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春待ち人 ★
お題は
「生まれ育った土地がベースの昔話(フィクション)」原稿用紙3枚
ということで
母のふるさと福島県福島市にある吾妻山をベースにして書いた昔話です。
昔、陸奥の信夫郡(現在の福島県福島市)の山の麓に太郎という、六つになる男の子がいました。太郎は、百姓のお父さんとお母さんの手伝いをよくする、心の優しい子でした。
ある日のこと、太郎はお父さんと一緒に山菜取りに山へ行きました。かごいっぱいの山菜を採った帰り道、ごそごそと揺れる草むらに気付きました。お父さんと一緒に太郎が草むらを覗くと、そこには前足をケガした、真っ白なうさぎがうずくまっていました。太郎はかわいそうに思い、お父さんにお願いをして、うさぎを家に連れて帰り、傷の手当をしてあげました。
その晩、太郎がうさぎを枕元に置いて眠りにつくと、助けたうさぎが夢の中に現れて、傷の手当のお礼と、一緒に遊ぼうと誘ってくれました。
翌朝、うさぎはすっかり元気になっていました。ぴょんぴょんと二度飛び跳ねて、うさぎは森へ帰って行きました。
それから、うさぎは毎日のように太郎が畑仕事の手伝いをしていると、遊びに来て、楽しくかけっこをするようになりました。
かさかさと落ち葉を踏みながら、いつものように太郎とうさぎがかけっこに夢中になっていると、狼の遠吠えが聞こえてきました。どうやら気付かないうちに、太郎は森の奥へと入り込んでしまったのでした。
太郎とうさぎは、慌てて森の入口へと走り出しました。しかし、遠くに聞こえていたはずの狼の吠える声は、たちまち太郎の後ろまで迫って来ています。
すると突然、太郎と一緒に走っていたうさぎがくるりと向きを変え、後ろから迫って来る狼に向かい走って行きました。うさぎは太郎を助けるため、自ら狼の餌になってしまいました。
無事に家までたどり着いた太郎は、うさぎのことを思い出しては泣き続け、いつの間にか眠ってしまい、再び、うさぎの夢を見ました。
「もう泣かないで、太郎。山の神さまが一年に一度、太郎に会わせてくれる約束をしてくれたから。待っていてね」
太郎は、うさぎを待ち続けました。冬も過ぎ、畑に種をまく季節になり、太郎が畑仕事を手伝っていると、山の方から太郎を呼ぶ声が聞こえます。太郎は山を見上げました。なんと山に白いうさぎがぴょんと跳ねています。うさぎは約束通り、太郎に会いに来たのです。
その後も、毎年、種をまく季節が近づく頃、うさぎは太郎に会いにやって来ました。
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今でも福島に春を告げるのは、吾妻山の山肌と残雪で作られる雪形の「種まきうさぎ」。太郎の待ち遠しい気持ちは、福島の人々の春を待つ気持ちに受け継がれているのです。
ぜひ、春に福島市へ観光に訪れることがあったら、種まきうさぎを探してみてくださいね。
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