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【読書メモ】無形資産が経済を支配する:資本のない資本主義の正体

近年、「有形資産(カネやモノ)」よりも「無形資産(ノウハウやアイデア)」への投資額が増加している。20世紀後半頃から経済の価値は、「有形資産」から「無形資産」へ移っているのだ。2000年代に投資額が逆転し、この傾向は今後も急加速していくだろう。


ビル・ゲイツは、「世界経済最大のトレンド『無形資産』を理解したければ、本書を読むべきだ」と絶賛した。ちなみに、彼の創業したマイクロソフトは、その企業価値の99%以上が無形資産によるものとなっている。本書に書かれていた無形資産の特徴について、まとめておこう。


・無形投資の持つ4つの経済的特徴

スケーラビリティ:規模の限界がなく、拡張しやすい。有形資産は同時に複数の場所に存在できないが、無形資産はどこでも、瞬時に、複数、低コストで利用できる。

サンク性(埋没性):回収不能な投資費用のことであり、無形資産はサンクコストが高い(独自のノウハウなどは転売しづらい)。

スピルオーバー:無形資産には波及効果がある。オープンソースやオープンイノベーションなど、他人のアイデアから学びやすく、同時にコピーされやすい。

シナジー:組み合わせの効果。異なった無形資産同士を組み合わせることで、価値が高まる。

有形資産にもあるが、全体として無形資産の方がそれぞれの度合いが高いのだ。これは感覚的にも理解しやすい。

では、このような特徴を持つ無形資産は、経済や社会にどのような影響を与えているのか。

・無形資産による経済的影響

筆者は無形資産の増加により経済成長が停滞しているという。有形投資から無形投資への長期的なシフトが、経済の停滞を引き起こしている可能性があるというのだ。その理由が3つ挙げられている。

①低金利にも関わらず投資が伸びていない(ように見える)のは、有形資産ではなく無形資産への投資がトレンドであり、無形資産は企業のバランスシートに現れないため、無形投資は正確に計測しにくく、表面上は投資が低く見えている。そして経済指標であるGDPに反映されていないのだという。

すなわち無形資産への投資は上昇しているにも関わらず、現状ではうまく計上できていない。もしこれを正確に反映させることができれば、少しは経済の停滞を改善させることができるというのが筆者の主張である。

②特定の大企業による独占が、投資を押し下げている。GAFAなどのスター企業は、スケーラブルな資産を多く持ち、他の企業からスピルオーバーを有効活用することで、人件費などの固定費(有形資産)を削減し、生産性を高め莫大な利益をあげている。それを見た競合他社は、勝ち目がないと判断し、無理な投資を控えるようになっている。

③2000年初期のITバブルや、2008年のリーマンショックによる度重なる経済危機により、特に中小企業ではスピルオーバーやシナジーを徹底的に活用し、コストのかからない無形資産へと投資対象を切り替え、これが投資額全体を押し下げている。

以上より、実体経済への投資を過小にして、経済停滞を招いていると筆者は述べる。昨今のコロナ禍でも、オフィスという有形資産を手放し、在宅勤務への補助金拡充など無形資産への投資を促している企業は多い。

・無形資産による格差

無形資産の利用度合いにより格差が生じる。無形資産はスケーラビリティに優れ、トップ企業はますます生産性を拡大し、追随企業や伝統型企業は追いつけない。特定企業が利益を独占することで、報酬や所得の格差が増大していく。

また無形資産は移動性が高いことが多く、企業や国境を越えて移動できる。おかげで資本課税を増やすことで格差を縮小することが難しくなっており、富の格差が増大している。

さらに無形資産の重要性が増すにつれて、経済的な格差の圧力が強まり、自尊心にも格差が生じる。これが今日のポピュリスト的運動を動かす政治的な分裂へと繋がっている。

・所感

企業が収益を継続的に生み出す資産であるが形のない無形資産について、詳細に分析している。無形資産が、財務諸表や企業価値評価の指標として表されるようになる日も近いだろう。有形資産から無形資産への投資は、ますます加速しているのだから。







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