【詩】水たまり
たくさんの考えを持つことはね、何より必要なことだと思うの。
もう、時間に埋もれるような私達でいられないから。
覚えておくべきことが多すぎて、ひとりになるとついまた難しいことを考えてしまう。
私の癖だってことはわかっているの。
目の前のことをすべて信じて、毎日少しずつ感じていた距離さえも、揺らいで見える時がある。
飾る言葉で変わらないままいる私達を眺めているようだけど、それは気づかずに通り過ぎた後になって現れるの。
感情の指輪に指を通すたび、落ちないようにと願うだけ。
忘れたい過去なんてひとつもないの。
覚えてるよ。あの日ふたりが掴んだ手を。
痛みなんて少しも無くて、ときめきよりも大きな優しさがあった。
込められた手を強く強く握り返しながら、私はあなたの笑顔に泣きそうになっていたんだから。
小さなベッドから見た夜色のカーテン。耳に残る心地よい静かな息遣い。
大切なものはいつも不安なものだった。
心に触れた時、あたたかくて柔らかいその鼓動がとてもきれいだから。
あなたのような人は他にはいない。
知らなかった私にあなたが会わせてくれたから。
変わっていくのを感じてもまだ戸惑ってしまうの。
頬はまだもどかしいけど、さようなら。
見慣れた空にいま降るこの雨。
もう白い光が水たまりに映ってるよ。
綺麗でそれでいて鮮やかに強いものに包まれている気分。
ふたりの距離は次第に過ぎていくけれど、切なさと懐かしさが寄り添うようにふと思い出す香りは、温かい記憶になるはずだから。
あなたの言葉には嘘がない。あなたがくれた愛にも。
嬉しいと思う。美しいと思う。確信してる。
眩しくて美しくて痛くても切なくても、あなたの表情や仕草のひとつひとつが思い浮かぶと、恋しくなるよ。
だけど今はありのままの私に。
正直怖さもあるけど、寂しさを守るのはふたりにとっての強さじゃないから。
最後の言葉は「ありがとう」。
いつの間にか雨は止んで街も人も優しく動き出している。
水たまりに揺れ映るのは青空と傘を閉じた私。
この瞬間も私の中にあるひとつの答え。
あなたが教えてくれたのは確かな光。
ありがとう。だけど今はありのままのふたりに。
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