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花、光、太陽、こころ

目次

 指先に光がさざめいている。少女の両の手のひらの中で揺れる小さな太陽をぼうっと眺めながら、青年は瞳の奥の方が滲むのを感じつつあくびを噛み殺した。と、いうのも、彼は今、少女の手のひらに収まる太陽――その光の色と温度のあたたかさに時折、瞼が落ちそうになっているのだった。少女がちらっとこちらを見ては忍び笑いを漏らした。
「何か、子どもみたいな顔になってますよ」
「うーん……? うん……」
「あらら、起きてます?」
「起きてる、起きてる……ちょっと、考えごとしてた」
 少女の黄土色の髪が揺れる。それは彼女が首を傾げたためだった。髪の先に手のひらの柔らかな太陽の光が反射して、少女が髪を揺らすたびに光が小さく踊っている。
 彼女がその手のあたたかな光を放つ恒星によって育てている季節外れの花は、もうすぐ満開になりそうだった。青年は困ったような照れたような笑みを顔に浮かべて、少女の太陽を見つめた。
「あのさ……子どもっぽいんだけど、ほんとに……。もしも、人の心が見えたら、さ」
「見えたら?」
「――そういうかたちをしてたらいいな、って……思ってた、今」
「……丹さん」
「うん」
「……ふふっ、恥ずかしいなら言わなきゃいいのに!」
「ああ……。はは、俺もそう思ってたところだよ……」
 息を吐き、青年はあくびをするふりをして上を向いた。瞳の端っこの方で、小さく光が踊っている。太陽の光、目を瞑っても見える、光。このあたたかな光の色は、温度は、心から生まれるものだといいと思った。彼女の心の光だと、いいと思った。子ども染みた考えだ。だが、それでも構わない、悪くはないと思った。青年は小さく笑う。今まさに、季節外れの花が微笑みながら咲き零れるのを彼は目にしたのだった。


20160822
シリーズ:『手のひらのかがり火』〈燐寸箱〉
※美穂ちゃん(@hasu_mukai)をお借りしました!

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