行きずりの街

横浜、冬にはお化粧程度の雪が降ることも慣れてきた。あの街は全く雪が降らなかったから、冬の思い出といえば、河川敷の草の色が寂し色(※さみしいろ:勝手に俺が作った色)になること、風が乾燥して肌に当たると痛いこととか、酒をやってそのまま外で寝て死にかけたり、秋と春との境目の曖昧な冬の思い出ばかりで、降る雪を見慣れた自分に、少し背が高くなったような気がして心地が良くなった。
そういえば、小学生の頃、冬の朝学校に行くと蛇口から大きな氷がタワーのように出来ていて、同級生達とふざけ合った記憶がある。その時の俳句の授業で友達の1人が、氷のタワーと当時建設予定で話題になっていた東京スカイツリーを重ねた句を読んでいて、えもいわれぬ胸の高鳴りがあったことを思い出した。今になって振り返ると初めての経験と、これから起こるであろうまだ見ぬ期待が混じり合った見事な一句である。
実はその時自分が読んだ句を未だに覚えている事は恥ずかしくてあまり人に言えない。

畳の上に電熱線の通ったカーペットを敷いて、寒さを凌いでいる。白い息を吐きながら1人で食べきれないほどの鍋を作るのが最近の楽しみだ。缶ビールを1、2本やって、茶割りを少し飲んで寝てしまう。最近はもう深酒はしないようにしている。ホットカーペットの上で眠ると体が火照るせいか、不思議な夢をよく見る、大袈裟に言うと魔法の絨毯で寝ているとも言えなくもない。
いつだったか猫を飼う夢を見た。飼っているというより、部屋の中に猫がいてそれを寝転がりながら眺めている夢なのだが、変に愛着が湧いてしまって、街の中を歩く猫たちの顔を見ては、違うなぁと一人思う日々である。偶然にも、雪のように真っ白な猫で、口紅のような緊張感のある目をしていた。
いつか会えれば抱きかかえてみたい。きっと一緒に暮らせることなんか無いだろうけど。

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