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小説

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【掌編】視力

【掌編】視力

見えている世界が他の人と違う。
純粋に視力が悪いだけなのだけれども、たったそれだけのことで世界の見え方は変わってくる。
初めてメガネを作ってもらった時のことは今でも鮮明に思い出せるほど衝撃的な出来事だった。確かに前の席に座らないと黒板は見えなかったけれど、地面の見え方さえ違っていたのには驚くしかなかった。ただの灰色の砂利道は、細かな石の集合体なのだと視覚情報として認識したのはその時が初めてだった。

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初めて親にねだった最初で最後の本

初めて親にねだった最初で最後の本

その記憶は今でも鮮明に覚えている。
タイトルは「6時間後に君は死ぬ」。

新聞広告に載っていた本だった。
後にも先にも、新聞の広告で興味を持って購入した本、というのはこの一冊のみだ。

強烈に惹かれたタイトル。書影も魅力的だった。
親は書店でわざわざ取り寄せて購入してくれた、と思う。
なにせ田舎だったもので、ハリーポッターくらいのビックタイトルでも10冊ほど平積みされているだけだった書店だからだ。

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【掌編小説】手紙

【掌編小説】手紙

小さなメモ用紙に文章を書いて、可愛く折って友だちに渡す。
休み時間になればいくらでもしゃべることができるのに、まるで内緒話をするようなその行為は、小学校を卒業するまで続いた。
別に特定の誰かとだけするわけではない。
クラスの女子全員と1度はやった。「みんながやっているから」という集団心理なのだろうか。
クラスが違う子とももちろんやっていたし、違うクラスの子たちとの方が文章が長くてやりとりが続いたの

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