お手伝い ★
お題は
「茶柱が立った」をイメージした作品。
原稿用紙3枚のフィクションです。
茶柱を立てる方法も、物語のあとに書いています。
私の母方の祖母まこばぁのお通夜は、別れを惜しむ人たちでいっぱいだった。お坊さんが帰り、まこばぁの家で始まった通夜ぶるまいのお手伝いをしていた私は、大忙しだった。
「ありがとう、若葉ちゃん。高校1年生だって! 大きくなったわね」
お茶を出す度、同じことを言われたが、私の記憶にはない人がほとんどだった。
小児喘息の治療のため、私は小学校4年まで都内の自宅ではなく、静岡の片田舎で一人暮らしをしていたまこばぁの家にいた。不便な場所にもかかわらず、 まこばぁの家にはお客さんが毎日訪れていた。まこばぁがよく当たると評判の占い師だったからだ。
まこばぁは私の子守りをしながら、午前二人、午後三人のペースで、暗い顔でやって来るお客さんを笑顔に変えていった。あの頃は、まこばぁのしていることがわからなかったが、何度もお礼を言い、しかも私の頭まで撫でて帰っていくお客さんを見ていると、何か嬉しくてまこばぁの手伝いを進んでしていた。
私のお手伝いは、お茶出しだった。まず、お客さんが来られてすぐ、いつもまこばぁと飲んでいる赤いお茶缶のお茶っ葉でお茶を出す。まこばぁとお客さんが話をしている間、私は別の部屋で遊び、まこばぁの「お茶を淹れて」の声を待つ。この声を合図に私は急いで台所に行き、今度は食器棚の三段目に入っている緑色の和紙のお茶缶からお茶っ葉を急須に準備する。お盆に湯飲み茶碗とお湯を注いだ急須をすぐに載せ、まこばぁのところに慎重に運ぶ。そして、こぼさないようにドキドキしながら 、お客さんの前でお茶を淹れる。
「お手伝い、えらいね。あら、茶柱が立っている。縁起がいいわ。ありがとう」
お礼を言われて嬉しい私は得意になり、まこばぁから教えられた通り説明をする。
「茶柱が立っているお茶を、願い事を思いながら飲むと、願いが叶います」
まこばぁと私はこうしてお客さんがお茶を飲む間に訪れる、静かなひととき、顔を見合わせて微笑んだものだ。まこばぁと過ごした、本当に大切な時間だった。思い出して涙が溢れそうになる。慌てて通夜に飾られていた遺影を見ると、あの時の微笑みのまこばぁだ。私も微笑む。
「良かったね、 まこばぁ」
きっと今夜訪れた、たくさんの人たちは願い事が叶い、最後のお礼をまこ ばぁに言いに来たのだろう。
通夜ぶるまいの後片付けも終わり、ひっそりとした台所で、私は食器棚の三段目を開けた。昔と変わらず緑色の和紙のお茶缶があった。ふたを開けると、「 まこばぁ秘伝 茶柱の立て方」と書かれた手紙が入っていた。
祖母から教えてもらった茶柱を立てる秘伝は、
「茎の片側を軽くつぶす」でした。
100%の確率ではないですが……お試しあ~れ!
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