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世界のお酒と歴史:フランス:ロワール河の西で育まれるワインの歴史

ロワールワインとは、フランスの最大河川ロワール河畔に広がる広大なワインの産地である。

西の河口側からペイ・ナンテ地区、アンジュー&ソーミュール地区,トゥーレーヌ地区、そして一番陸地の奥のサントル&ニヴェルネ地区と、四つの地区がある。

今回は一番河口に近いペイ・ナンテで製造されるワインの「ミュスカデ」についてご紹介する。

ミュスカデは,「ミュスカデ」というブドウから作られる白ワインのことだ。

別名「「ムロン・ド・ブルゴーニュ」と呼ばれるこのブドウは、ブルゴーニュのメロンという意味がある。「ムロン」とはフランス語でメロンのことだ。メロンの香りがするからこの名前が付いたようだ。

色はごく薄い緑。コップに緑の液体を一滴たらしたくらいの薄さ。


今回飲んだワイン


味は口に入れた時にさっぱりしていつつも深みのある味。

ブドウのかすかな甘みがあれどもきりっとした後味があり、良い日本酒ににていて、その口当たりの良さに盃が進みそうになる。

ペイ・ナンテ地区での栽培が定着であるこのミュスカデ、なぜこの地域で栽培される様になったのだろうか。そもそもミュスカデは冷淡な気候を好むが、もともとこの土地で育っていたブドウなのだろうか。
 

ミュスカデ
https://www.vitisphere.com/news-88633-muscadet-wines-introduce-a-hierarchy-for-real.html

それには地球の壮大な気候変動が影響している。

15~16世紀ごろから太陽の動きが停滞し、ヨーロッパは全体的に寒冷化していた。

そして16~17世紀に「小氷河期と呼ばれる」寒冷化欧州を襲った。小氷河期は太陽の活動が低下し,約1世紀近く寒冷化が続いたと言われる。

イギリスのロンドンではテームズ河が凍ってスケートが出来たほどだそうだ。


凍ったテームズ川でスケートをする人々https://www.studio88.co.uk/acatalog/Frost_Fair_painting.html

厳冬がロワール地方を襲いこれまで育てていたブドウが全滅。
そこでブルゴーニュ地方から寒さに強いミュスカデが植樹された。

ペイ・ナンテ地区で最初にミュスカデが持ち込まれたのは諸説あるものの、恐らく寒冷化してこれまで育てていた赤ワイン用のブドウが全滅したのを機に時の王で「太陽王」とあだ名されたルイ十六世が「ミュスカデ・ブラン」という品種を植える様にしたとされる。

また17世紀に、ブランデーを作るための白ワインの生産地を求めていたオランダ商人も,この地でミュスカデを栽培し始めたという説もある。このオランダ商人達によってミュスカデが広められた。

寒冷期が収まった現在であっても、ロワール地域はブドウが育つ時期にに雨が多く寒冷な気候であるという。

そのためブドウ栽培農家にとってはブドウの酸味を残すことよりも、ブドウの熟れ具合が重要になってくる。その味を最大限まで引き出すのに使われるワインの製法として,「シュール・リー」という製法が使われることが多い。

ミュスカデ種のブドウは水分が多いせいか,古い昔には「単調なワイン」とされていた。

1990年代に入って「シュール・リー製法」を施すことが増えた。

シュール・リーとはフランス語で「澱の上」という意味で、ワインの発酵後に澱引きを行なわず、そのまま醸造を続ける。こうすることによって、澱からのアミノ酸などの旨味や様々な成分を含ませることに成功したという。

ペイ・ナンテ地区はロワール川の河口に一番近い場所にあり,大きな都市はナントだ。

このペイ・ナントで作られるワインは、フランスでワインの原産地を示す呼称(アペラシオン)にブドウの種類であるミュスカデの名前が入っている珍しいもの。現在では4つのアペラシオンがある。

この地域のでフランスのAOC(原産地統制呼称)になっているワインには

1) ミュスカデ・デ・コート・ド・グランリュー,
2} ミュスカデ・コトー・ド・ラ・ロワール、
3} ミュスカデ・ド・セーヴル・エ・メーヌ

の3つがある。

ナントの周辺ではローマ時代から葡萄の栽培とワインの製造が行われていた。
キリスト教が広まるにつれ、礼拝で使われる赤ワインの他、修道院に宿泊する信者のもてなしにも使われていたという。

六世紀、ヴェルトウのマルタン(Martin de Vertou)という修道士がナントの隣町のヴェルトウに隠遁して庵を築いた。

この庵がやがて増築されて修道院となった。この修道院の敷地内で育てられることになったブドウが,ロワール地域のブドウ栽培の礎となったという説がある。

聖マルタンがいた修道院は現在でもヴェルトゥの聖マルタン修道院(Abbey of Saint-Martin de Vertou)としてナントの隣町のヴェルトゥに現存する。

ヴェルトゥの主要産業は農業であり、ミュスカデの栽培ももちろん行われている。

ロワール谷はパリから比較的近く、かつてはパリから貴族たちが静養に音連れる場所でもあった。

現在も観光地としていくつか城が残っており、現在も観光客の足が絶えない。

ペイ・ナンテは、フランスでシーフードとの相性が良い白ワインとして定着している。海岸に近いペイ・ナンテはシーフードが豊富に取れ、それと相性が良いのだ。

地理的に酪農が盛んなブルターニュ地方と隣接しているせいか,乳製品を使ったホワイトソースの料理が有名である。

ソースに卵を入れ忘れたシェフが「ホワイトソース」と銘打って出したソースが反響を呼び,美味しいソースとしてその名を馳せることになった。

フランス料理はソースを大事にすることで有名だ。日本でも口にすることのできるこのホワイトソースはこの偶然の産物の恩恵にあずかることが多い。

また河の近くにあるため魚料理も有名で、ミュスカデワインを使った物や
ミュスカデワインのビネガーを使った魚料理も楽しめる。

ブルターニュの影響はまだあり、そば粉のクレープを使ったギャレットや,リンゴ酒であるシードルを楽しめるレストランもある。

ナントの町ではロワール河クルーズで現代的な建物や歴史的建造物を鑑賞するツアーもあり,また街中にはオープンエアの近代美術を鑑賞できる場所もある。

歴史的建造物としては、ブルターニュ公爵城がある。内部に歴史美術館hを擁するこの城はもともとブルターニュ公爵の住居であったが、その後フランス王家のブルターニュでの住居となった。


ブルターニュ公爵城
https://www.levoyageanantes.fr/en/places/castle-of-the-dukes-of-brittany/

ロワール河畔の建物としてはナントの近郊のGoulaine castleという城がある。ロワール河畔の城の中では初期に建てられた城で、中世の時代には要塞として築かれたものが時代を経てルネッサンス様式の城となったという。現在では17世紀の内装を擁し,王の間や15世紀の台所など歴史に富んだ内部が楽しめる。


Goulaine castle
https://www.visitnantesvineyard.com/the-destination/the-unmissable/goulaine-castle/

周辺のワイナリーも訪問可能なところがあり、約40件あまりのワイナリーが門徒を開いている。
ワイナリーのリストが観光局のホームページに記載されているので,訪問の前にご一読をお勧めする。
https://www.visitnantesvineyard.com/your-stay/on-the-wine-side/food-and-wine-tasting/



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今回飲んだワインはこちら



<参考文献>

http://brandnew-japan.info/archives/565
https://firadis.net/tellme_wine/pays-nantais_vendee/
https://pairing-wine.jp/report/detail/855
https://www.muscadet.fr/en/the-nantes-vineyards/our-story/
https://www.wine-searcher.com/regions-muscadet
https://www.visitnantesvineyard.com/the-destination/the-unmissable/goulaine-castle/
https://www.visitnantesvineyard.com/your-stay/on-the-wine-side/food-and-wine-tasting/

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