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ドライバーとエンジニアが行うレース前の3つのイベントについて

こんにちは、ドイツレースチームで働く山下です。
僕の所属チームでは、レースイベント前にドライバーと行うイベントが大きく分けて3つあります (プレイベント、シミュレータ、サーキットウォーク)。

本記事ではフランスのポールリカールサーキットを例に、各イベントについて簡単に紹介します。

(1) プレイベント

ドライバーがチームに合流すると先ず行うのが、プレイベントと呼ばれるサーキットの解析結果の共有です。確認ポイントは様々ですが、各コーナーでのラインどりやギア、ブレーキポイントなどをドライバーと確認します。下図フランスのポールリカールではターン5はスロットル全開で走行できます。ターン9はアウト側のラインをとってターン10のエイペックスを目指すラインと、ターン9はイン側のラインをとって、ターン10の立ち上がりを重視するラインがあります。後者が推奨ですが、周りの状況次第だと思います。僕のチームでは昨年の予選オンボード映像と走行データを見せながらドライバーに説明します。

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ポール リカールのレイアウト (Wikipedia)

(2) シミュレータ練習

レースウィーク前の週末にはドライバーはドライビングシミュレータでトレーニングを行います。シミュレータの目的はドライバーのサーキット習熟です。
ドライバーによっては初めてのサーキットだったり、前年からレイアウトが一部変わっていることもあります。プレイベントにてサーキット解析は行いますが、実際のドライビングとしてドライバーに慣れてもらう必要があります。特にレースウィークでの走行時間は限られているため、ルーキーなどにはシミュレータはとても大事です。
また、ドライバーがサーキットレイアウトを覚えた頃からは、シミュレータ走行のデータの解析も行います。ベンチマークする他ドライバーのデータと比べて走行ラインやブレーキングポイントを比較して、必要な箇所は改善していきます。

(3) サーキットウォーク

サーキットウォークはレースウィークの搬入日に行います。欧州は夕方でも陽が高い事が多くて17時から19時頃に行う事が多いです。

ドライバーと担当エンジニアがサーキットを一周歩いて回り、上述のプレイベントやシミュレータでの留意点を実際のサーキットで確認します。

ブレーキングポイントの目安は下記のように次のコーナまでの距離が表示されていることもあります。無ければコース近くの看板、ポール、縁石の切れ目などを目安にします。

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F1などのオンボード映像を見てもらうと分かると思うのですが、他の多くのサーキットに比べて、実はポールリカールでは縁石をあまり使っていません (参考: https://youtu.be/DiylFg4Xl_0)。フラットなサーキットに見え、高速区間も多くコース幅を使った方が有利に見えますが何故でしょうか?

サーキットウォーク中に撮った写真がこちらです。オンボード映像では分かりづらいですが、実は縁石が高めです(この写真でも実物より低く見えます)。よって、縁石の使い方によっては足回りが壊れてしまいます。逆に走行ラインによっては縁石をわざと跨いで、外輪はコース外で走るのも有効です。この場合は、縁石がフラットに戻る場所で完全にコースに復帰します。

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また、次の写真のように蒲鉾 (かまぼこ) 状の縁石もあります。蒲鉾の手前までの縁石は使えますが、乗りすぎると車両にダメージが発生する可能性があります。縁石を使わないとラップタイムは伸びませんが、使い過ぎるとリスクがあるので、繊細なドライビンが必要です。このような状況のためポールリカールでは縁石を控えめに使うのです。

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サーキットウォークは走行日の前日に行います。当然エンジニアやドライバは縁石の高さ、勾配などは事前のプレイベント、シミュレータである程度は把握しています。それでも、やはり実際にサーキットを歩くと理解が深まります。また、その他にも前年からコースレイアウト、路面など新しくなっている箇所は想定していたものと差異がないかを確認します。

P.S. 多くのサーキットは約4〜5km前後なので、サーキットウォークは1時間ほどかかります。その為、僕のチームでは雑談もけっこうします。また、コースアウトした際に順位を落とし過ぎないために、コース復帰ルートを決めておくこともあります (高めの縁石を避けつつレイアウト通り真面目に戻ると無駄に順位を落としてしまう場合もあるので、いい感じで復帰しないといけません 笑)。

(4) まとめ

簡単にですがレースイベント前にドライバーとエンジニアが行うイベントである、プレイベント、シミュレータ、サーキットウォークを紹介しました。やはりラップタイムを短縮するためにはドライバとエンジニアはサーキットを深く理解する必要があります。また当然ですがイベント中のドライバーとの会話は、その理解を前提を話が進みます。僕自身もまだまだ勉強しないといけないと毎回感じています。

以上、読んで頂きありがとうございました。

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