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2016年8月の記事一覧
花、光、太陽、こころ
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指先に光がさざめいている。少女の両の手のひらの中で揺れる小さな太陽をぼうっと眺めながら、青年は瞳の奥の方が滲むのを感じつつあくびを噛み殺した。と、いうのも、彼は今、少女の手のひらに収まる太陽――その光の色と温度のあたたかさに時折、瞼が落ちそうになっているのだった。少女がちらっとこちらを見ては忍び笑いを漏らした。
「何か、子どもみたいな顔になってますよ」
「うーん……? うん……」
「あら
逃がした火の粉は甘かった
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時計店〈トキツゲウサギ〉は、本日定休日である。困ったように笑っている青年――丹は休日の時計店で、先日と似たようなかたちでカウンター越しに母と対峙していた。休日に時計店を訪ねてきた丹は母に、この間のお返しと言わんばかりに――いわゆる、〝恋ばな〟をさせられているのだった。何とか話題を逸らせないかと、丹は自分の目の前に置かれている珈琲を指差した。
「母さん……俺、ブラックはあんまり……なんだけ
雨を待つなんてばかなこと、それでも光る雨を知っている
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強くも弱くもない雨が、それと似たようにぬるい温度で頬を打った。
透明な雫たちが空から突然降りはじめたために、慌てて雑貨屋へと駆け込んで傘を買った丹は、その辰砂の瞳に鈍い青の混じった雨雲を映しながら少し唸って頭を掻き、こぼすように溜め息を吐く。
(……すぐ止みそうだな)
それでもないよりはましだ、というように彼は今しがた買った傘を広げ、右手でそれを持つと左手には店の宣伝がてら持ち歩いて