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成長の糧【Jリーグ】浦和レッズvs湘南ベルマーレ

ルヴァンカップで2回対戦し引き分けに終わっている両チーム。今シーズン3回目の対戦はホーム埼玉スタジアムでの一戦となりました。

代表ウィーク中にルヴァンカップと天皇杯を戦った両チームですが、直近のリーグ戦では2戦連続で引き分けに終わっているので勝点3が欲しいところです。

湘南はリーグで1番引き分けの多いチームで粘り強く戦うことのできるチームです。浮嶋体制3シーズン目に入り成熟したチームを相手にレッズがどのような戦いを見せるか注目でした。


スタメン

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レッズはルーキーの大久保がリーグ戦初先発。ボランチには金子が伊藤とコンビを組み、天皇杯とルヴァンカップで先発起用されてからリーグ戦でも先発起用となった。

一方の湘南は直近のルヴァンカップからメンバーを6人変更。古巣対戦となる山田はスタメン、梅崎と岡本はサブに入った。


試合内容

前半はレッズがボール保持をする時間が長くなる。前半9分にレッズのFKで攻め上がりをしていた槙野が明本のクロスに反応する。そのこぼれ球がユンカーへと繋がり冷静にゴールに流し込んでレッズが先制する。しかし、前半27分にレッズのショートゴールキックから金子の横パスを湘南に奪われ、最後は山田にゴールを許し同点となる。34分にレッズのカウンターから田中(達)が裏へ抜け出すもシュートは湘南の高橋にブロックされ得点にはならず。前半は1-1で折り返す。

後半も前半と同じようにレッズがボール保持する時間が多い展開に。52分にレッズはカウンターで小泉のスルーパスに抜け出したユンカーが鮮やかなループシュートを決めて勝ち越しに成功する。得点後からレッズの勢いが徐々に増していき、63分には大久保のスルーパスに抜け出したユンカーが強烈なミドルシュートを放つもポストに嫌われる。直後の64分には大久保がドリブルからシュートを放ち、こぼれ球をユンカーが詰めるもゴールネットを揺らすことができない。飲水タイムを挟んだ後の70分に左サイドからのクロスをウェリントンが頭で合わせ湘南が同点に追いつく。その後、78分に関根がシュートを放つも僅かにゴールから外れる。ゲーム終盤の88分に彩艶のパスミスからピンチを迎え、左サイドからのクロスを岡本に決められてしまい湘南に勝ち越しを許す。レッズは杉本を投入しパワープレーで同点を目指すがチャンスを作れずに試合終了。リーグ戦6試合ぶりの敗戦となった。

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・試合スタッツ

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・試合ハイライト動画


狙いを持ったボール保持

この試合でレッズは19本のシュートを放ちました。今シーズンで1番多くシュートを打った試合であり、その分チャンスや決定機も多かった印象です。

レッズはどうやってゴールに向かっていくのかという課題を抱えていますが、この試合ではどうやってアタッキングサードに侵入するのか共通意識を持てていたように思えます。アタッキングサード(30mライン侵入)回数は51回とレッズの今シーズンの平均値を大きく上回る結果となりました。狙いを待ったボール保持ができていたと思います。

湘南は前からプレスをかける時と5-3-2(3-5-2)のブロックを作って構える時を使い分けていました。湘南が前からプレスに行く時は下の図のようにWBがレッズのSBまで飛び出して噛み合わせてきました。

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プレスをかける2トップに対して最終ラインを3バックにして前進する形が多かったレッズですが、この試合では2-4-1-3のような陣形でビルドアップしていました。特に西のところにはWBの高橋が激しく寄せてきたので、西を起点とした攻撃を展開することができませんでした。それでも全体的に試合を振り返った時に岩波や小泉を中心に上手く攻撃を組み立てることができていました。

湘南の守備に対してレッズの狙いとしてはGKを含めたビルドアップで2トップのプレスを無効化し、テンポよくボールを回して相手のプレスを回避するか大久保、小泉、田中の2列目の個人技でマークを剥がすような設計だったと思います。

前半の立ち上がりは湘南が激しく前からプレスをかけてきましたが、鈴木を含めたビルドアップで上手く回避して湘南のプレスを無力化し、レッズのCBsが余裕を持ってボールを持つことができました。


・背後のスペース
レッズがチャンスを多く作れた理由に湘南が前に出てきて背後にスペースが空いたという事があると思います。特に岩波がボールを持つと田中はWBの背後、ユンカーがCBの背後へと飛び出す動きを見せていました。

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7:00では岩波から田中(達)へ背後へのロングパスで敵陣深い位置を取りましたし、27:38では岩波からユンカーへ背後のパスが渡りユンカーがシュートまで持っていきました。レッズは湘南が前に出てきたところを裏返すような形を狙っていました。

2点目のユンカーの得点もカウンターで小泉の背後へのスルーパスにユンカーがループシュートを決めました。この試合だけでも34分の田中(達)のシュートを打ったシーンや63分に大久保のスルーパスに抜け出してユンカーがシュートを打ったシーンでも背後のスペースを上手く使えていたことがわかります。


・2つの前進方法
ただ湘南がしっかりと守備陣形を作った時でも良い形でゴール前までボールを運ぶことができていたと思います。最近の試合の課題でなかなか5バック(3バック)で守る相手に対して前進ができなかったレッズですが、狙いを持ったボール回しをすることで上手くアタッキングサードに侵入することができました。

自陣からアタッキングサードに前進する上でポイントが2つあったと思います。

①オーバーロード(密集)から逆サイド
これまでのレッズは密集状態からなかなか逆サイドに持っていくことができませんでした。逆サイドにボールを運ぶにはサイドチェンジのロングパスか中盤を経由してのサイドチェンジが基本ですが、この試合ではロングパスと速いテンポのショートパスを使い分けながら逆サイドまでボールを運ぶことができたので、SHが良い状態でボールを受けることができました。

47:41は右サイドで密集を作ったところで西がボールを浮かせて逆サイドに展開することで上手く前進した場面でした。

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他にも22:45では伊藤(敦)から逆サイドへ大きなサイドチェンジで西にパスが渡り、西から田中にパスが出て仕掛けることができました。64:27では関根から大久保にパスが渡り大久保がドリブルからシュート、こぼれ球をユンカーの決定機という場面もありました。どちらもオーバーロードからサイドチェンジをする攻撃でとても効果的にゴールに迫ることができていました。

②ハーフスペース
またこの試合でレッズの選手達(特に2列目)が意図的にハーフスペースでボールを受けようとトライしていました。

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これまでの試合に比べてもかなり高い意識で2列目はハーフスペースに入ってきていましたし、岩波や伊藤(敦)もハーフスペースを常に意識して縦パスを供給していました。大久保は前半はあまり目立ちませんでしたが後半はハーフスペースでボールを受けてから持ち味のドリブルを発揮するような場面が増えました。また途中出場の関根は田中(達)とは異なり1つ内側のレーンでプレーする意識が高く、小泉だけでなく関根もハーフスペースで受けれていたので、西が大外から上がってこれる好循環を生み出していました。

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78:18のシーンでは西のパスにユンカーがハーフスペースに入り、裏に抜けた関根にスルーパスが渡りシュートまで持っていくなど右サイドで上手く攻略した場面でした。

関根と交代した田中(達)は持ち味の縦突破や裏に抜けるランニングなどをこの試合で多く披露して脅威になっていましたし、50:56では左足でカットインからクロスを上げるなどプレーの幅を拡げていましたので関根とは違うキャラクターで良い変化が付いていたと思います。関根と田中(達)で攻撃の変化が加えられたので湘南は非常に守りづらかったと思います。


生命線

レッズの取り組んでいるサッカーにおいて自陣深い位置からのビルドアップは欠かせません。GKを含めたビルドアップをすることで11vs10の数的優位を作り前進していくためです。

この試合ではレッズのサッカーの『生命線』である自陣深い位置でビルドアップする際にミスがあり、そこから失点をしてしまいました。1失点目と3失点目はレッズのビルドアップミスから生まれた失点でした。

当然、失点の原因として金子と鈴木の技術的なミスがあります。1失点目では金子のパスが弱く、そしてウェリントンにパスを読まれていたのでパスカットされました。また3失点目では槙野が鈴木にパスを戻しましたが、その判断も微妙でしたしパスもバウンドしていて鈴木のミスを誘発させてしまうようなパスでした。そして鈴木のパスも精度を欠き相手へと渡ってしまうなど判断と技術的なミスがあったことは事実です。こういったミスは練習して精度を上げていくしかありません。

技術的なミスは当然改善しなければいけませんが、それ以外にも失点に繋がった原因が2つあったのではないかなと思いました。

①ゴールキックのデザイン
1失点目に関してはゴールキックのデザインがあまり良くなかったように感じました。27分の1失点目のシーンでレッズはゴールキックでショートパスを選択しました。レッズの陣形に対し湘南はマンツーマンでマークするような形を取りました。

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金子がボールを受けた時にタリクと対面する形となります。この状態だとプレスをもろに受ける形となります。仮に岩波にパスを通せていたとしても、岩波もウェリントンと対峙していてプレスを受けやすくなっています。ですので、ゴールキックからのビルドアップのデザインがあまり良くなかったのかなと感じました。

例えば下の図のように鈴木と金子が並列になれば正面からプレスをかけられることはありませんし、金子がプレスを受けた時に鈴木にパスすることで次に展開することができます。

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しかし、先程のゴールキックの形ではGKに戻すことができないのでプレスを受けた時に金子は横にパスするしかありませんでした。

また伊藤(敦)と小泉を横並びに変えるだけでも金子がボールを持った時にパスコースを作ることができます。タリクにプレスを受けてもこの角度であればパスすることができますが、失点シーンでは伊藤(敦)がタリクの背後に立ち位置を取るのでパスコースがありませんでした。

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この試合のレッズのゴールキックは湘南のゴールキック時のマークに対してプレスを受けやすい、ボールを失いやすいデザインだったと思います。選手の配置も含めて修正が必要だったと感じました。


②リアクション
またゴールキックや自陣深い位置でのミスでボールを失った時の他のレッズの選手達の反応も遅れていたと思います。1失点目では最終的に小泉が山田まで戻り切れずにシュートを許してしまいましたし、3失点目では大久保が岡本まで戻ることができませんでした。

選手達がサボっていたために守備に戻り切れなかったというよりかは、奪われる想定をしていなかったのでミスした後の反応が遅れ、最後のシュートシーンでは一歩及ばない場面となってしまいました。

ビルドアップでのミスをしないことが一番重要ですが、レッズの自陣からパスを繋ぐサッカーをする上ではミスは必ず起きてしまうものなのでミスが起こった後にどう対応するのか今一度整理する必要があると思います。

ただ、結果としてこのサッカーの生命線であるビルドアップでミスがあったことはこの試合の結果に大きく影響を与えました。金子や鈴木はこの経験を成長の糧にして次に活かしていってほしいです。



この選手のここがすごい!

個人的にこの試合の中で取り上げたい部分を紹介しようと思います。

・キャスパーユンカー
まずはこの試合で2ゴールを上げたユンカーの凄さはレッズサポーターなら誰でも知っていると思いますが、その中でも取り上げたいポイントがシュートへの体の作り方、シュート精度、無駄のない身のこなしです。例えば1点目のシーンではボールがユンカーのもとに来た時にシュートを打つには体勢が良くなかったと思いますが細かいステップでシュートに持ち込み、正確にコースにシュートを打つことで得点しました。

27:38の岩波からの背後へのボールに持ち前のスピードで抜け出した後に左足の方へボールをコントロールしましたがトップスピードの中であれだけ正確にボールをコントロールする技術や無駄のない身のこなしは素晴らしかったと思います。簡単にやっているように見えますが通常であれば左足の方へコントロールするのはかなり難しい状況でした。

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これまでにシュート精度の高さやスピードなど遺憾なく発揮していましたが、この試合でも7本の内5本は枠内シュートと精密機械のようなシュートですし、毎試合ユンカーのプレーに驚かされています。


・大久保智明
リーグ戦初先発を果たした大久保ですが堂々たるプレーを見せていたと思います。まだまだクロスの質やフィジカルの強さなど改善の余地はありますが、持ち味を活かす場面が多く見られた試合でもありました。

ドリブルの回数はチームトップの8回で成功率も50%とまずまずの数値ですし今後に期待できると感じました。田中(達)と大久保の両SHがどんどん仕掛けてくると相手はいやでしょうし、この試合も2人が積極的に仕掛ける姿勢が良かったと思います。

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大久保の凄いところは左利きの選手ながら左サイドからカットインして内側に入ってきたときにプレーの選択肢が減らないところだと思います。76:48の大久保のドリブルと84:29の明本のドリブルを見比べてみるとわかりやすいと思いますが、カットインした時に体の向きが大久保は前向きなので前方や左サイドにもパスを出せるような状態になっています。63:26のユンカーへ出したスルーパスも一列内側に入ってきてのプレーでユンカーにパスを出すのは難しい状況でしたが、アウトサイドで素晴らしいパスを送っていました。

個人的には左SHは未だに誰が務めるのか決まってないように思うので、今後のパフォーマンス次第では十分にスタメンを狙えると思います。ルーキーならではのハングリー精神でメキメキと成長していってほしいです。


最後に

負けはしましたが個人的には今シーズンのベストゲームだったように感じました。皮肉にも良い内容だった試合では結果が出ずに、あまり良い内容でなかった時に結果が出たりします。この試合においても何回もPAに侵入し、多くのシュートを放ち、多くのチャンスを作り、ほとんど危ない場面を作らせなかったのにも関わらず、敗戦となりました。サッカーとは不思議なスポーツだなとつくづく感じました。

ただレッズはここからぶれずに続けていくことが大切だと思いますし、鈴木や金子にはこの試合を成長の糧にしてほしいと感じました。チームとしてはここ3試合勝ちがない状況ですが、今日のようなパフォーマンスを見せることができれば結果もついてくるようになると思うので前向きにチャレンジしていってほしいと思います。この先も連戦が続くのでしっかり気持ちを切り替えて次節の柏戦に向けて準備してほしいです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


出典:


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