「文学フリマ京都8」(2024/01/14)で買った本
親族の住む京都。
前乗りできる京都。
はじめて、東京以外の文学フリマへ
行ってきました
買いすぎました
東京の文フリで買った、宗谷圭(若竹庵)さん 『すみません!この駅、トイレは洋式ですか!? ~京都市営地下鉄で各駅のトイレを調べてみた本~』を、持っていこうと思ってたのに忘れていったのが痛恨の極み。実用のチャンスが・・。
買えばよかった本
『鍵のかかった文芸誌』
様々な職種の方たちが、「鍵をかけて大切にしまっておきたい」物語を書いた本、とのこと。下世話な話ではなく、色んな創作がこの意匠に閉じ込められているようだ。すべてのページに鍵穴をパンチして、鉄のカギで実際に閉められている。
うおお4500円。
と思って躊躇してしまったけれど、コンセプトとデザインを合致させて綺麗な本。詳しい説明はリンク先に。
買った本
詩を綴じたジャバラ本 『スーパーボール』
自作の詩と絵を、ジャバラ状の綴じ本にした作品。
詩を手製本にするのは聞くけれどジャバラ形態は珍しいなあと思い、どこからの発想ですか? と訊くと、これが
レバノン出身のアーティスト、エテル・アドナンのジャバラ本から、とのこと。
こういう知らないことに出会えるから楽しいよなあ。
何作かあったのだけど、スーパーボール、という題にジャバラのビヨーン感が合ってる感じがして、これにしました。
『翻訳者、豊崎由美と読んで書く 1号』 BOOKPOT編集部
エッ書評家の豊崎さんが翻訳デビュー? と勘違いする人はいないだろうが、ふだん翻訳者をしている人を対象に開かれた書評講座の記録本です。
なんでも、翻訳者が必ず書かなければいけない「訳者あとがき」を上達したくて企画を始めたとのことだった。
しかしこれを読んだあとに紹介を書くハードルの高さよ。
全体としては、受講生による書評と、それに対する豊崎さんのコメントを含めたディスカッションの様子を収録し、講座を再現している。合間にいくつかコラムあり。
書評はすでに上手いのだけど、そのうえで指摘される事項が、ふだん読み流している「プロの書評」がどれだけ練り上げられたものかを知らせてくれる。
例をいえば、掲載媒体を決めて書くこと、対象とする読者への意識、掲載レイアウト=1行ごとの折り返しも勘案した文章にすること、楽をするためのカッコや一行アキはダメ、いいあらすじはそれだけで成立する、でも”もう読んじゃった感”を生まないための我慢、作品の勘所を読み込むこと、書きたいこと・作品の伝えたいことをすべて書いたうえで泣く泣く規定字数まで削る、この推敲が書評も自分も磨くのだ・・等々。
全編の読みやすさは抜群。講座を冊子にするうえで、さすが言葉を仕事にする翻訳者、参加者全員が文章の直しにうるさかったと書かれているので、その甲斐あり。
例えばディスカッションパートの編集を見ると、受講者側が「れび」と「ゆう」の2人だけ、豊崎さんを入れても3人しか登場しない。え、少ないな・・? と思ったあとで気づくと、名前が「レビ ュー」さんである。
つまり、発言者名は省き、出た意見だけを整理してリーダビリティを上げているわけだ。
と、言ってもらえる文章まで達することがまず目標ですね。。。
『ノーベル文学賞 候補作家を読む 受賞作家も読む 2023』 ノーベル文学賞を見守る会
と、イエモンの名曲「JAM」を引かなくとも、あらゆることにおいて「日本人が絡んでいたか/否か」の観点でしか報道されない事象は多いです。こちとら日本人と聞けばそりゃ気にはなるけど、そうでなくともニュースバリューってあるんじゃないの? と思うわけです。
とくに「ノーベル賞」ともなれば、どの部門も、世界規模に先進的・重要なことを評価する賞なんですから。
こちらは「ノーベル文学賞を見守る会」が編んだ、40作品を超す”ノーベル文学賞候補かもしれない”作家の作品レビュー集。
”かもしれない”と書いたのは、あくまでもブックメーカー=賭け屋のオッズ表や評判をもとに選んだものだから。実際の選考経過は50年後にならないと発表されないルール故。また、オッズの付いていない作家も独自で採り上げています。
2020年から毎年発行して、今回でもう4冊目。
日本語で手に入る作品のレビューを主に、たまに英語原書や英訳本も掲載している上級本。読むなあ。2作採り上げている作家もあり。
ノーベル賞の拠点であるスウェーデンの新聞の文芸欄を購読してみた、という企画もあり。
そんな本気の世界文学レビューのなか、「ChatGPTに訊く」という実用性皆無なコーナーまで収録しているのが楽しいところ。詰問されると自白するChatGPTの嘘つき小市民ぶりもご堪能いただけます。
本書が参照したブックメーカーは
ナイサーオッズ(Nicer Odds)とラドブロークス(Ladbrokes)。
発表は10月なので、毎年8、9月ごろになったら、チェックされてはいかがでしょうか。
そして肝心の、
2023年受賞者は・・・!
予想、当たってました。すげえ。
『いとしの文豪』1,2 Cocoro
破天荒エピソードには事欠かない明治~昭和期の文豪をマンガ化した作品集。4コマあり、ギャグ調な文壇エピソードあり、シリアスあり。
1巻は太宰治、2巻は中原中也のそれぞれ破滅的な晩年がメインエピソードとなっていて、1巻冒頭は太宰と中也の酒場での喧嘩「モモノハナ事件」から幕を開けるので、2冊合わせて円環が閉じる感じですね。
とくに中也は1巻の登場から、つぶらな瞳・小柄な体を持ちつつ泥酔の絡み酒で全員にケンカをふっかける。最もマンガ的キャラとして登場していただけに、その身に背負いこんだ人生を2巻で読むと、染みます。
若くしての長谷川泰子との同棲から、小林秀雄との三角関係、奪われ、精神を病んだ泰子が小林に捨てられ、別の男との間にできた子を中也が可愛がり・・やがて中也は新たな女性と結婚し、溺愛した我が子を小児結核で亡くし、自らも30年の生涯を閉じていく・・。
ほかに、太宰治のイメージを決定づけたあの”バーカウンター写真”を撮影した林忠彦のエピソードや、檀一夫、太宰に私淑した田中英光、織田作之助、太宰を慕う会に出席し直接批判した三島由紀夫、亀井勝一郎、大岡昇平などなど。
同時代を生きた多数の文人が登場し、文豪・文壇好きにはたまらないマンガ。巻末の膨大な参考資料リストも納得です。
『台湾的旅遊風景 -あのバスの行き先は何処へ続いているのだろう編-』 千屋通信所
台湾を色んな側面から冊子化しているサークルさんの、バスを目的地で降りず、最後まで行ってみた本。
終点はなかなかに終点で、風が吹きすさぶ景色だったり、観光地ではない台湾が映されている。
とはいえ、いきなり上級編から入ってしまったか・・。
丁度台湾の総統選後だったので、いやあどうなりますかね、と意見を伺えたのが楽しかった。詳しい人っていいなあ。
『疫神病除の護符に描かれた 元三大師良源』 疫病退散!角大師ムック編集部
表紙を見た瞬間に「買う!」と決めていた本。
わたしは三鷹辺り~武蔵野で学生時代を過ごしたんですが、町なかで留まっていた自転車の後ろに、ある日このステッカーを発見し、驚いたことがある。
怖いよ!
なにが交通安全だ。後ろから煽られませんってことか。
それ以来「恐怖!カマキリ男ステッカー」の謎はわたしをとらえ、片時も離れることはなかった。完全に一体化していたと言ってもいい。存在を忘れるほどに。
そこへ来て本冊子の表紙だ。買わないわけがないじゃないか。
読んでみれば正体はカマキリ男ではなく、鬼だった!
それも時は平安時代、西暦984、永観2年。お坊さんの良源(りょうげん)さんが疫病の流行るなか、眼前に現れた疫病神を体内に獲り込みながら祈祷を続け、鬼の様子に変化したさまを弟子が描いたもの、だというのである。
そしてアマビエと同じく、人々に配りなさい、と良源さんが命じたのだそう。
これ以来「角大師(つのだいし)」の名を持ったこの札は、良源の治めた比叡山延暦寺ほか、故郷の滋賀県長浜市、岐阜県、そして調布市深大寺にも届き、世に厄除けと商売繁盛を届けているのだという。
比叡山では966年(康保3年)~985年(永観3年)1月3日に入滅するまでの20年間、第18代天台座主。別名の「元三大師(がんざんだいし)」は、正月3日に亡くなったことによる。
また、京都に創建した蘆山寺(ろざんじ)は、境内が紫式部の邸宅跡にもなっている。
2020~2023コロナ禍からの、2024大河ドラマ。歴史の交錯どころです。
『わたしの出版体験 自費出版の事例 & 著者の声』 サンライズ出版
これは上記『元三大師~』のおまけというか版元による宣伝冊子なのだけど、こうしたイベントに出入りして「同人誌」「自費出版」の区別がよくわからなくなっていたところへ、違いを再認識させてくれるものだった。
自費出版は、編集者とデザイナーが付いてくれる。
これだ。
これは大事!!!
同人誌ばかり眺めているとつい「デザインも自分でやったんですか?すごい!」とか「よくひとりでここまで!」などの褒め言葉を弄してしまうけれど、どうだ。
ひとりでやる必要はどこにもない。
やりたい人はひとりでやる。仲間とやる。ちがう人は、自費出版。経費は掛かるだろうが、その道のガイドたる編集者が帆走してくれるわけだ。
こちらには7つの例が挙げられていて、集落で発行したミニコミ誌の、愛犬が語り手をしたコーナーをまとめたもの・・追悼出版・・や、がっつり地域誌・聞き書きの本や、なんと朝日新聞で斎藤美奈子さんに採り上げられたという小説まで。
利用者の〈配っても読んでもらえない本では意味がない(略)見積りをお願いした時に、あわせて提出していただいた原稿の修正例と見本ページがすばらしく〉(p.7)という感想からも、書きたい内容を抱えている人へ、うまく自費出版のノウハウがリーチすればいいなと思ったのでした。
『26歳計画』 椋本湧也・編
わたしはいま、35歳。
あてもなく読書ブログを書いている。
本の目利きを気取っているわけじゃないけど、
自分が読んだ本を、その感触を、誰かに手渡せたら
それって素敵だと思いません?
この本の編者・椋本さんには、去年初めてお会いした。
急にnoteにスキがついて、プロフィールを見ると
10日後くらいの日付で〝「文学フリマ」前夜祭〟の
お知らせがピン留めされている。
僕はまんまと、それにつられたわけだ。
イベントはとても素敵だった。
zineを作ること、思いをカタチにすること。
カタチになった思いを、相手に、買ってくれる人まで
確かに届けること。
それは恐れず、自信をもって、胸を張って。
この本は
当時26歳のひとびとが
「26歳」をタイトルにした文章を自由に書き、
「魅力的」と思う26歳の知り合いにつないでいった
その記録だ。
椋本さんは沢木耕太郎さんのファンで、旅好き。
『深夜特急』の旅が始まった26歳
”旅の適齢期”を迎えたまさにそのとき
コロナ禍に見舞われてしまった。
そうして生まれたのが、この本、ということ。
ある26歳が「魅力的」だと思った26歳が、
また「魅力的」だとバトンを渡す。
そうして旅がはじまる
みんなの語りがあつまっていく。
いろんな言葉があった。
いろんな経験をし、自分の無力さを知り、本当は何が
したいのか自問し、ひとの暖かさに触れ、強い思いを
持って自分の人生を歩みだす、
まだまだ足りないけど、自分はこうしていこう、
ユーモアも大事、ひとりだけの時間も大事、
わたしはいま、ここに、こうしています。
新聞の、大企業の新卒募集の、一面広告の、
行を空けて
初々しいスーツ姿の若者が、光の照り返しを
受けている写真に添えられたような。
みんな、とても上手な文章で
総合的な自己肯定感
人前に出せる、その下支えと
本は、多様な読みかたがひらかれている
だから、
編者の示したものだけが
この本の行き先ではないはず
だから私は言うんだ
「うるせえ本だなこれは」
※補足1,2へ
『この同人音声がすごい!』(2022年版)
『この同人音声が聴きたい! vol.1』
『この同人音声がすごい! 2023』
「ASMR」って、ご存知でしょうか。
数年前ブームになった、簡単にいえば「耳が気持ちいい」音のこと。
耳から入る音を臨場感もって再現できる「バイノーラル録音」技術と共に発達し、ささやき声やおかきの咀嚼音などがなぜか心地いい。今やYouTubeなどで、安眠ASMRはすっかり定着したコンテンツになりました。
焚火もおそらくその流れの中。下のは、いかにもなASMR。
その、一方で。
ここ数年、ファン及び製作者を爆発的に拡大していた界隈がありました。
それが本書で採りあげる「同人音声」界隈。
ASMR同様、バイノーラル録音を主軸にして、もちろんASMRの作品もあります。
しかし多くはその「臨場感」=その場にいるかのような感覚を元にして、
主人公=聴き手となるような、聴覚でのVR体験ができる作品が多数製作されています。
と聞いて、
「同人音声って、なんかエッチなのばっかりなんでしょ?」
と、お思いのかたがいたら。それにはキッパリ反論が2つあります。
まず1つは、
予想を超えた力作・感動作があり、そのクリエイター魂、クラフトマンシップに必ず驚くだろう。ということ。
もう1つは、
「なんかエッチなの」ではなく「どエロい」のが山ほどあるということ。
・・・
後者は置くとして、本シリーズは同人音声のガイドマップとして、2022年12月の冬コミより毎年定期刊行の予定。
某宝島社のパロディタイトルですが、中身を見れば納得の質・量です。
2022年版はメンバー5名がそれぞれ「ベスト15」を発表し、作品レビューを書き、座談会をする、という方式。熱いレビューには個人の思い入れと洞察が書かれ読み応えがあります。
が、むしろ重要なのは座談会。
みんな「同人音声が好き」という一点で集まり、マイベストに伴う性癖話もおこなえる仲ながら、共感したり引かれたり反応はさまざま・・で、これがいい。
各レビュアーの嗜好特性もよくわかり、もって読者はより立体的なマップを描けるというわけなんです。
その点、レビュアーが増えて各自のレビューが多くなり、座談会の話題が「今年のキーワード」に限定された2023年版はやや趣向が異なるかも知れません。ただ、このテーマも重要なのに変わりなし。
とくに「実演系」「短尺」「AIイラスト」が増えてきたという指摘は、市場規模拡大・新規参入でどこにでも起こりうる状況に思えます。
ひたすら膨張し、流れていく業界に、ひとつの「読み」を与えようという試みは、ガイドマップの存在意義でしょう。
個人的に気になったのは『聴きたい!』でも特集される一之瀬りと作品の、フォーリー=物音・効果音をありものでなく新規に録音しに行っているというこだわり。また妄想研究所さんの新提案、バイノーラルの進化系「テレバーチャルヘッド」のことなどは、細かなフェチとはまた違うジャンルレスなクリエイティブと感じ入りました。
本全体に丁寧な仕事が光り、「文系の矜持」「高等教育の賜物」(の無駄遣い)みたいなものが覗く清々しい本ですが、中でもとりわけ力の入った論考、2022年版に収録の
「ドスケベシスターとは何か -カトリック教会における告解の歴史と同人音声における懺悔-」
を紹介して終わりとしましょう。
同人音声には「ドスケベシスター」というジャンルがあります。いや、知りません。あるんですか?
これは、主人公が罪をシスターに懺悔すると、その罪を償うため、といってシスターからありとあらゆるえっちなことをされる・・という基本構造を持つもの。
何故かはわかりませんが最後まで射精を(あるいは“おせーしぴゅっぴゅ“をか)我慢できれば罪は贖われる、という世界観を持ちます。
持つんですよ。
この懺悔≒告解の有り様について、
キリスト教史を紐解き正確に位置付けようとするのがこの論考。
一読すればその資料固めぶりに「卒論か⁉︎」と驚きます。
なんでも初期のキリスト教には、洗礼後にさらに罪を犯してしまった者を救う、なんて取り決めはなかったそうで。しかし人は罪を犯すもの。やがて贖罪規定なるマニュアルが書かれ、各地でばらけ始めたそのやり方を中世になって公会議が統一。
誰しも年に一度の告白が義務として課されるようになった、と。
ここで参照されるのがフーコー!
ミシェル・フーコー著『性の歴史』です。
年に一度、必ず罪の告白をしなければならなくなった人々は、普段から自分の罪に、特に性的な欲望に自覚的になります。それも、最終的に聖職者へ告白するので、つまり絶えず自分の性欲を言語化しつづける状態になっていくわけですね。こうして、人々は性的な罪を「罪」として見つめつづける、同時に、人一倍性的なことを言語化し頭がそれに満ちていく・・ドスケベ・・
と、そこまでは書いていませんが、おおまかにいうとそんな感じ。
・・・
これだけの資料を漁り歴史をまとめることはもちろん、それが「ドスケベシスター」を論じるための道であるという事実に、頭が下がります。そしていざ現代に到着し、各作品論に入ったとき・・さして語ることは残っていなかった感じなのが・・また、素晴らしい。
ぜったい読んでください。
『すごい!』は毎年12月の冬のコミケで発売。
『聴きたい!』の方はサークル特集などの深掘り路線で、毎年8月の夏コミケで売り出していく予定とのことです。
まずはDLsiteの無料作品からでも聴いてみてはいかがでしょうか。
でもねえ、迷子にならないよう、地図は持っていったほうがいいですよ・・・・・・。
※補足3へ
『ヴァイオリン弾きのための 中世・ルネサンス音楽のはじめかた』 坂本卓也
これまたすごいタイトル、表紙も中世ヨーロッパムードを醸したいい装幀。
しかし、私は音楽理論がさっぱりわからなかったので、内容理解はいまのとこ断念です・・。ごめんなさい。
中世~ルネサンス期の音楽がどういうものだったか、いかに記譜という形で記録が残るようになっていったか、その形態のいろいろと現代での復元のしかた、楽器はどうするか、いま手に入れるには、あるいはモダン・ヴァイオリンをどう改造すると近づけるか、などなど。が書かれている実践の書。
音楽に詳しい方はぜひ。
『かがみのキセキ ~映画「かがみの孤城」公開一周年記念同人誌~』
『原恵一ファンはここにいる vol.3』 少恒星
原恵一監督のファンサークルによる、2022年公開『かがみの孤城』特集本と、2019年公開『バースデー・ワンダーランド』の時期に出されたファンムック。
『vol.3』のインタビューは、アニメーター・キャラクターデザイナーの末吉裕一郎さん、美術監督の中村隆さん、毎年夏に『河童のクゥと夏休み』の上映&トークイベントを開催している「シネマノヴェチェント」支配人の箕輪克彦さん。
なお残念ながら、中村隆さんは2021年『かがみの孤城』製作中に鬼籍に入られた。映画では献辞が捧げられ、『かがみのキセキ』にも追悼ページが割かれている。
原恵一監督といえば、「クレヨンしんちゃん」シリーズの概念、のみならず”子供向けアニメ”の概念も変えるほどの大傑作『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』が代表作となっていて、自分もそのイメージでいた。
ひいては、家族愛・・ヒューマン・・みたいな方向に安易にまとめがちだったが、それは氷山の一角。
なによりも「映画」を愛する映画人であり、ひとの在り様を清濁込みで描けるひとなのだった。
それは『かがみの孤城』でのいじめ描写、大人の無理解を示すさりげなくも痛烈なシークエンスにもうかがえるし、個人的にはやっぱり「東京学生映画祭2023」での、学生みんなから刺されるんじゃないかという本気のNO!にうかがえる。
真剣だよ、真剣。
『vol.3』に収められた作品レビューは、原監督の「映画づくりはお客さんとの真剣勝負だ」という言葉が引用され、その言葉、監督の姿勢に恥じない真剣レビューが掲載されている。
ファンは、愛する対象に育てられ、その恩を正しく返すのだ。
あと『かがみの孤城』はぜったい観てください。本当に、すごい映画です。
『まちがいさがし・マッドネス』 海底キメラ
FT書房さんの『100パラグラフゲームブック集①』1本目収録作の挿絵で拝見していた海底キメラさん。個人ブースは初めて拝見しました。
ペン入れはアナログ、塗りはデジタルとのこと。カラフルな塗りも手書き風のにじみ・影の置き方があって目疲れせず、ずっと見ていたい楽しさがあります。
今回はゲーム性に惹かれてまちがいさがしを購入。
表紙の絵で、すでにまちがい個数25。裏表紙も同様の1作があり、中をひらくと35か所作品が2つと、
ラストは、左右反転のうえまちがいが17ヶ所あるというマッドネスで締めくくられています。
絵を楽しむ、というときに、ここまで見つづける作品はなかなかないかも。
百年でも遊んでくれ!と書いてあったので、気長にやります。
ウォーリーみたいな作品も見てみたい・・・。
補足1
まだ悪口を書くと。
短文に収めるための要請だろうとはいえ、各人の文章でいろんな修飾修辞が顔を出すところは、とてもいやさを感じた。
例えば、94ページ「MANA」の書き出し。
〈19歳のある日、私は「ステラマッカートニーのバック」をメルカリで出品してみた。そしてそのバックは思いもよらず、6万円の高値で売れた〉
そして彼女はそれを元手に単身イギリス・ブライトンへ旅し、大学卒業後には留学。ベストフレンドに出会い今度はベルリンを薦められ、そこで数々の価値観を更新する文化に出会い、伴侶も得た。コロナ禍に足場が崩れていく思いもあるけれど、いつでも19歳の、まだ何もなかった頃に戻れるのだ。
というような文章。
まず
6万円で売れるバックはどこで手に入れたんだ? ということ。
その元手は何なんだ、ということ。
同じ文からもう一点。
〈メルカリで出品してみた。そしてそのバックは思いもよらず、6万円の高値で売れた〉
メルカリの売値は自分で設定するから
設定した時点で「思いもよらず」ではない。
こういうところが素敵の嘘、
”思いもかけず”修飾してしまう、ええ感じの文章にして過去を改変していく意志だと思う。
と、まるで理屈によって嫌っているかのようですが、これは「鼻につくなぁ~」を翻訳しているだけだ。もちろん。感情をあとから説明しているだけだ。
〈きっとこの文章が本の一部になったとき、前後の方達の文章がおしゃれ過ぎて、さぞ浮いたページになっていることだと思うけど。
でも平凡って意外と親近感持たれることもあったりね。〉(p.80 YUTARO)
おお一服の清涼剤よ。
でもあなたも、「魅力的」のバトンを受けてるんだからね。
また、編者が冒頭に掲げていること。
端的で美しいステートメントだと思う。
しかし、本書に収められた文章は、すべて筆者の名前を左ページに置いた見開きで始まり、次の見開きで終わる範囲におさまっている。
つまり、合計4ページ以内、文章だけでいえば3ページ以内の分量になっているのだ。
もちろん、原稿が集まってからそれに合わせてレイアウトを組んだとしたら、収まるのは当然だが・・しかしこの収まりかた。
〈自由に書いてください〉
とは?
短い方で1人、2行。という猛者はいたけれど・・・。
これに関する記述を、120ページ「SHUNTA」の文章に見ることができる。
〈いまだって、800字足らずの原稿に紡ぐ
文章の一文ですら悩んでいる。〉
字数指定してるじゃないか。
それを巻頭「ルール」で省くことは、美しい本を作るための修飾だ。否定はできない。もちろん。そのいっぽうで、
やらしいわぁ。
あと表紙も奥付も、EDIT. って付けるべきだと思う。
企画・製作プロデュース・広報・販売・執筆、あらゆることやってるのは確かだけど、本編はあと47人の「26歳」と沢木耕太郎さんの原稿なのだから。こんな、Author、みたいな名前の表記も、修飾の一つだ。
冒頭の遊び紙に印刷された沢木さんのエピグラフ、
薄茶~ベージュ色で縦線も入ったクラフト紙に、白インク印刷。
のっけから読みにくい。
32歳ぐらいになったとき、また同じ人々で本を作りたいそうだ。「ビフォア」シリーズみたいだ。
これは読みたい。
本当に。
次回作も完成間近。
同世代の色んな人に「8月15日」の日記を書いてもらった本になるという。
ただ書くのではなく、事前に聴くものがある。椋本さんと、戦時は北九州にいた94歳のお祖母さんとの、会話の録音。
そのうえで過ごしたそれぞれの8月15日。
「お祖母ちゃんは北九州にいて・・原爆が落とされていたかもしれない場所なんです。だから当日、上空が曇ってなかったら、僕は、生まれてなかった」
口慣れた調子でそういって、ニコリと微笑む。
「この本、面白くないですか?」
面白い。
と同時に、
おばあちゃんの商品化を思った。
補足2
一人芝居の大家、イッセー尾形さんの、
その演出家をつとめた森田雄三さんがおこなった
市民ワークショップの様子をおさめた本がある。
『イッセー尾形の人生コーチング』
バックグラウンドが異なる市民の集まった会場で、
じゃあ、なんか喋ってみて。と森田さんは急に言う。
「なんでもですか?」
「なんでも」
「えー、じゃあ私はふだん・・」
「はいダメ。次」
やがて、今日来る途中の道に落ちてたもの、だとか、
最近気になってること、とか、
”自己紹介”以外は、止められないことがわかってくる。
それを森田に尋ねると、
この思想が、自分にはしみこんでいる。
森田さんは亡くなられているが、
晩年はイッセーさんと仲違いしていたそうだ。
こんなミニ情報を挟む必要はないけれど、
つまりこれも、
私なりの
「素敵」への抵抗である。
この世には、素敵を信奉する人たちがいる。
素敵を、そのほかの色んなポジティブより上位に置く人たち。
もっというと、ポジティブのことを、
それだけを、ポジティブと思っている人たち、かもしれない。
椋本さん、すみません。
おれはポジティブを全うすることはできなかった。
いや、しなかったです。
補足3
「ドスケベシスター」の論考が入った『すごい!』が発刊されたのは2022年末。2022年に見逃せない動向があったということだろう。
そのムーブを、私もぜんぜん別のところで触れていたと、これを読んで気づいた。あ、あれは!
私、アプリゲーム『アズールレーン』を、ぜんぜん別なきっかけでプレイしてるんですが、
2023年2月に実装されたキャラ「インプラカブル」が、これです。
なるほどドスケベシスタームーブメントの産物だったのか・・。
このゲームの運営はYostar(ヨースター)という会社がおこなっていて、
同社は『ブルーアーカイブ』も運営。
ブルアカは2023年に公式のASMRがDLsiteで発売され、界隈を席巻したと『すごい!2023』に書かれている。
「同人音声じゃなくてもう、法人音声!」
Yostarのマーチャンダイズの、市場調査の、確かさがうかがえますね。
細分化・明文化・ジャンル化していくフェチズムと性癖。
わたしゃもうわかりません。
と、こんな雑談で
了
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