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はまぐり随想録(3) 食べること・健やかな食とは

 はまぐり堂のnoteで最初に連載したマガジン「ネイティブ・ジャパニーズからの贈り物」の中でも詳しくご紹介した、東北の民俗学者・結城登美雄ゆうきとみお先生も、「そもそも健やかな食とは何だろう?」という私の問いに大きなヒントと発見を与えてくれた方である。

 結城先生といえば、「食の文化祭」の発案者でもある。地域のお母さんたちが各々家庭で作っている手料理を会場に持ち寄って展示・試食することで、その地域にどれほど多種多様な食材があり、どれほど豊かな食文化があるのかを可視化・再評価しようという試みは、東北をはじめ全国各地で開催された。

 この「食の文化祭」にまつわるエピソードは結城先生の執筆されたものの中に数多く記されており、どれも本当に心揺さぶられるのだが、そんな中でも、いまだに私にとって印象深く心に残っているお話がある。
 それは、ある地域で開かれた「食の文化祭」で展示された、おばあちゃんが孫のために作ったピザのお話だ。

 その手作りピザは、野菜嫌いの孫が食べてくれるように、孫の大好きなポテトチップスを上にまぶして作ってあった。
「ポテチなんて体に悪いものを乗せていいのか」
「ポテチ入りでも、地域の食文化なのか?」
 そんな声も聞こえてきそうな一品だけれど、結城先生はそのエピソードに、「そうやって工夫して、孫に野菜を食べてもらいたいと思ったおばあちゃんの心。孫が喜ぶ顔を思い浮かべて作った料理。それが本当のご馳走じゃないか」というような言葉を添えられていたと記憶している。

「健やかな食って…?」と考えあぐねていた私は、このエピソードにハッとさせられた。
 もし健康食の実践に没頭していた頃の私がこのおばあちゃんの娘だったら、「これは体にいい」「これは体に悪い」という栄養的な面だけを見て、「ちょっと、おばあちゃん!こんな体に悪いもの乗せないでよ」と苦言を呈していたかもしれない。
「孫に野菜を食べさせたいな、でも嫌々じゃなく、好きなものと一緒においしく食べてもらいたいな」と思うおばあちゃんの気持ちをないがしろにしてしまったかもしれない。

 食べるということの良し悪しは、単に栄養摂取の面だけでは測ることができないのだ。誰かを思って料理する気持ちだとか、誰かに作ってもらった料理の思い出だとか、「おいしい」と感じる感覚だとか、そういう様々な心のやりとりや感覚も、大切な「食」を構成する要素なのではないか。

 おばあちゃんの愛情に勝るものなし。
 孫は大人になったとき、「小さい頃おばあちゃんが作ってくれたポテチピザ、うまかったなあ…」と思い出すに違いない。

 このエピソードに出会ってから10年以上経つ今も、私はこのおばあちゃんのお話を、食の仕事をする上でとても大切にしている。




\お知らせ/


角田尭史さんのラジオ番組にゲスト出演させていただきました。
「そもそも食べるとは?」というテーマで楽しく対談させていただきました。
テーマの振り返りを書いてくださった記事がこちらです。


ラジオの公開は1/20頃になるそうです。どうぞお楽しみに!



執筆担当:亀山理子(はまぐり堂スタッフ / ネイティブ・ジャパニーズ探究家)1986年生まれ。早稲田大学教育学部学際コース、エコール辻東京フランス・イタリア料理マスターカレッジ卒。宮城県牡鹿半島の小さな集落・蛤浜に暮らしながら、はまぐり堂スタッフとして料理・広報・執筆などを担当。
【はまぐり随想録】
自身の「食と、生きることの探究」から見えてきたこと・浜で暮らす中で考えたことなどをざっくばらんに綴ります。

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