【読書メモ】NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX
休暇規程、意思決定の承認、経費規程、出張規程、KPI、、、
こういったほとんどの会社にとっての当たり前のルールが、NETFLIX(ネットフリックス)には一切存在しないという。私もマイクロマネジメントは嫌いなのだが、ルールなき組織は果たして機能するのだろうか。「世界一『自由』な会社」、他社とは一線を画す脱ルール会社、ネットフリックスはどのように企業文化を醸成し、ルールなき組織を運営しているのだろうか。
忘備録としてメモしておこう。
第1章:最高の職場=最高の同僚
リーダーの最優先目標は、最高の同僚だけで構成される職場環境を整えること。最高の同僚とは、重要な仕事を山ほどこなし、しかも類い稀なクリエイティビティ
と情熱を持った人材である。そして、優秀な人材はシナジーを生み出しお互いをさらに優秀にし、能力密度を高める。対してジャーク、怠け者、人当たりは良くても最高の成果は挙げられない者、悲観論者などがチームにいると、全員のパフォーマンスが低下する。
第2章:本音を語る(前向きな意図をもって)
率直で頻繁なフィードバックを与え合うことで、優秀な人材は傑出した人材になり、チームや会社全体のスピード感と有効性は飛躍的に高まる。リーダーは頻繁にフィードバックを求め、受け取った時には帰属のシグナルを返す。率直なカルチャーを浸透させる時には、組織からジャークを排除する。
第3a章:休暇規定を廃止する
休暇をたくさん取れるかどうかではなく、自分の好きなように人生を組み立てることができる、これがネットフリックスの自由な休暇制度の素晴らしいメリットだと思う。仕事で最高の成果を出していれば、誰も何も言わない。(ただし、上司は休暇の取り方については、様々な状況を想定しながら部下と話し合う必要がある(繁忙期に休む場合など)。)
組織の休暇規定を廃止しようと思うなら、経営者がまず範を示そう。より大きな自由を与えることで社員の当事者意識を高め、責任ある行動を促す。自由は責任に至る道なのだ。
※日本の生産性の低さにもしっかり言及されている。「過労死」はグローバルな標準語だ。
第3b章:出張旅費と経費の承認プロセスを廃止する
お金の使い方は人によって異なる。そこでシンプルなもの(=ネットフリックスの利益を最優先に行動する)にした。しかしきちんとコンテキスト(条件)を設定し、悪用した場合の報いを明確にしても、社員に自由を与えればインチキを働く者は必ず出てくる。その場合、制度を悪用する社員がいたら、他の面でどれほど優秀な人材であっても解雇し、悪い見本として社内で共有し透明性を保つ。そうすることで、全社的利益は損失を上回る。
自由を与えることで支出が少し増えたとしても、社員が飛び立てない職場をつくるに比べればまだ安い。
選択の自由を縛ると、社員のフラストレーションが高まるだけでなく、ルールの少ない環境がもたらすスピード感や柔軟性が失われてしまう。
また経費の承認プロセスを廃止するメリットは、社員が自由に手にすることだけではない。プロセスがなければ、全てが迅速化するのである。承認プロセスには管理職にコントロールしているという安心感を与えるが、全てを大幅にスピードダウンする。「会社の利益を最優先に行動すること」というガイドラインは社員に選択の自由を与え、スピーディに動けるようにすることがわかる。さらに、経費のルールが撤廃されると、支出を抑える社員が出てくる。信頼感を示すことで、社員に責任感が芽生え、社内の誰もが主体的に会社に関わろうとするようになる。
第4章:個人における最高水準の報酬を払う
一般的な企業の報酬制度は、クリエイティブで能力密度の高い会社には不向きだ。
社内の職種をクリエイティブ系と、現業系に仕分けする。そしてクリエイティブ系職種には、個人における最高水準の報酬を払う。その結果、10人以上の凡庸な人材の代わりに、たった1人の抜群に優秀な人材を雇うことになる場合もある。成果連動型ボーナスは使わない。代わりにその原資を給料に上乗せする。
能力密度を高める方法を見つける。トップクラスの人材を集め、繋ぎ止めるためには、社員から見て最も魅力的な報酬システムを常に用意しておく必要がある。
社員に対し、人脈を広げて、自分とチームの市場価値を常に把握しておくよう指導
する。そこには他社からの誘いの電話を受けたり、ヘッドハンターとの面接を受けたりすることも含まれる。その結果に応じて給料を調整する。
第5章:情報はオープンに共有
多くの企業では経営幹部が財務情報や戦略的情報を隠すことで、意図せずに社員の能力や知力の伸びを妨げている。どれほどエンパワーメント(権限委譲)の重要性を語っても、社員に主体的に仕事に取り組むのに必要な情報を与えていなければ、絵に描いた餅である。ネットフリックスでは、社員に会社のオーナーという意識を持ってもらい、その結果として会社の成功への責任感を強めてもらうことを目指した。
企業において最も深刻な問題は、事業がどのような仕組みで動いているかを誰もわかっていないことだ。野球のルールも説明せず、社員を試合に送り込んでいるような状況だ。社員は一塁から二塁へ盗塁しようとするが、試合全体の流れが今どうなっているかはまるで理解していない。
透明性が問題を引き起こすことももちろんある。だが1人の社員が信頼を悪用したとしても、それに個別に対応する一方、他の社員に対しては透明性を維持する決意を新たにすべきだ。ひとにぎりの者の誤った行動のために、大多数を罰するようなことはしてはならない。
一方プライベートな問題は、公表するかは選ぶ権利は本人に与えるべきだ。個人のプライバシー権は組織の透明性に優先する。一般的に職場で起きた問題については、全員に周知すべきだと思う。しかし社員のプライベートな問題について判断に迷ったときには、詳細を明らかにするかの判断は個人に委ねるべきだ。
自分の過ちを正直に語る人間に、我々は信頼感を抱くものだ。リーダーが失敗を「公表」する最大のメリットは、失敗するのは恥ずかしいことではないと誰もが考えるようになることだ。その結果社員は成功が確実ではなくてもリスクを取るようになり、会社全体でイノベーションが活発に生まれるようになる。自らの弱みをさらけ出すことで信頼が生まれる。助けを求めることで学習が促進される。ミスを認めることで寛容さが生まれる。失敗を積極的に語ることで社員が勇気を持って行動するようになる。
ただし例外もある。リーダーがまだ有能さを証明できていない、あるいは周囲の信頼を勝ち得ていないケースだ。その場合は失敗を堂々と認める前に、まずは自分の能力への信頼を勝ち取ることを優先しよう。
管理(コントロール)を廃止するなら、社員が管理職による監督がなくても優れた判断を下せるよう、必要な情報は全て提供しなければならない。そのためには組織の透明性を高め、社内の秘密をなくす必要がある。社員に優れた意思決定を望むなら、彼らも社内で何が起きているかを経営トップと同じように理解しておく必要がある。
第6章:意思決定にかかわる承認を一切不要にする
上位承認の壁が無数にあると、何事にも自分でやったという意識を持つことができない。アイデアを思いつき、プロジェクトを立ち上げても、ようやく関係者全員の承認を得るころには、すでに自分の仕事という気持ちは失われている。そしてたとえ失敗しても「自分のほかにも30人が承認したんだから、私のせいじゃない」と思ってしまう。
人は自分で意思決定を下すことができる仕事を望み、そのような状況下で力を発揮する。Netflixのようなスピード感があるイノベーティブな会社では、完璧に仕上げることが重要なのではなく、速く行動を起こし、やりながら学ぶことが肝心なのだ。自ら判断し、それに対して自ら責任を負う職場だ。重要でリスクの大きい意思決定を下す権限は職位に関わらず、組織の様々な階層に分散すべきだ。
第7章:キーパーテスト
チームのメンバーが明日退社すると言ってきたら、あなたは慰留するだろうか。それとも少しホッとした気分で退社を受け入れるべきだろうか。後者ならば、今すぐ退職金を与え、本気で慰留するようなスタープレーヤーを探そう。
第8章:フィードバック・サイクル
ネットフリックスで利用されているフィードバックのガイドライン4Aとは、
フィードバックを与える側;
・Aim to Assist ; 相手を助けようという気持ち
・Actionable ; 行動変化を促す
フィードバックを受ける側;
・Appreciate ; 感謝する
・Accept or Discard ; 取捨選択
与える側は、相手を助ける気持ちで行い、行動を促すようなフィードバックを。受ける側は、感謝することを忘れず、受け入れるかどうかは自分で判断すること。上司に対してフィードバックを行わないことは会社に対する裏切りである。
第9章:コントロールではなくコンテキストを
コンテキストによるリーダーシップを実践する条件は、能力密度が高く、組織の目標はミス防止でなくイノベーションであり、疎結合な組織であることである。社員に何をすべきか指示するのではなく、彼らが優れた意思決定をできるように、あらゆるコンテキストを提供し、議論を重ねる。
そして経営トップや幹部から受け取った情報をもとに、社員が自ら素晴らしい意思決定を下し、チームを望ましい方向へ動かしているなら、コンテキストによるリーダーシップがうまく機能している兆候である。
第10章:すべてのサービスを世界へ!
国によってバックグラウンドや考え方は異なるのは当然だ。多様なメンバーと働いていると、衝突は避けられない。結論のみを話すオランダ人の直接的なコミュニケーションは、シンガポール人にとっては気分を害することもある。昼食はさっと摂るアメリカ人もいれば、ゆっくりと相手の週末の予定を話したいブラジル人もいる。国による差異に対する意識は高まったものの、それをどう克服するか、明確な解はまだない。視野を広げて、相手の考え方を受け入れよう。
所感
社員の能力密度を高め、率直さを高め、コントロールを減らすことで、ネットフリックスは企業カルチャー(自由と責任)を醸成し、コントロールを撤廃したようだ。
この企業文化は、ミスを防ぐことを優先しなければいけないオペレーティブな組織には向いていない(産業革命後、大量生産やミス防止型の製造業への経営パラダイムが産業界を支配し、今でもその文化を色濃く残す企業は多い。)。しかしクリエイティブな組織づくりには抜群の効果をもたらす。自由と責任を徹底的に追求するこの姿勢は、次世代の企業や組織の1つのあるべき姿なのかもしれない。
しかし、、、特に日本の企業において、これを真似することはおそらく不可能だと感じた。
まず、優秀すぎる人材あってのルールなき組織である。能力密度を高めることは、文字にすると簡単に思えるが、実行するのは極めて難しい。新卒一括採用や終身雇用が蔓延るレガシーな日本企業ではまず実行できないし、採用制度を撤廃変更できたとしても、業務内容、給与水準、職場環境を図抜けた水準に保つことは一筋縄ではいかない。
次に率直さを高めることも厳しいだろう。本書でも書かれていたが、上司へのフィードバックなど、日本で実施している企業がいくつあるだろうか。立場が上の人に向かって、率直に意見を言う文化が、ガラパゴス国家日本にはそもそもないのだ。
そして日本はスペシャリストを評価せず、ゼネラリストになることが良しとされている。年を重ねた管理職が溢れかえっているのだ。彼らの仕事やポジションを見直さない限り、コントロールは撤廃できないだろう。
ネットフリックスのこの前衛的な取り組みは素晴らしいし、羨ましくも感じた。しかし、安易に真似るべきではないし、同じように成果を出すことが到底厳しいだろう。組織マネジメントよりも、個人として台頭することが大事だという印象が残った一冊。
※写真は天気のいい日に多摩川を散歩中に撮った一枚です。街歩きや散策にふさわしい季節になって参りました。コロナが早く収まってほしいと願う今日此頃です。
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