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⑥ 運動はめんどくさい。でも死にたくないから。

 さて、ものごころついた頃から運動が嫌いで、運動を避けて生きてきた私が、一年以上ジム通いを続けているというのは、かなり画期的なことだ。

 ジムに通っていると、何度か「体験」の人を見かけた。入会前、トレーナーによってジムの案内をしてもらい、トレーニング器具などを体験する。これは無料だ。「体験」らしき人の中に、私のように、私以上に、太っている人たちがいた。けれど、ほぼ、そういう人たちは、「体験」後、見かけなくなる。
 わかるよ! わかる! と、言いたくなる。
 運動なんて、しんどい。どうせ続かない。ジムの雰囲気が嫌だ。太っている自分を見て「デブが痩せようとしてる」なんて目で見られるのが耐えられない……。
 何より、それまで運動と無縁で生きてきた人間のジム通いは、相当にハードルが高い。
 日常的に運動している人間からすれば、想像がつかないほど、難しいことなのだ。ただでさえ、みんな家事や仕事で忙しいのだから。

 私だとて、病気のことが無ければ、すぐに挫折していただろう。

 それでも最初はかなりつらかった。何よりめんどくさい。夏は暑いし冬は寒い。
 そしてやはり「デブが痩せようとしてる」と周りに見られているんじゃないかと自意識過剰を発動させ、ビクビクしていた。
 しかし実際はみんな、ほとんどの人が黙々とトレーニングしていて、他人のことなんて見ていないのが、わかってきた。

 ジムの客層は、平日の昼間は高齢者が多い。夜になると学生や会社帰りの若い人たちが増えてくる。
 高齢者は、おそらく私と同じく、病気か老化を防ぐためだろう。
 死にたくないから、運動する。命がかかっているから、人の目なんか気にしている場合じゃない。
 私も高齢者と同じ感覚だ。
 なんたって、私は立派な中年の病人なのだから。

 

毎朝測る、体組織計。入院するまで、何年も体重測っていなかった。

 とりあえず、筋トレも有酸素運動も、3ヶ月やれば変化はあるからと聞いていたので、3ヶ月は続けようと思ってやっていた。頻度は週に2度か、3度だ。
 筋トレは合間に休養日をもうける。有酸素運動(私の場合はランニングマシーン)は、できるだけやった。
 そうして3ヶ月が過ぎた頃、身体の変化が起きるのと同時に、「つらい」と思わなくなった。いや、正直、今でも毎日「めんどくさい」とは思っている。そんなにウキウキ「楽しい!」とはならない。
 ただ、身体を動かすことにより、心のもやもやが楽になっていく感覚を覚えた。

 何か鬱々としていて、無理やりでもジムに行き、有酸素運動をすると、「ネットを見ない」「身体を常に動かす」「汗をかく」という行為は、すごく気持ちを楽にしてくれる。
 めんどくさいのはずっとめんどくさいけれど、今は「心を軽くするため」に、運動をしている。一番のストレス解消になっている。

  以前も、仕事のプロットが浮かばないときなどは、外に歩きに行っていた。部屋で悶々としていても、ついSNSなどを見てしまい時間が経ってしまうだけだった。えいっと外に出て、特に夜、神社などに行ったりと歩き回ると、ふとアイデアが浮かんでくることがある。身体を動かすことは、どうやら脳も動かせるらしい。元来ネガティブな人間であるからこそ、今は身体だけではなく、心の健康のために、運動をしている。

 「筋トレすると鬱にならない」みたいな記事も、ネットではよく見かける。しかし、本当に鬱になった場合は、もう動けない、筋トレどころじゃない、何もできない。鬱を筋トレで克服! する以前の話だ。
 ただ、日常的に運動することによって、心が沈み込むことを防げるかもしれないとは、今痛感している。毎日落ち込みそうになり、毎日運動で心を引き上げる。
 それでも「元気! ポジティブ!」になれる人間ではないが、とりあえず平穏な心を保ってはいる。

 ひとつ、明らかにメンタルの面で改善されたことがある。
 睡眠薬が減ったのだ。以前にも書いたけれど、私は毎月、精神科で睡眠薬を処方されていて、それがないと眠れない。
 ただ、運動するようになって、薬が一錠ではなく、半錠で眠れるようになった。できたら、薬無しで眠れるようになりたい。

 嫌なことがあったり落ち込む際は、昔は食に逃げていたけれど、今はジムに逃げている。

  ほぼ毎日運動して、一年が経ち、よくやったな自分とは思うけれど、誰に褒められるわけでもないし相変わらずめんどくさい、ダルい……と、ジムに行く前にはグダグダして時間を無駄にしてしまうのだが、とりあえず今は私は運動を「日常」にすることができたようだ。時間があると、ジムに行かないと落ち着かない。
 それでも効果がなければ、続けられはしなかっただろう。
 ゆるゆるではあるかもしれないけれど、一年で十キロ痩せたという「効果」だけが、私のモチベーションの元となっている。

 最近はフィットネスジムの種類も増えた。値段もずいぶん安いのがある。以前は「ジム高い」と昔は思っていたけれど、マメに行けば元はとれるし、何より病気になり入院費やその後の薬代のことを考えれば、健康のためには安いものかもしれないと今は思っている。あと地域によるけれど、公共のトレーニング施設もある。

  とはいえ、運動嫌いにとっては、ハードルが高いことも、じゅうぶん承知しているから、強くはすすめない。
 私だとて、死にかけなかったら、ジム通いなんて、永遠にしていなかった。

 それぐらい、運動はめんどくさい。



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