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「同じ靴」・・・怪談。彼女が選ぶ理由は。



『同じ靴』

里奈は、いつも同じスニーカーを履いている。
最初気付いたのは、仕事帰りに会った時だった。
黒のビジネススーツに不釣り合いの赤いスニーカーを履いている。

「足が疲れるから、ヒールは会社のロッカーに入れて、これで通勤しているの」

そんな言い訳をその時は素直に信じた。

だが、休日のデートでも同じスニーカーを履いてきた。
遊園地でも、クラシックのコンサートでも足元は同じ。
赤いスニーカーを履いてくる。

「履きなれてるから」
「急いでたからうっかりして」

その都度言い訳をするのだが、段々納得がいかなくなってきた。
まさか他の靴を持っていない、なんてことは無いよな。
と思ったが、毎回同じスニーカーなので
どうしても気になってしまう。

しかし女性のファッションをとやかく言うのも悪いと思ったので
こっそりと確かめてやろうと思った。

「里奈の手料理が食べたいな」

適当な理由を付けて、里奈のマンションに行きたいと言うと、
里奈は一瞬躊躇したが、

「じゃあ。次の週末ね」

と言ってオーケーを出した。

まさか彼氏が家に来る理由が、下駄箱の中を見たいから
などとは、考えてもいないのだろう、当然だ。

里奈のマンションは、鉄製の玄関ドアから少し長い廊下があり、
その両脇にトイレと浴室、寝室のドアが並び、
一枚ドアを挟んでリビングダイニングになっている。

リビングに置かれた可愛いグッズや縫いぐるみも含めて、
明るい暖色系でコーディネートされていて、穏やかな雰囲気で統一感があった。

前日に大急ぎで勉強したのだろう、本棚に斜めに刺さった料理本が嬉しかった。

俺は本当の目的を隠していることを少し後ろめたく感じたが、
部屋が綺麗にまとまっていることで、いつも履いて来るスニーカーとの違和感が
より強くなっているのも確かだった。

「あ。ヨーグルト買ってくるの忘れちゃった」

「じゃあ。俺、一階のコンビニで買ってくるよ」

「お願いしていい? ごめんね」

「大丈夫。無糖でいいよね」

うなづく里奈に手を振り、俺はこれ幸いとリビングを出ていった。

廊下とのドアを閉めてしまえば、
玄関で何かしていても分からない。
下駄箱を少し覗くくらいは気づかれないだろう。

俺は玄関で靴ひもを直すふりをしながら、リビングのドアが閉まっているのを確認し、
静かに下駄箱の扉を開けた。

真ん中に明るいオレンジ色のパンプス。
その横にオレンジとピンクのサンダルと
反対側には、やや落ち着いた茶系のヒールなど、
リビングと同じように、暖色系でコーディネートされた履物が並んでいる。
その端に隠すように、いつもの赤いスニーカーが置かれていた。

「なんだ。良いの持ってんじゃん」

俺は、何気なく一番明るい色のパンプスを手に取ってみた。

天井からの光に映えて、その靴はより可愛く見えた。

「これ履いて来ればよいのに」

下駄箱にパンプスを返そうとした時、靴を取って空いた空間の奥にある壁に、
二つの白く光るものを見つけた。

それは、こちらを凝視する二つの目だった。

充血した血管を浮き立てて、瞬きもせずに睨みつけてくる。
黒い瞳には、怒りの影が見える。

「うわあっ!」

俺は思わず声を上げて、尻餅をつき、持っていたパンプスを落とした。

その途端、そのパンプスにも目が現れてこちらを睨んだ。
それだけではない、下駄箱の中のサンダルやヒールにも
たくさんの目が現れ、カッと見開いてこちらを睨みつけた。

目、目、目だ。

「見たのね」

その声に振り向くとすぐ後ろに里奈が立っていた。

「その下駄箱、赤いスニーカー以外を取り出すと、そうなっちゃうのよ」

里奈は、包丁を持った手振り上げた。その全身に、下駄箱の目と同じように、怒りに燃えた目が貼りついていた。

数分後、薄れゆく意識の中で、俺は里奈の声を聞いた・・・

「だから、女のファッションに首を突っ込むなって言ったでしょう」


女性のファッションをとやかく言う男性は嫌われるのです。

それが、どんな理由であろうとも。


                  おわり




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