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【#4】いつも窓際の席で。

窓際族だった僕。逃げるように転職&移住した先で、行きつけの喫茶店が出来る。世にも珍しい、一見さんお断りの喫茶店。ここでは、喫茶店の常連客で、ある学校の先生のお話を、窓際族目線(?)で紹介します。日々学校で奮闘されている先生方の、心のゆとりに、少しでも繋がれば嬉しいです。

■登場人物
僕・・・元・窓際族
マスター・・・行きつけの喫茶店のマスター
アカンちゃん・・・学校の先生。口癖は「もうアカン」


ここは、一見さんお断りの喫茶店。

この喫茶店には、コーヒーが飲めないのに、コーヒーへのこだわりが強いマスターと、社会的立場や背景も異なる多様な老若男女が集う。

カランカラン。

喫茶店のドアが開き、今日も誰かが入ってくる。

この喫茶店に足繁く通うようになった僕は、ある時から自然と喫茶店に来るお客さんを分類できるようになった。

カテゴリーごとに紹介しよう。

  1. 仲良く二人で来店する素敵な老夫婦

  2. 友だちを連れてきて、世間話を展開するマダム

  3. カッコいい革ジャンとイカついグラサンをかけ登場するライダーのオヤジ

  4. ちょっとお疲れな様子で、完全オフ状態な子連れサラリーマン

  5. 本を片手に静かに入ってくる若者

  6. いかにも誰かに愚痴を聞いてもらいたげな女性

最後はお馴染みのアカンちゃんのことである。

何度か同じ時間に居合わせると、お互い顔見知りな関係になるが、僕は決して自分からは声をかけない。

自分から話しかける勇気がないだけのでは?と言われれば反論の余地は全くないが、あえて自分のポリシーを話すなら、あまりその方の時間を邪魔したくないのである。

この喫茶店に来る方の理由は人それぞれ。

ただ美味しいコーヒーを飲みたい人もいれば、日常の喧騒を忘れて、非日常な空間でリセットしたい人もいるわけで。僕だけでなく、ここに通う他の人にとっても、この喫茶店が大事な場所であるために、その方のひと時を守ってあげたい。そう静かに思っている。

そういう自分も、毎回必ず窓際の席に座り、コーヒーを片手に窓の外の景色をぼーっと見るのが、誰にも邪魔をされたくない最高のひと時なのである。

たまにマスターから声をかけてもらうこともある。

マスター「もしかして最近、コーヒーの趣向変わってきてない?」

僕「ええ。前は深めの渋いコーヒーが好きだったんですけど、最近は違うんですよね。どちらかというと苦くなくて、フルーティなコーヒーを飲む事が多いです。」

マスター「おお、それはいい事だね。健康的な証拠だ。」

一瞬、そうなのか?と思ったが、そうかもしれないと思い至った。

前職を逃げるように転職し、田舎へ移住して、もう2年くらい経つ。

外食ばかりだった食生活が変わり、自然に囲まれたきれいな空気をいっぱいに呼吸し、休日には行きつけの喫茶店でリフレッシュしている。

そんな生活をしていると、ストレスを抱える事がなく、気持ちも前向きになっていくものだ。

この2年で休息は十分できた。さあ、これからが再スタート・・・かな?


カランカラン。

喫茶店のドアが開き、また誰かが入ってくる。

今日は少し遅めの登場、アカンちゃんだ。

妊婦のアカンちゃんは、すっかりお腹が大きくなっている。
アカンちゃんは、自分のお腹を抱えながらゆっくり入ってきた。

アカンちゃん「こんにちは。お久しぶりです。」

マスター「久しぶりだね。すっかりお腹も大きくなって。順調?」

アカンちゃん「はい、とても順調ですよ。最近だと、お腹の中でピクンピクン動くんですよ笑」

マスター「元気だね。さて、今日は何にしましょうか?」

アカンちゃん「久しぶりにカフェインが飲みたくなっちゃったので・・・姫(カフェオレ)で。」

マスター「カフェイン飲んじゃって大丈夫?」

アカンちゃん「知り合いの助産師が、気にせずガバガバ飲んでたって聞いたので少しだけカフェインを注入しちゃいます笑」

マスター「それなら、なんか安心だね。」

久しぶりに見るアカンちゃんは、どこか寂しそうに見えた。

僕はこれ以上、彼女を見続けるのは彼女の時間を邪魔するかもしれないと思い、最近買ったばかりなのに妻に似合わないと言われてしまった青い鞄から、iphone13proとairpodsを取り出し、音楽を聴くことにした。

ボブ・ディランの『Blowin'The Wind〜風に吹かれて〜』

この曲を知ったのは、伊坂幸太郎さんの『アヒルと鴨のコインロッカー』だった。その本に登場する、愛する人を亡くし復讐を試みたブータン人。どうすることもできない苦痛を抱えながらも生きていく姿に心を動かされた記憶がある。

あの時に戻りたい。亡くなったあの人にもう一度会いたい。

そういったどうすることもできない苦痛を抱えていると時々、時間が前にしか進まないことに、残酷さを感じることがある。

でも、ボブ・ディランがこの曲で教えてくれているように、答えは風の中にあるのだ。一度落ち着いて、風の声を聞いてみよう。

そんな前向きなことを教えてくれるのがこの曲だと思っている。


アカンちゃん「マスター、私、来月には産休に入るんです。」

アカンちゃん「もう既に担任も変わってもらっているんですけど、やっぱり生徒たちの成長を近くで見届けられないのは、寂しいですね。」

マスター「そうだろうね。でも、また戻ってくるでしょ?」

アカンちゃん「もちろんです!10代の成長は、とても早いですからね。成長した姿の彼らと再会できるのも、今からとても楽しみです。」

アカンちゃん「私ね、決めてることがあるんです。最後まで生徒たちにとっての厳しい先生でいようと。最近は、私の周りには、怒らない先生が多いんですよね。私は、嫌われちゃうかもれないですけど、生徒たちの成長のため、怒ってあげる先生でいたい。」

マスター「良いね、あなたらしいよ。」

アカンちゃん「先日もある男子生徒が、Whenの品詞がわかりませ〜んってふざけた感じで言ってたんですよ。その子のために私が何時間も付き添って説明した部分だったのに。。わからないならまだしも、私の努力や気持ちを無視してふざけて言ったのに腹が立って、怒りました笑」

マスター「先生も人間だから怒ることもあるよね。良い勉強だったんじゃないかな。」

アカンちゃん「だと良いんですが。。」

アカンちゃんはマスターに挨拶をして、いつも通りに帰って行きました。

最後まで自分のポリシーを持ち続けようとするアカンちゃん。
やっぱりカッコいいよ。産休までの間、頑張って。

そう、僕は心の中で呟いた。

窓の外を見ると、もう稲が夕日に照らされて黄金色に輝いて見えた。

「黄金色の稲」 撮影日:2022/09/12

皆さんのお近くに、学校に行けずに悩んでいる方がいたら、ぜひ、この記事を読んでいただけると嬉しいです。

拙文ですが、自己紹介もさせていただいています。よかったら、ご覧ください!

エッセイ処女作『いつも窓際の席で。』はこちらからまとめてご覧いただけます。



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