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モダンフットボールにおけるSBの振る舞い

横浜F・マリノス 2-0 浦和レッズ
昨シーズンのJリーグ王者が横綱相撲で勝利、アウェイの浦和は開幕戦から連敗+無失点と厳しいスタートとなった。

マリノスのビルドアップと浦和のハイプレス

マリノスのビルドアップは基本的に両SBがやや高い位置を取った2-4-4をベースとして、そこから相手のプレスを見て形を変化させながら前進する。

前半の半分くらいまではマリノスが一方的にボールを握り、チャンスも多く作った。浦和は2トップのプレスに対して後ろが付いてこれない場面が散見し、ハイプレスが機能しなかった。

下の図のように浦和は2トップがマリノスのダブルボランチを背中で消したところからCBにプレスをかけるハイプレス。しかし、中盤を見てみると、マリノスのダブルボランチ+水沼+西村の4枚に対して浦和は2トップ+ダブルボランチでマークしているため、リンセンや小泉がCBまで飛び出した際にマリノスのボランチがフリーになる構造となっていた。

マリノスのビルドアップと浦和のハイプレス

マリノスのハーフスペースに立ち位置を取る選手は西村+もう1人というような構成なので、状況に応じてSBやWG、ボランチの喜田がハーフスペースに顔を出していた。

ボランチがハーフスペースの管理に追われ、2トップのCBへの制限も効かない浦和は前半はほぼハイプレスが機能せずにミドルブロックを作ることを強いられる厳しい展開となった。前半の24分過ぎた辺りからはボランチが持ち場を離れてマリノスのボランチまで飛び出せるようになったが、浦和にとって苦しい試合の入りだったことは間違いない。

SBの振る舞い

マリノスの両SBはかなり積極的に前線へ飛び出す。そしてマリノスのSBの秀逸な点として必要に応じてインサイドとアウトサイドの立ち位置を使い分けられることと、高い位置を取るタイミングだ。

例えば前半の8:18にLCBの角田からインナーラップで高い位置を取っていたLSBの永戸がハーフスペースでボールを受けた場面があった。この場面ではRCBの畠中がボールを持った際にボランチの喜田がRSBの位置に下りてRSBの松原が大外の高い位置を取ったところから左サイドへと展開した。

前半の角田から永戸へのパス

この場面で言えば、右サイドと左サイドでSBが動き方が違い、動き出すタイミングや使うスペースも違っている。

モダンフットボールにおいてSBは重要な役割を担うことが多く、アーセナルのジンチェンコやマンチェスターシティのリコルイスはボランチの位置に入ってビルドアップに参加する。アケやベンホワイトはCBタイプのSBで持ち前の守備力に器用さを兼ね備えていてバランサーとしても機能している。バルセロナのバルデは攻撃時には大外の高い位置に張り出しWGのような振る舞いを見せる。

SBの振る舞いはチームカラーを見せる1つのの要素であり、マリノスはJリーグの中で1番SBの振る舞いが上手なクラブかもしれない。スタメンの松原や永戸は攻撃的なSBで組み立てやクロスの部分で魅力的な選手だが、後半途中からRSBで出場した上島もCBタイプのRSBとして存在感があった。上島は守備での状況判断の良さを活かして、明本の縦パスを鋭い読みでインターセプトして、マルコスジュニオールへ縦パスを通したことで2点目へと繋がった。

修正の修正

マリノスのビルドアップに対して浦和も徐々に修正を進めた。2トップに対して後ろが付いてこれないのが浦和の課題で、前節のFC東京戦でもよく見られた課題だったが、この試合では前半のうちに修正。

浦和は2トップがボランチを捕まえたところからスタートして、ボールサイドのボランチ(下の図では岩尾)が喜田とハーフスペースを管理できる立ち位置を取ることで、リンセンがプレスに出た際にそのまま縦にスライドできる形に修正。2トップが中央から外側へ規制をかけて、CBからワイドの選手にボールが出たタイミングで明本や大久保が鋭い出足でボールを奪う場面を作ることができた。その結果、前半だけで2回ほど浦和の左サイドでは高い位置でボールを奪いショートカウンターという場面があった。

浦和のコンパクトな守備からのプレス

しかしながら、そこからマリノスの浦和の修正に対する更なる修正も早かった。下の図のようにRWGの水沼がインサイドを取ることで大外にスペースを作り、ハーフスペースにいた西村が空いた外のスペースに流れてボールを受けて、プレスの逃げ道として起点となり浦和のプレスを攻略した。

マリノスの右サイドでのプレス回避

特にこの試合ではマリノスの右サイドでビルドアップアップして左サイドに展開という流れが多く、左サイドではエウベルと永戸が流動的にレーンを入れ替えながら攻め立てた。マリノスの1点目もA.ロペスからボールを受けた永戸が正確なクロスでファーサイドの水沼へとボールを届けてゴールを演出した。

マリノスのハイプレスと両チームのSBのキャラクター

マリノスはJ1の中でもハイプレスが特徴的なチームで高い位置からのプレスには定評がある。

マリノスの基本的なハイプレスのかけ方は

①4-2-3-1の陣形からスタート
②ハイラインのDFライン
③中盤が人を捕まえる
④WGの外切りのプレス
⑤CFとAMFがボランチを消しながらCBへプレス

というような構造となっていた。

この試合でも序盤からハイプレスで浦和からすぐにボールを奪い返していた。下の図のようにA.ロペスがCBまで飛び出した時は西村が岩尾を消し、西村がCBにプレスに出たらA.ロペスが岩尾をマーク。LWGのエウベルは外切りのプレスでRCBのショルツに対して圧力をかけて、浦和のストロングである右サイドからの前進をさせないタスクを担っていた。このハイプレスの時には渡辺が伊藤を警戒し、伊藤へパスが入りそうな状況ではピタッと付き纏い、中央を経由させない意識を強めていた。

マリノスのハイプレス

浦和はハメられたとしてもLCBのホイブラーテンがDFラインの背後へ嫌らしいロングボールを送り込んでいたが、浦和の前線の背後を取る意識はあまり高くなかった。

浦和がマリノスのハイプレスを上手く打開したのは21:30。下の図のように岩尾がCB間に下りて、LSBの明本が偽SBのような動きでボランチと横並びになり中盤で数的優位を作った場面。

明本の偽SB

そして、右サイドではRSBの酒井がインナーラップで前線まで抜けることでショルツからモーベルグへのパスコースを作り出した場面だ。

浦和の酒井のインナーラップを活かしたビルドアップ

前述したようにモダンフットボールにおいてSBの振る舞いは重要度を増しており、SBがどのような引き出しを持っているかで攻撃の幅やビルドアップの質が変わってくる。この試合でも浦和はSBが大胆な動きをし始めてからボールを前に運ぶことが出来始めた。

後半に入ると浦和は前半で見つけたマリノスのハイプレスはの打開策をさらにブラッシュアップすることでスムーズなビルドアップを展開。55:58では伊藤がCB間に下りてボールを受け、岩尾へ縦パス。岩尾が渡辺と入れ替わり、興梠へパス、興梠から背後に抜け出した酒井へとパスが繋がり、最終的に小泉の決定機を生んだ。

浦和の55分の決定機に繋がったビルドアップ

リカルドロドリゲス監督が指揮していた時にはあまり見られなかった『明本の偽SB』や『酒井の高い位置をスタートポジションにしての背後への動き』はスコルジャ監督になって加わった新たな要素かもしれない。

しかし、今シーズンの浦和はボール保持にこだわっている訳ではなく、ボールをゴールに近付ける(ゴール方向へ運ぶ)ということに意識が高い傾向にある。なので「SBやボランチの立ち位置を微調整して相手のハイプレスを破って行こう」というよりは、「相手が人数かけてプレスに来るなら50/50のボールを前線に送ってしまおう」という気概を見せている。無論まだ2試合目でどれだけビルドアップにこだわり、意図的に選手の立ち位置を決めて、プレー選択をしているかはわからない。

ただ事実として、浦和の両SB(明本と酒井)はカウンター時のダイナミックなオーバーラップや90分間戦うインテンシティは兼ね備えているものの、技術や器用さという点では制限がある。この試合の中でも彼らがマリノスのSBのようにインサイドのレーンに立ち位置を取ることもあったが、浦和の攻撃を活性化させていたかと言われると疑問である。

彼らは余裕がある(カウンターなどでスペースがある)状況では、馬力を活かしたオーバーラップで攻撃に分厚さを出せるが、例えば「RWGのモーベルグに大外で1vs1を仕掛けさせるために、酒井が中央で経由役としてボールを受けて大外のモーベルグへ展開する」というような、他の選手に余裕を与えるようなサポートができないのは浦和にとっては悩ましいポイントかもしれない。

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