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新社会人になって3ヶ月目 大人の発達障害と診断を受け会社を辞めた僕が障害者雇用で自分の居場所を見つけた物語 その③ 

※※ 物語を分割しています。その①・②の続き。 ※※


Chapter 2 さぁ、どっち? 人生は選択だ

・障害者手帳を持つか、持たないか、それが問題だ


「ねぇ、麻人。障害者手帳を持たない?」
「持った方がいいの?っていうか、持てる?」
 就労移行支援事業所で障害者手帳について触れた講座もあったが、自分は持っていなかったので、真面目に聞いていなかった。
「持てるとは思うよ。ただ、手帳を持つことがいいことばかりとは限らないからね。障害者雇用の場合、求人数は少ないし、非正規雇用になる可能性も高くて、給与が低くなりがちと言われているのよ」
「う〜ん。でも、確かに給与が低いのは嫌だけど、ミスをしないで仕事をする自信はまったくない! 障害者手帳を持ちたいなぁ」
「では、決まりね。手続きをするために診断書が必要だから、病院にひとりで行って来てくれるかなぁ。市役所には、もちろん一緒に行くよ。それから、障害者手帳の手続きに必要なものもスマホに送っておくね」

 実は今まで、「言った!」「聞いてない!」というやりとりを家族の間でよくしていたが、最近、発達障害のせいだったのかもしれないと思うようになっていた。
 そのやりとりを防止するためにも、メモでもらえると助かった。
 ただ、そのメモさえ忘れてしまうことがたまにある。母からは「〇月△日を見て!」と言われてしまい、「お母さん、ごめん」と心の中で反省をしている。

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・申請書
・医師の診断書
 ※ポイント⇒初診日から6ヶ月以上経過後に作成されたものであること
・手帳に貼る顔写真
・本人確認書類
・マイナンバーがわかるもの

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 僕のような発達障害の場合、診断されても手帳を持たない人もいるそうだ。病院で診断書を依頼するとき、医師から説明された。
「ちょっとした周りのサポートで問題なく過ごせるようなら、手帳を取得しない選択もあります。今後の人生でメリットがあると思うえば、取得して、もしもデメリットになったら、返還も可能ですよ」
 返還もできると聞いて、なんとなく安心した。

 病院の先生の説明を母に話すと、手帳のメリットをいくつか説明してくれ、いつものようにまとめたものをスマホに送ってくれた。
 最近、母はずっと先のこと、母が死んだあとのことまで考え、姉のスマホにも同時に送ってくれている。

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・就職に関係する支援
  障害者雇用枠で就職できる
  就労支援サービスを利用できる

・税金の控除や減税
  所得税の控除 障害者控除として27万円(特別障害者は40万円)が
         所得金額から差し引かれる
  住民税の控除 障害者控除として26万円(特別障害者は30万円)が
         所得金額から差し引かれる
  自動車税・軽自動車税の減免
  相続税の障害者控除

・その他のサービス
  公共交通機関の割引
  携帯電話の割引
  美術館や博物館などの割引
 
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「市役所で手続きしたら、地元のバスも無料で乗れるって」
「税金の割引きはよくわからないけど、携帯電話料金の割引きは助かるなぁ」
 姉と一緒に、障害者手帳で受けられる割引きを探し始めた。
「へぇ~、USJや映画館でも割引きがあるよ。しかも付き添いひとりも割引きがあるって。もちろん、付き合ってあげるよ」
「いらん!」
 マイナスイメージしかなかった障害者手帳だけれど、メリットがあるとわかって前向きになれた。
「使えるものは、使うぞ!」と家族に宣言してみた。

 診断書ができあがり、母と市役所に向う。
「ちょっとずつでも、苦手なこと、してみない? 福祉関係の窓口は丁寧に対応してくれるから、自分でやってみて。もちろん隣にいるしね」
 母から言われ、まずは受付で番号札を取り、椅子に座った。

 5分ほどで番号を呼ばれた。
「あの、すみません。障害者手帳の申し込みに来ました」
「はい。では、こちらにかけてください」
「あっ、よろしくお願いします」
 母も隣のイスに座ってくれた。
「障害者手帳は、身体障害者手帳、養育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種類がありますが、どちらの申請になりますか?」
「えっと、発達障害と診断を受けたのですが……」
 僕の障害内容を窓口の担当者へ話すと、知的障害はなく、発達障害のみとなるので、精神障害者保健福祉手帳の手続きになると教えてもらった。
 それから、申請書を担当者の説明を受けながらひとつずつ記入をして、準備をしていた診断書などを担当者に渡して、手続きが終わった。
「ほら、丁寧に教えてくださるから、今度からはひとりでも大丈夫そうだね」
「疲れた……けど、ちょっとだけ自信がついたよ」

 市役所からの帰り道、精神障害者保健福祉手帳には1級〜3級の等級があり、多分、僕は3級になるはずだと母から言われた。

 約2か月後、僕は3級の精神障害福祉手帳を無事にゲットできた。


・障害者手帳を使うか、使わないか、それも問題だ


 手帳がもらえたことを就労移行支援事業所で伝えた。
「ちょうど今日の午後のプログラムで学習するのですが、障害者手帳を持っていても就労先に伝えるか、伝えないかを選択できるんですよ」
「そうなんですか。手帳を持ったら、言わなくちゃかと思っていました」
「就労先に障害者であることを伝えるオープン就労、伝えないクローズ就労の2つがあって、選べるんです。午後に説明しますから、しっかり聞いてくださいね」

 昼休みにコンビニで、眠気対策のアイスコーヒーを買って、プログラムを受けた。
 発達障害の人は電話をしながら、メモを取るのが難しいと言われているとおり、僕も先生の説明を聞きながらメモを取るのが苦手なため、真剣に聞いて記憶した。

 家に帰り、夕飯を食べながら、今日学んだ部分のテキストを母と姉に見せた。わかりやすくまとめられたページを開く。

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オープン就労

・メリット
  障害や疾患について理解してもらいやすい
  必要に応じて配慮が得られる(合理的配慮)

・デメリット
  求人数が少ない
  自身の障害・疾病、特性など説明が必要


クローズ就労

・メリット
  求人数が多い
  様々な業種や職種に応募しやすい
  給与が障害者雇用より高い傾向がある

・デメリット
  障害に対して、配慮を得ることが難しい
  定期的な通院などの調整が難しい

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 母と姉がさらっと目を通す。
「なるほどね。オープン就労、クローズ就労って言葉を知らなかったわ。今度は障害者雇用関連の本を読もうかしら」
 ふたりが僕のことに向き合ってくれて嬉しかった。

「はい、補足で重要なところを説明します。まず、オープン就労の場合、所得税の障害者控除が使えます」
「あらら、この間、税金の割引きがよくわからんって言ってたくせに、わかったんだ。すごいじゃん」
「お姉ちゃん、褒めても何もないよ。話を続けると、オープン就労の方が職場への定着率が高いそうです」
「そうかもね。会社に障害を理解してもらっていたら、一定の配慮は期待できるものね」
「定着率が高くなる理由には、もうひとつあって、オープン就労だと就労定着支援が受けれます」
「就労定着支援ってなにそれ」
「就労移行支援事業所の担当者が月1回、職場に来てくれて、職場環境をチェックして調整をしてくれるらしいんだ」
「へぇ〜。自分ひとりで会社の人に言ったりするのって大変だから、いいかもよ。私も上司との面談の中で困りごとを言いにくいんだよね」
 社会人3年目の姉からのアドバイスで、背中を押された気がした。

「給与面やキャリア面ではクローズの方が良いみたいだけど……僕は障害で、どんなに気を付けても、ミスをするかもしれないってことを周りの人に知ってもらいたい。そしてミスのせいで怒られるって、いつもびくびくしたくないから、オープン就労にしようと思う」
「そうね。給料が低いとしても、ずっと長く働いた方が長い目で見たら、マネープランも安定するからね。少しずつでもちゃんとお金を貯めてね。憎まれっ子世に憚るって、麻人は長生きしそうだから」
「確かに。私とお母さんがインフルエンザになったときも、麻人だけはなんともなかったよね」

 母と姉にからかわれながらも、働いている二人からのアドバイスは続いた。
 他人の気持ちを理解できなかったり、空気を読んで行動することが難しいという、もうひとつの障害であるアスペルガーの特性を考えても、オープン就労がよいと話し合った。



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