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小説 | 島の記憶 第28話 -出発-
前回のお話
翌日、プアイティが朝のお告げの仕事をしている間、私はライナとインデプから交霊を試してみるよう言われた。
「どのような形で霊が懸ってくるか、まずはやってみよう。あんたの村でいつもやっていた時の様にやってみて。時間がかかってもいいから」
インデプは優しく言ってくれた。審神者にはテマナオが立ってくれた。
私は、自分が山の神殿にいて、ロンゴ叔父さんといつもやっていた通りに朝のお勤めをしていた時を思い出して、姿勢を正して座った。
こんな風に姿勢を正して頭の中を空っぽにするのは何日ぶりだろう。それまでは左足の痛みとの戦いで、神様や霊の事を考える余裕すらなかった。
久方ぶりの交霊には少し時間がかかったが、だんだん体の右側から何かが優しく入ってくる感覚があった。その途端、私の意識は身体から抜け出し、天井近くまで舞い上がった。石の天井が目の前まで来たと思った次の瞬間、目の前が少し暗くなった。
気が付けば、私は夜の星空の中にいた。星空と言っても、いつも下から眺めている星空ではなかった。まるで自分が夜の空の中にいて、暗い空間を明るいいくつもの星達と一緒に浮かんでいるような、そんな光景だった。星からは不思議な、唸るような低い音や、空間に響き渡るような高い音が出ており、沢山の星達から出る音で空間はいっぱいになっていた。
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ふと目を覚ますと、私は石の床に横たわっていた。インデプとテマナオ、ライナが覗き込んでいる。
急いで起き上がると、テマナオが神妙な顔で言った。
「ティア、あなたの家族の名前を教えて欲しい。お父さんとお母さん、それと同じ部屋で一緒に暮らしていた人達。全員の名前を教えて欲しい」
私は家族の名前を言った。祖母、マラマ。父、パイケア。母、モアナ。叔母、アリアナ。兄、ヒロ。弟、カウリ。妹、リア。
「その中で、お父さんが早くに亡くなっているかい?5~6年前に?」
私はそうだと言った。正確には6年前だとも。
「そして、従兄から貝殻をもらって、自分の枕の下に隠している?」
私は一瞬口がきけなくなった。
カイがくれた貝殻は誰にも見せていないし、ましてやこの街に来てからそんな話はしたこともない。私はおずおずとうなずいた。
「よし。それじゃ今回懸ってきた霊は信用に値するかもしれない。」テマナオが言った。
「先ほどまで、あなたの祖先という男性が懸ってきたよ。あなたの家族の名前を全員言って、他の叔父や叔母、従兄達の名前も言っていた。そして貝殻の事はあなたに話せばわかるとも言っていた。今回あなたがここに来たのは、意味がはっきりしなかったが、「記憶をつなぐこと」だと言っていた。何か心当たりはあるかい?」
私はかぶりを振った。記憶と言われても、今私にある村の記憶は、白い生き物に襲撃された阿鼻叫喚の姿と、その前の穏やかで安心感のあふれたのどかな村の姿。その二つだけだった。この大きな街と何の関係があるのか想像もつかなかった。
「そうか・・・おそらくこれは予言だと思うが、それにしても曖昧な予言だな。でも、少なくともあなたが完全入神して霊が懸る人だと分かった。」
インデプが続けた。
「それじゃ、次に相談に来る予定の人から仕事を任せようか。ちょうど完全入神した方が良い相談内容だしね。テマナオ、あんたかヴァルアかどちらかが審神者に立ってくれないかい?」
「ヴァルアは古語が苦手だからね。時間の都合がつく限り私がやろう。その代わり、インデプ、君の審神者にヴァルアが立つというのでどうだろう。」
「そうか、言葉ね。ヴァルアが審神者に立ってくれるのは、私は異議なしだよ」インデプは愉快そうに笑った。「ヴァルアは朝のお勤めをようやくこなせるようになったばかりだからね。午後もしっかり働けるように訓練しなくちゃ。」
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こうして、私はこの神殿で見習いの巫女として働き始めた。
入神している間はテマナオに任せる。そのあと相談に来た人との話は、この街の言葉を覚えながら、たどたどしくとも何とか少しずつ話していった。この街の言葉は私の村の言葉と少し似ているので、時々はっきりわかる言葉もある。私は、言葉の違う村から嫁いできた母さんの気持ちが分かるような気がした。何とかして目の前にいる人に自分の言葉を届けたい。そんな気持ち一心で毎日を過ごした。
唄も積極的に覚えていった。
神殿で働くようになってから最初の結婚式があり、私は本番でインデプ達と一緒に唄わせてもらった。驚いたことに、結婚式の唄は歌詞が少し違えども、私の村で歌われている物と音程が同じ唄だった。
式の次第も、私の村と共通点が沢山あった。まずは花冠を新郎新婦にささげ、唄が歌われた後、舞が披露される。その後巫女が祝福をささげて結婚の誓いが交わされ、巫女の唄が披露される。長が新郎新婦を祝福した後、大きな宴会となる。
儀式の度にタネロレ達も舞を披露した。この踊りや、楽器のリズムも私の村のものとよく似ている。舞を見るたびに兄の事が思い出された。しかし、毎日稽古をしているせいもあってか、踊りの完成度がタネロレ達の方が高い。こればかりは仕方のない事だろう。
宴会で出てくる食事も、村のものと共通点があった。熱く焼いた石で蒸し焼きにした肉や野菜など、まるで自分の村に戻ってきたかの様だった。
結婚式を通じて、私はこの街と私の村の共通点をいくつも見出だした。
やはりこの街は私の村とそう遠く離れていないに違いない。
私がここでやるべきことをとは何なのだろうか。自問自答をしながら私は村に帰れる日を待った。
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