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バーキーと呼ばれた私 ~21.ちょうどいい距離感~

 都会から離れた海は、この世の楽園ともいえるコバルトブルーの輝きを放っていた。浜辺には沢山の男女で溢れていた。ビーチパーティーにはキャバ嬢らしき女やガラの悪い男達であふれていた。ガラの悪い男達の中には何人かイケメンがいたので、カオリは少し興奮した。
 昼間はバーベキューしながら、マリンスポーツを楽しんだ。夜は少し移動して森林の中にあるペンションに泊まった。ペンションの大部屋に入り、再び料理を広げて宴会を始めた。

 宴会の途中、一人の男がスーツケースから透明のビニール袋を取り出した。中から乾燥したアオサみたいな草が大量に出てきた。すると男は自分のタバコを1本取り出したあと、タバコの筒の途中をつまみながら、中の葉を全て捨てた。空になったタバコの筒に"アオサ"を詰め込み、それに火をつけてタバコみたいに吸い出した。

『リエ、アレ何?』
「え?カオリ知らないの?マリファナだよ」

 なるほど。カオリはすぐに納得した。デリヘルで呼ばれた時にたまに嗅いだ事がある匂いだ。そうゆうお客さんに限って異様にテンションが高かった。

「マリファナは覚せい剤とかに比べたら全然マシだよ、合法な国もあるし。あ、カオリは無理してやらなくていいよー」

 そう言ってリエは鞄から自前の紙巻き器を取り出し、慣れた手つきでマリファナを包み始めた。そして出来上がったタバコに火をつけて気持ち良さそうに吸った。興味を持ったカオリは一本だけ吸ってみる事にした。吸った瞬間は別に何ともなかったが、段々と感覚が研ぎ澄まされてくのがわかる。フワフワした感覚だ。しかし、すぐに気分が悪くなり、自分の部屋に戻り横になった。頭が破裂しそうだ。酷いこと、ネガティブな事ばかり頭に浮かんでくる。涙が出てきて、カオリは何回も嘔吐した。怖くてベッドの中で震えてた。10時間はそれが続いてたと思う。その時、一人の男が部屋の中に入ってきた。

「バッドに入っちゃったね。大丈夫、朝になれば落ち着くよ」

 "セイヤ"は他の男たちと違い、中性的で変わった雰囲気を持っていた。カオリが嫌悪感に見舞われる中、セイヤはずっと背中を摩って気持ちを落ち着けてくれた。気が付けば朝になっていた。

「おはよ。昨日は大変だったね。初めて?」
『あ、おはようございます。昨日はありがとうございました!はい、初めてです…もうやらないかな?』
「合う人と合わない人いるからね。俺も初めてやった時にすぐバッド入ったから、もう"大麻は"やってないよ」
『そうなんですね〜、アハハ、一緒だ』
「一緒だね。でも目が覚めたら気持ちいいでしょ?」
『うん、いい気持ち』

 そう言ってセイヤはカオリの髪を優しく撫でてきた。カオリもセイヤの頬を触り、そのまま顔を近づけた。リエが爆睡してる横で、カオリ達はささやかで淫らな朝を過ごした。

 セイヤはプロのサーファーで、普段は練習しながら月に数回サーフショップのプロモーション活動をするという悠々自適な生活を送っている。年はカオリより7個上。カオリは帰る場所がない事を伝えると、うち来なよと言ってくれた。セイヤはちょうどいい距離感でカオリに接した。束縛は一切ないが、夜は情熱的だった。

『セイヤさん、大好き!愛してる!』
「俺も好きだよ…カオリ…」

 カオリが望んでた最高の快楽を提供してくれる。例えそれが"抱いてる時だけの好き"でもカオリは充分に満たされた。セイヤはいつも全力で、終わった後はいつも死体のよう朽ち果てていた。




───────

 それからカオリはセイヤの家に入り浸り、気付けば半年が経っていた。家には一度も帰ってない。我が子が全く気にならない訳ではないが、それ以上に母親と会話するのがアレルギーだった。電話すらしていない。ただ、子ども達とは妹を通じてこっそり会話していた。

「ママ、いつ帰ってくるの?」
「・・・もう少ししたらね。ばぁばには内緒だよ」

 いつもこのやり取りだった。この時だけは母の顔になるも、セイヤの前になるとすぐに女の顔に戻る。セイヤもカオリが子持ちである事を知ってるにも関わらず、ずっと家に居させても何も言わないし散策もしない。ヨウスケとは大違いだった。このギャップがよりカオリを惹きつけた。

 もうこのままセイヤと一緒になって第二の人生を歩みたい、カオリはそう考えていた。しかし、心の奥底で寂しさがあった。セイヤは身体の相性も良いし束縛もしない。ヨウスケみたく真面目にやれとも言わないし、派手な服装で倉庫の仕事行くと言っても全く疑わない。こんなに最高な物件はない。しかしカオリは物足りなかった。心の奥底から愛されたい。

 そんなカオリの前に、再びアイツの影が現れた。

にふぇーでーびる!このお金は大切に使います!