記憶の欠片 ~小学生の夏、忘れられない夕立の思い出~
過去の記憶。
失った記憶や単に忘れていただけの記憶、忌々しさから奥底に封印した記憶、さまざまな記憶たち。
そんな記憶の欠片たちを拾い集めて、ひとつの物語を紡いでいきたい。
小学生の夏、忘れられない夕立の思い出
あれは小学5年生の頃だったか。
学校から帰ろうと思ったら夕立となり、傘も持っていなかった僕。
体育館の屋根の下でひとり雨宿りをし、雨がやむのを待っていた。
ちなみにその頃の僕はいじめから抜け出し、友達に囲まれた人並みの学校生活をエンジョイしていた。
まったく人生とは学校生活とは、気まぐれなサイコロの目のようだ。
雨が止むのをじっと待っていると、
「いやー、急に雨が降って来たね」
と声を掛けてきた女の子がいた。
名をN子といい、僕が密かに想いを寄せていた子だった。
「わたしも一緒に雨宿りしていい?」と言い、僕のとなりに座ったN子。
急な展開に戸惑いながらも、あまりの嬉しさに僕はN子にたくさん話しかけた。
無我夢中でなにを話したかまでは覚えていないが、N子もいっぱいいろんなことを話してくれた。
好きな子の笑顔がたくさん見れて夢のような時間だった。
「このまま雨がやまなければ、N子とずっと一緒にいられるのに…」
子供ながらにそんなませたことを思ったがそんなわけにもいかず、話題はこの大雨をどう乗り切るかへ。
N子の家は僕の家より遠いので、いったん2人で僕の家まで行き、僕のお母さんにN子の家まで車で送ってもらおうという話になった。
雨が弱まったタイミングで2人して小走りで僕の家まで向かった。
道中、また雨が強くなってきた。
激しい雨のなか目を凝らすと、少し先にある新聞屋が目に入った。
「あそこの屋根の下で雨宿りしよう。どっちが先に着くか競争しよー」
そう言うなりN子は全力で駆けて行った。
僕も負けじと追いかけた。
土砂降りの雨の中、2人して笑いながら新聞屋まで走った。
着く頃にはビショビショになっていたが、なぜかおかしくて2人して笑いが止まらなかった。
結局僕の家に着く頃には雨は止んでいたが、服もびしょ濡れだったN子。
「うちは男の子しかいないから、男物の服しかなくてごめんね」とうちの母が言い、着替えに僕の服を貸してあげた。
「変かなー?」
僕の服に着替えたN子が聞いてきた。
少し不自然だったが、妙に可愛らしかった。
生まれた街には思い出が染みついているもので、地元に帰りその道を歩くとあの時のことを鮮明に思い出す。
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