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R怪談「最新型性玩具人形」・・・父親が残した遺品とは。


A男は、父親が40歳を超えた頃に出来た一粒種だった。
決して不細工と言う訳ではなかったが、
幼い頃から猫背気味に歩く癖があり、目つきも悪く、友達が出来なかった。

若い母親はA男が5歳の時に事故で亡くなり、
その頃から、優しかった父親は人が変わったようになった。

「この、人間の出来損ないが! 真っ直ぐに生きないと、こっちが苦労するだろう!」

そう言って暴力を振るのだ。

だが、A男が二十歳になった年、父親が酒に酔って川に落ち、亡くなった。
泳ぎが得意だったはずの父親が川で溺れるなんて信じられなかったが、
通りがかりに目撃した従妹のB子によると、父親は
ただ何もせず流されていくだけだったという。

「何か、生きるのを諦めたみたいだったわ」

歳の近いB子にそんな風に言われると、その原因が自分にあるのではないか、と責められているようにA男は感じた。

遺品を整理するために、数年ぶりに父親の部屋に入ると、
大きな姿見の前に、木製のリクライニングチェアがあり、
その上に等身大の女の人形が乗っていた。

金髪で青い瞳。半開きの口に、柔らかな樹脂で作られた肌は、人間と同じような柔らかさがあった。
ブランド物のワンピースを着せて椅子に座らせているが、性玩具であることは容易に想像が出来た。

「オヤジの奴、こんな物を使って・・・」

年老いた父親の性生活を垣間見て、少し悲しい気分になった。

だが、その人形のクオリティは凄かった。
近年、ラブドールと呼ばれる性玩具人形が世界でも高い評価をされていることはネットのニュースで見たことがある。等身大で表情も人間らしく、プロポーションなども改選されているという。
しかし、この人形はそれらとは桁違いに人間に近かった。
その表情は憂いを秘めているのに、素直そうにも見える。
微かに茶色が混じった髪の毛は、手の間からすり抜けるように柔らかく、
全身に纏った柔らかな曲線美の肉体は、人間のそれを凌駕して魅力的だった。

その晩、A男はその人形を抱いて寝てみようと思った。
布団を敷き、人形を横たえ、並んで横になった。
父親が晩年どんな気持ちでいたのか、いくらか理解できるかもしれない。
そんな事を考えながら、A男は目を閉じた。

朝、子供たちが挨拶する声で目を覚ました。

体を起こそうとしたが、全く動かなかった。

「どうしたんだろう」

どうあがいても指一本動かず、天井板を眺めるだけのA男の視界に、
A男の顔をした男が入ってきた。

「え?」

混乱するA男を、覗き込んでいるA男が抱え上げ、
動かない体をリクライニングチェアに座らせた。

目の前の鏡に映る姿を見て、A男は驚いた。

正面から自分の姿を見ている筈が、鏡の中にいるのは、昨日見た金髪の女の人形だった。

覗き込んでいたA男は、鏡の中の人形を真っ直ぐに座らせると、
自分と人形を見比べた。

「今度の体も悪くないが、ちょっと猫背なのを直さないとダメかな。
あんた、姿勢が良くないよ。だからさ・・・」

そう言うと、A男の姿をした男は人形の腹を殴った。

「この、人間の出来損ないが! 真っ直ぐに生きないと、こっちが苦労するだろう!」

その口調は父親そっくりだった。

その時、ピンポーンという音とともに、インターホンのスイッチが入り、モニターにB子の姿が映った。

「そうだな。女の体もいいかな・・・」

A男の姿をした男は、玄関に向かった。

人形の中のA男は、その後ろ姿を眺める事しかできなかった。

          おわり



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