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青春ってイエローでホワイトでちょっとグリーン

2019年、ちょっとした話題になり、「エンパシー本」などと呼ばれた『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)。ひときわ目を惹く黄色い表紙を覚えている方も多いのでは。

それの続編が、2021年9月に出た。
今回は、ちょっと淡いグリーンの表紙。
あの息子くんが、この2年間でどんなふうな経験をし、どんな思春期を迎えているのか、気になるところ。
早速読んでみました。

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実は、著者のブレイディみかこさんは、この2冊の刊行の間に、もう1冊本を出している。それが『他者の靴を靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』(文藝春秋)。

『ぼくイエ』が母ちゃん目線で分断や差別、それに柔軟に対応する息子くんの様子を描いているのに対し、『他者の靴を履く』は歴史的、社会学的、そして文学的に「エンパシーとはなにか?」を探究した論文のようなもので、多少読みにくさは感じたものの、とても中身の濃い1冊。

特に、コロナで計り知れないダメージを受けた経済に「エンパシー」を持ち込もう、という第3章は興味深い。


話を戻し、息子くんの、その後の記録『ぼくイエ2』。

立派なティーンに突入し、そろそろ恋バナとか出てくるかなー、と思いきや、今回のハイライトは、福岡のおじいちゃんと孫との魂の交流。そして、個人的に好きなくだりは、アフリカ系移民の同級生ソウル・クイーンの誕生。

相変わらず格差の話にはリアリティがあって、特に息子くんの親友であり続けるティムくんの、よりハードな現実と、そこにポッと希望の灯のようにともる恋の話(サラッと1行だけで)には心を掴まれた。

著者自身の生い立ちとかぶる部分もあり、このまま格差に飲み込まれて生きるんではなく、音楽や恋といった彩りがティムくんの日常にあることに救われる。そして親友のために、普段イキったりしない息子くんが、勢いでバンドを辞めちゃったあとの後悔の涙。

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青春っていろんなことがあるよなー。そして、だんだんと自分の中に抱え込むものが大きくなっていくよなあ、そばで見守ることしかできない親は切ないなあ、と思いながら読んだ。

そう、もうこれの続編はないのだ。

もはや、思春期の息子の心の揺れを、近くにいても観察できないくらい、子どもの世界は広く、遠くなっていく。人生は、ラッキーかアンラッキーか。そんな単純なものではない、ということを知って生きていく少年の、背中を見送るような気持ちで読み終えた。

やっぱり母ちゃん目線。

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