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うそのある生活 7日目

6月6日  雨   大粒の雨が一日中

近頃、娘が猫の真似をするようになった。何の前触れもなく、突然ニャーと鳴きだしては、四つ足になって家の中を這い回ったりする。娘は猫になると、鳴くばかりで、なかなか喋ってくれなくなる。器用なもので、喜怒哀楽はなんとなくに鳴きわけるのだが、喜んだり怒ったりしているときでも、何に喜んで、何に怒っているのかはよくわからないので困ってしまう。

猫になった娘は、いろんなことがなくなってしまう。ご飯もひとりで食べれないし、何かお願いや注意をしても、猫ちゃんだからできないよ、と断られてしまう。

どうやらこれは、甘えたいときにはやっているようで、平日に、保育園から帰ってから猫になることが多い。

保育園での娘はずいぶん頑張って"良い子"にしているらしく、しかも6月からは妻の時短勤務が終わって保育園にいる時間も増えているので、前よりだいぶ疲れるようだ。保育園で頑張っている分、本当は家では思いきり甘えたいのだろうが、娘が成長してきたのを良いことに、つい家でも「もう3歳だからできるよね」などとおだてつつプレッシャーをかけてしまっている。

だから、猫になるというのは、そんな親への娘なりの対抗措置のようだ。3歳になったし良い子にしていなければならないけれど、頑張りたくないときも甘えたいときもあるのでそういうときには猫になってしまおう、ということらしい。

今日も家に帰ると娘が猫になっていたのだが、親に甘えようと毎日のように猫になっていたせいか、いよいよ猫に近づいてしまっていた。お尻からは尻尾が生えているし、動きもしっかりと猫になって、四つんばいの姿勢からドラム式洗濯乾燥機の上にジャンプしたりしている。このままではそのうち完全に猫になってしまいそうなので、どうしたことかと妻を見ると、妻のほうは犬になっていた。

妻はしきりにわんわん吠えているのだが、やはり喋らないので、何を言っているのかはわからない。近所迷惑になるのでとめようかと思ったが、犬なので言ってもわからない。

思えば、働きながら子育てをするめまぐるしい生活の中で、妻も疲れやストレスをずいぶん感じているだろう。ストレスがあるからと言ってすぐに出せるわけでもなく、わたしや娘が一生懸命やっているのもわかっているから、言いたいことを飲み込むことも多いはずだ。言いたいことが溜まりに溜まって、かといって本人のままでは自由に言えないというので、ついには犬になってしきりに吠えているのだろうと思うと、妻に申し訳ない。

どうしたものかと思っているうちに、わたしもだんだんと変化するようで、腕が毛深くなり、ついには猿になった。娘が鳴き、妻が吠えるなかで、わたしは猿になってきょろきょろと辺りを見回す。果たしてこんな調子で、これからも暮らしていけるのだろうかと思うが、これが生活なのだから何とかしていくしかないのだろう。






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