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「七回忌のザリガニ」・・・父と従兄と息子と私。


「ザリガニ釣りに行くぞ!」


その夏、3歳上の従兄のマサシが誘いに来ると、私の気分は落ち込んだ。

決して彼が嫌いだったわけではない。
生粋の運動オンチの私は、何度やってもザリガニを上手く釣れないからだ。

下手クソな私を笑うためだったのか、
逆に鍛えようとしていたのか、
翌月、マサシは交通事故で亡くなってしまったため、
今となっては確かめようもない。

ただ、父が私以上にマサシを可愛がっていたことは鮮明に覚えている。

× × ×


父の七回忌で、久しぶりに故郷の生家に帰った時、ふとそんな夏の日の事を思い出した。

息子の遥人がその時のマサシと同じ年齢だと気づいたのも
思い出すきっかけになったのかもしれない。

慌ただしい七回忌の法要が終わり、
鳴き続けていた蝉の声がようやく耳に届き始めると、
その頃の事がとても懐かしく、心に甦って来た。

納屋に残っていた細い竹と糸を使って
簡単な釣り竿を作ると、遥人に声を掛けた。


「ザリガニ釣りに行くぞ!」

キョトンとした息子の手を引いて、裏手の水田に向かった。

幸運なことに、生家の回りは市の開発区域からも外れていて
広い田園風景がそのまま残されていた。

昔マサシと一緒に行った用水路が
あの頃と同じ緩い流れのままで、そこにあった。

注意深く覗き込むと、浅い 流れの脇に
数は少なくいが、まだザリガニはいる。

私は高揚してくる気持ちを押さえ、

釣竿を遥人に渡し、ザリガニ釣りの方法を教えた。
それは、全くマサシの受け売りだったが、
何となくそれがマサシの供養にもなるような気がしていた。

「じゃあ。やってみな」

私に促された遥人は、つまらなそうに
流れの脇にいるザリガニの前に糸を垂らした。

糸の先に付いたスルメで、大きな赤いハサミを二三度刺激すると
ザリガニは邪魔者を払うようにハサミでスルメを掴んだ。

遥人の反応は早かった。
誰から聞いたわけでもないのに、
さっと竿を振り上げると
ザリガニは宙を飛び、近くの畦道の上に転がった。

「釣れた!」

途端に明るい表情になった息子を見ながら、
私は少し嫉妬のようなものを感じていた。

遥人は糸を垂らすたびに一喜一憂し、
大はしゃぎしていた。

その姿を見て、
マサシがなぜあの夏、私をザリガニ釣りに誘ったのか分かったような気がした。

マサシは、ただザリガニ釣りが好きだったのだ。

私を笑うのでも鍛えるのでもなく、
ザリガニ釣りの喜びを共有しようとしていたのだ。

そんな純粋な男だった、マサシは。

振り上げた竿のしぶきが飛んだ、と言って誤魔化しながら、
私はハンカチで涙を拭いた。

                     おわり


現在でも、少し郊外に出れば、農業用水や池などの水たまりに
アメリカザリガニはいて釣りは出来ます。

先日幼い頃にやったのを思い出しながらやってみると
面白いように釣れ、持って帰って、茹でて食べてみた。

泥を吐かせる為、しばらく水槽に入れておき、
少し塩を入れた鍋で、15分くらい茹でる。
寄生虫などの心配がないように長めに茹でます。

味は小型のエビそのもので
マヨネーズを使ったディップによく合う。
爪の中身まで食べられるのだが、蟹以上に食べづらかった。

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