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【コーヒー豆専門店に行こう】苦い=美味しいではなかったー前編ー

3年前、SNSで紹介されたコーヒー豆専門店でいただいた一杯のコーヒーに強い衝撃を受けた。それまでは「コーヒーなんか苦いだけで美味しくない。どうしてお金を払ってまで、人はあんな苦い汁を飲みたがるんだ?」というのが自分の中の常識だったのだが、その偏見が音を立てて崩れていくような体験をしたので、そのことについて回想してみたい。

とても寒い冬の日の夕方ーーその店は、大阪にあるローカル駅から歩いて2分ほどの、洋服店と靴屋の間に身を隠すようにして建っていた。店にだんだん近づいてくると、焙煎されたコーヒーの芳醇な香りが鼻をくすぐってきた。コーヒーを飲むことを遠慮する人であっても、この独特な香りは好きだ(/嫌いじゃない)という人は多い。筆者はそのうちの一人だった。

さて、初めて入る店というのはいつも緊張するものだ。しかもそこは一度も入ろうと思ったことがないコーヒー豆の専門店である。一息ついてから入店すると、今度はより強い香りが店内から押し寄せてきた。おそらく、コーヒー豆をパウダー状にして買っていく客がいるからなのだろう。ごうごうと音を立てている機械のおかげで、おおよそその察しがついた。その香りを別のもので例えるとするなら、かっぱえび〇んの風味が一番近いかもしれない。これは筆者の鼻が馬鹿になっているわけではなく、本当にそっくりだと感じたのである。

そんなことを考えているうちに、店員に促されるまま10にも満たないカウンター席に腰を下ろした。とても心地の良い狭さだった。カウンターの向こう側にはコーヒーカップやデカンタなど、コーヒーを淹れるための器具が整然と並べられている。出されたトルマリン水を飲みながらメニュー表を開けてみると、予想以上にたくさんの種類のコーヒーがあることに驚いた。国名と生産地名・生産農園名がミックスされたメニューがびっしりと羅列されている。しかし、どれがどんな味がするのかが全く何も分からない。その時の自分が辛うじて分かったのは、一番最初に書かれているブルーマウンテンくらいであった。

あらかじめ、初めて行くならムンドノーボがおすすめだと聞いていたので、内心ほっとしながらそれを注文した。年季の入った機械でコーヒー豆を粉砕し、目の前で丁寧に淹れる姿を見せてくれるこのスタイルは「サードウェーブ」と言っていま流行りつつあるらしい。出来上がる工程をずっと見ている必要はないのだが、特段やることもなく、物珍しさもあってつい見入ってしまった。

これは、高速道路の休憩所などで見かける内部カメラで珈琲を淹れる過程を映してくれるマシンとは明らかに一線を画した趣を持っていた。筆者がとても真剣に見ていることを察したのか、その店員は一つ一つのパフォーマンスの意味や、初心者がコーヒーを美味しく淹れられるコツを惜しみなく説明してくれたのだった。ーー後編に続く

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