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アイルランド:甘露な褐色のクリーム

その昔、アイルランドのダブリンで一週間のホームステイをした。ホストファミリーは3人家族で、私と友人の他に2人のホームステイをしている先人がいて、ステイ期間中はとても賑やかだった。ステイ先の先輩達は日本人とドイツ人の方々だった。


そのお宅には広い居間があり、そこで毎晩ホストファミリーや一緒に滞在している人達とひと時おしゃべりの時間を過ごすのだが、そこでベイリーズというナイトキャップをもらった。そのホストファミリーでは、アイルランドに初めて来た人には、必ずそのナイトキャップを出しているという。


ベイリーズは、濃い茶色の瓶に入っており、緑色の田舎の風景のようなラベルが貼ってあった。強いお酒だから、とホストファーザーが小さなグラスに注いでくれたそのお酒は、褐色のまるで濃いカフェオレの様な色をしていた。近寄ると、甘いウイスキーの様な香りと、コーヒーの香りがする。

グラスに一つ氷を入れ、さあどうぞ、とホストファーザーが渡してくれた。そっと一口口に含んでみると、ふくいくとしたコーヒーの香りとウイスキーの様な香りがクリームでまろやかにくるまれ、鼻に抜けてきた。香りと同様に、優しい甘さが舌を包んだ。


思わずもう一口目が進んだ。カフェオレの様な風味の、甘くてとろっとして、とびきりクリーミーなお酒だった。たとえて言うなら、とにかく甘くしたエスプレッソにウイスキーと濃い生クリームをたっぷり入れたような味だった。


このベイリーズとはクリーム・リキュールの一種で、アイリッシュ・ウイスキーとココア、クリームで出来ている。50年ほど前にダブリンの酒造メーカーが作ったもので、酪農国であるアイルランドに豊富にあるクリームと、これまたアイリランドの特産のアイリッシュ・ウイスキーを使って新しいお酒ができないかと試行錯誤したお酒だそうだ。


小さなグラスになみなみと注がれ、氷を入れて冷たく冷やしたベイリーズをちびちびやりながら、暖かい部屋で、ホームステイ先の人たちと大勢でわいわい楽しんだのが良い思い出として残っている。温かい部屋で冷たくしたお酒を飲むのは、今思えば本当に贅沢な時間を味合わせていただけたのだと思う。


日本でも時々小瓶を売っているが、そこは中身がウイスキーであるベイリーズ。お値段はなかなかなものだ。大瓶で手に入れたくともめったに店では販売していないようだ。EUとの経済連携も強くなってきている昨今、どうにか日本でも大瓶を手ごろな値段で手に入れることはできないかな、と輸入物スーパーや専門店などを見て回ることがあるが、残念ながら未だにお目にかかったことはない。

オフィシャルのホームページを覗いてみると、今ではアーモンド風味や塩キャラメル風味の製品など、味にも様々な工夫がされ、バラエティも豊かになってきているようだ。瓶のデザインも金色やベビーピンクなど可愛らしいものが沢山ある。こんな愛らしいお酒を飲みに、いつかアイルランドをまた訪れたくなった。



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