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手の届く範囲の幸せを追求する、今は。

「それは相当ストレスが溜まっているね」
スマホ越しに父の苦笑が漏れて、ようやく自分のなかに処理しきれない廃棄物が積み重なっていたのだと気づいた。

月曜の朝、何も手につかないことが増えた。
退屈、つまらない。毛嫌いしていた感情が押し寄せないように家事をこなしたり、モーニングページを書いて胸の内を何とか良いほうへ持っていこうとしていた。

仕事をしている人からすれば、ぜいたくな悩みかもしれない。
家にいられるだけマシじゃないかと。確かにその通りだ。
もう、片道30分以上かけてパートの職場に通っていた日々はすっかり色あせた。

土曜、いやなことがあった。
買い物先の店員の態度が失礼だったのだ。
夫になだめられても、ネットで店舗名や店員の特徴を指定してクレームを送っても、あのとき面と向かって言い咎められなかった悔しさがどろどろと身体の内側にはびこっていた。

何か気を紛らわそうと、息子が居間のテーブルに積んである「ちいかわ」の原作コミックスを手に取る。
現在、アニメでは「パジャマパーティーズ」というアイドルの4人組を中心とした続き物の話を放送している。

私はその話がとても好きだ。
メンバー4人のうち3人が怪鳥にさらわれ、出演予定だったイベントが危うくなるのだが……。
これ以上はネタバレになるので割愛する。

簡単にいうと、ちいかわのエピソードでも劇的な演出で、ラストの感動がすさまじいのだ。
その話を読み直して、涙がこみあげてきた。情緒がめちゃくちゃになり、土曜の店員への憎しみが募ってワーッと泣いた。

先日大河ドラマ「光る君へ」の感想でも、主人公・まひろと母の仇である道兼について書いた。
あの話を観て何故涙が止まらなかったのかというと、まひろが憎しみをぶちまけず「心を動かさない」ことを選択したからだったのだろう。

本当は、怒り狂ってほしかったのだ。
人に深い傷を与えてのうのうと生きている愚かな人間をぶちのめしてほしかったのだ。
憎しみは何も生まないと知っても、私はとにかく、相当うっぷんが溜まっていた。

度重なるコロナとインフルエンザの家庭感染。
隔離日数を家で過ごす日々。
自分の得意なことで全くの他人から対価を得ていない悔しさ。
果ては、昨年関わったある人間の不誠実と裏切り。

昨年末くらいから、私のnoteには折れたシャーペンの芯のような刺々しさを含んだ文章が紛れ込んでいた。どのくらいの人が気づいていたかは、分からない。

とにかく危ないと思って、実家の父に電話をかけた。
挨拶もそこそこに鬱屈とした思いをぶちまけた。暴言を吐いた。

そこで言われたのが、冒頭の言葉である。
もう何ヵ月も、私の心は廃棄物による不協和音を立てていたのかもしれない。
だけど満たされていない自分を見せるのがいやで、認めたくなくて、取り繕ってきた。

結果満たされていないから、ささいなことでひどく腹を立てる自分にすら気づけなくなっていた。

父は私と違い、物事にさほどこだわらず受け流す性格だ。
本人はこだわりが薄く、そのことが良いのか悪いのか分からないけど、とそれすら大したことのないように話す。
その分フラットにこちらの話を聞いてくれるため、愚痴は家族のなかで最も打ち明けやすい。
夫はもちろん寄り添ってくれるときも多いが、論理的で、正論を出してくるから時々つらい。

父と色々話して、自分の心が相当疲弊しているのが分かった。
あえて情報を制限したほうがいいとも判断した。

今月やろうとしていたことは色々ある。
Webマガジンの記事のネタは予定を組み立てていたし、大河ドラマの感想も書きたい。

だけど、回復するまでは純粋に、自分の手の届く範囲の幸せを追求しようと決めた。
とりあえず今週のWebマガジンは軽いつぶやきにして、作業しないことにした。

今はただ、ストレスを発散して心の平穏を取り戻し、栄養を取りたい。
ガタがきている状態で走り続けるより、一度しっかり休んだほうがパフォーマンスも良くなる。
これまで何度も体感している。

父に勧められて、電話を終えた後散歩に出た。
吹きつける冷気はまだ耳を痛めつけるが、陽射しは高くなってきた。
30分程度の散歩でも、折り返しの道ではガチガチに固まっていた心が大分軽くなっていた。

心がひび割れてしまったら、キーボードを打つ手は鈍るし濁りは取り除かれない。

次に記事を書くときは、どうか折れたシャーペンの芯みたいな文章が混じりませんように。


※ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございます。

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