかりで友人とておらず、英語も話さず、わずかな休息に、遠く離れた故郷に残した家族を想う歌なのか、やさしく語りかけるようにスペイン語のフレーズを繰り返えす。
 なぜか、アメリカから帰国してずいぶん経つのに、そのフレーズだけは脳裏からいつまでも離れない。

 彼が口ずさんだその歌は、キューバ市民ならだれもが知っている国民歌謡、キューバ革命後祖国を追われ、離れ離れになった人々の心の唱、帰るにも帰れない祖国を想う人々の唱であることを、後で知った。

 Rum酒は買ってきたけど、いくら飲んでも、あの車中で聞いた澄んだ彼の歌声はもう聞こえない。




旅は続きます・・・