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『ストレス』【Jリーグ】サンフレッチェ広島vs浦和レッズ

前節、神戸に勝利し勢いが出てきたレッズはアウェイでサンフレッチェ広島と戦いました。

広島は連戦が続く中でしっかりと勝点を積み重ねてきていて実力は証明済み。レッズは久しぶりのミッドウィークでのリーグ戦でした。

スタメン

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レッズは前節からスタメンを2名変更。柴戸と小泉が復帰した。

一方の広島は過密日程ということもありメンバーを5人変更。代表に選ばれた川辺はベンチスタートとなった。フォーメーションは前節から3バックを採用しており、この試合も3-4-2-1で臨んだ。


試合内容

レッズがボール保持し広島が5-2-3の陣形でハメにくる試合展開に。前半15分に田中が背後へ抜け出しクロス、一度クロスが逆サイドへ流れるも汰木が再びクロスを入れて、最後はユンカーが押し込みレッズが先制する。しかし、23分に広島のCKでハイネルが蹴ったボールが直接ゴールに吸い込まれ同点とされる。その後両チームともにあまり多くのチャンスを作れずに前半終了、1-1で折り返す。

後半57分にエゼキエウがワンツーから決定機を迎えるが伊藤が何とかスライディングで防ぎゴールを割らせない。攻撃に停滞感のあるレッズは関根、山中、武藤、興梠を投入していきゴールを目指す。すると84分に山中のクロスを興梠がヘディングで折り返したボールが荒木のハンドを誘いPK獲得。しっかりと興梠が今季初ゴールとなるゴールを決めてレッズが勝ち越す。リードしたレッズはアディショナルタイムに阿部を投入し逃げ切りを図るも、90+2分に川辺のミドルシュートがゴールに突き刺さり同点にされてしまう。その後、ゲームは2-2で終了し両者勝点1を分け合う形となった。

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・試合スタッツ

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・試合ハイライト動画


ストレス

この試合でサポーターはなかなかチャンスを作れないレッズにストレスを感じた方も多いと思います。選手達も同様にピッチ上でかなりストレス(プレスの圧力とメンタル的なストレス)を感じていたと思います。

・広島の捕まえる守備
レッズがボールを保持している時に広島は5-2-3(5-4-1)の陣形で守ってきました。広島は3バックとボランチが人を捕まえるような守備をし、ハイラインで非常にタイトな守備をしてきました。

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前半の序盤では広島の守備にごたつきがあり特に右サイドの西から持ち上がることができました。

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1点目のシーンでは小泉がサイドでフリーになり田中が背後へ飛び出したところにパスが渡ります。

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田中のクロスは流れますが汰木が折り返してユンカーのゴールが生まれました。

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しかし、徐々に広島も修正してエゼキエウが右サイド(特に西)をケアしてきました。西は攻撃を作り直すために岩波へバックパス、そのタイミングで広島がラインを押し上げて守備をコンパクトにされてしまい、ビルドアップで捕まるような状況になってしまいました。

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また、エゼキエウが西まで間に合わないときは東やハイネルがスライドして穴を埋めてきました。広島のスライドが素早くサイドから前進する機会も減っていきました。

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今シーズンのレッズは5バックで守る相手に対してなかなか攻撃の糸口を見出せていません。この試合も後半の途中までボールは保持できましたが、ディフェンスラインでのボール保持が多くチャンスに繋がるシーンはほとんどありませんでした。

前半のポゼッション率とプレーエリアを見てもボール保持は出来ていましたが、前線までボールを運ぶことに苦労したことがわかります。

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・長所と短所
レッズの両SHは前節に引き続き汰木田中が入りました。リカルド監督は色々なことを考慮しながらこの2人を起用したと思いますが、広島のディフェンスに捕まることが多かったので、この2人の長所があまり活かせずに逆に苦手な分野でのプレーが求められる展開となりました。

《汰木》
まず汰木の長所はやはりドリブルです。前を向いてディフェンダーと1vs1を仕掛けられる状況を作れれば持ち味を発揮できます。しかし、この試合ではゴールを背にした状態でのプレーが多くなりました。サイドに張っていれば体を半身にしてボールを受けることができますが、明本がオーバーラップするために大外のレーンをあけて1つ内側のレーン(ハーフスペース)でプレーする機会が多くなります。

4バックが相手の場合ハーフスペースでボールを受けると基本的にフリーなので前を向けます。ですが、5バックが相手だったのでディフェンスを背負ってのプレーが多くなりボールロストが増えてしまいました。12:50のシーンでは柴戸から縦パスが入りましたが野上の強度の高いプレスを受けてボールを失ってしまいました。

スタッツでもパス精度が低かったり、ボールロストの多い結果となりました。

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汰木は去年から頭角を現し今シーズンは外に張るだけでなく内側に入ってのプレーができるようになったりと成長を見せている選手です。今日の試合でも前半のラストプレーでレーンを移動しながらの背後への動きがあったりと意識的にチャレンジしていることがわかります。ポテンシャルは高い選手だと思うので今後の成長に期待したいです。

《田中》
田中もなかなか持ち味であるスピードや縦の突破を活かすような場面を作れませんでした。常にマーカーがいる状況だと背後への動きを見せてもついてこられてしまうのでパスが出しづらくなってしまいます。1点目の起点となった背後への動きは東と佐々木の間から抜け出てきたので、上手くサイドの深い位置まで潜り込むことができました。しかし、それ以降はなかなかマークに苦しみボールを受ける回数が数なくなってしまいました。

今のレッズのサッカーにおいて流動性は欠かせない要素の1つです。特に5バック相手ではレーンを変えたり、背後への動き、下りて引き出す動きなど臨機応変に立ち位置を変えなければいけません。この試合でもマークを剥がそうと外から内側に入ってきてハーフスペースで受ける意識はありましたが、30:56のような狭いエリアでのプレーや360度から敵が来るような状況だとボールロストしてしまうことが多かったです。

スタッツを見てもボールタッチが27回とあまりプレーに絡むことができなかったことがわかります。

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今後、田中が出場機会を増やしていくためには内側に絞ったときのプレーの質を上げることが要求されると思います。ゴール前に飛び込んでいくタイミングやポジションを取りは上手な選手だと思うのでプレーの幅を拡げられるかがカギになってくると思いました。


攻略の手がかり

予想通り5バックで守る相手に対して苦戦したレッズですが、今後の5バックを攻略する『手がかり』を掴んだ試合でもあったと思いました。

・ビルドアップの形
ビルドアップでもかなり工夫が見られました。前半は2CBs+ダブルボランチでビルドアップしましたが、前線になかなかボールを届けられないということでハーフタイムにビルドアップの形を変更しました。

後半からビルドアップ時には柴戸をアンカーに置き伊藤(敦)と小泉をインサイドハーフのポジション入れて中央から攻略を試みました。意図としては中盤を3枚に増やすことで数的優位を作り、広島の中盤(柴崎とハイネル)を上回ろうとしたのだと思います。

しかし、この試みは失敗に終わります。小泉のところで佐々木とハイネルに監視され1vs2の状況になってしまい、後半の立ち上がりは小泉のところでボールを奪われることが増えました。レッズの生命線である小泉が潰されたことでレッズはボールを握れなくなりました。

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ここで修正できるのがリカルド監督の強みです。63分に伊藤(敦)と田中を下げて山中と関根を投入しました。そしてビルドアップ時には山中が内側に入り、下の図のような形に。大きな違いは関根が佐々木の前に入ることで小泉の監視が緩くなることです。この選手交代と配置変更からレッズは流れを取り戻し始めました。

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62:43のシーンでは早速この変更で良い攻撃を作れました。小泉が中央でフリーでボールを持ちユンカーへ縦パス。この時に中央では3vs2の状況が作れていて、広島のボランチは柴戸と山中をマークするので小泉へ寄せることができませんでした。パスを受けたユンカーがワンタッチで関根にパスを出しました。

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そして関根は上がってきたサイドの西にパスを出し、西はワンタッチでDFラインとGKの間にボールを送り込みます。最後はユンカーが飛び込みました。惜しくもシュートは外れましたが、良い組み立てからシュートまでいけた非常に良いシーンでした。

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82:20のPKを誘発させた場面でも中央で数的優位な状況を作り、山中が浮きました。フリーでパスを受けた山中から興梠へピンポイントパスが渡り最終的にPK獲得に繋がりました。

後半の山中と関根を投入するまでほとんどレッズがボールを握れなかったことがわかります。ラスト15分はレッズが得点してから守備固めをしたことも影響しポゼッション率は若干下がっていますが、選手交代とビルドアップの形を変更したことで大きく前半の停滞感はなくなりました。

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リカルド監督の修正力とレッズの選手達の適応力には毎試合驚かされますが、この試合でも5バックを崩す手がかりとして中央で数的優位を作り攻略することができたのは大きいと思います。また山中の偽SB的な役割も活きた展開でした。


・3人目の動き
もう1つの5バック攻略の手がかりは3人目の動きです。守るチームは基本的にボールの出し手と受け手にはプレスをかけることができます。そこにもう1人関わる選手が出てくるとマークを剥がしやすくなります。

ただ、選手全員がプレーを予測して動く必要があり意思疎通が取れてないと上手くいかないので、3人目の動きを取り入れることは簡単ではありません。特に3人目の動きをする選手は出し手がどこにパスを出すのか、2人目の選手がどこにパスを出してくれるかを予測してポジションを取らないといけないので3人目の動きをできるチームが少ないです。選手の特性を理解して「この選手だったらこういうプレーを選択するだろうな」という信頼のもとでアクションするので3人目の動きは難易度が高くなります。

この試合でレッズはいくつか3人目の動きを加えた攻撃を展開しました。73:15では岩波の縦パスにユンカーがフリックし3人目の動きをした柴戸へ渡りました。最後に明本がオフサイドになりましたが、広島の人を捕まえる守備を崩した場面でした。

77:40のGKの彩艶から組み立ててシュートまでいったシーンでは山中のワンツーも素晴らしいかったですし、岩波の縦パスにユンカーと関根が反応、関根がスルーしてユンカーが走り込んできた関根にパスを出しました。岩波の縦パスの瞬間にユンカーと関根が反応していて3人目の動きができています。

5バックでは前線がマンツーマンのようになることが多く苦戦していたレッズですが、3人目の動きを加えた攻撃でマークを剥がして攻略できることを示したと思います。今後、3人目の動きを入れた攻撃を多く出していけると得点にも繋がると思いますし、手がかりを掴んだのではないかなと感じました。


時間の進め方

苦しみながらもPKから興梠が得点しリードを奪ったレッズでしたが、アディショナルタイムに川辺に強烈なミドルシュートを決められて勝点3を逃しました。サッカーでは1点リードした展開でこういったことがよく起こります。果たしてレッズの時間の進め方はどうだったのか考察したいと思います。

・伏線と結果
レッズが1点リードしたのが84分でした。そして89分に阿部を投入し守備固めに入ります。結果的に川辺にゴールを許し逃げ切り失敗というような形でした。サッカーでは結果が全てではあるので阿部を投入し守りきれなければ叩かれますし、あのまま守り切れていれば称賛されたと思います。

ただ、失点する前にも伏線がありました。90:20のシーンでジュニオールサントスにシュートを打たれたシーンがありましたが、得点してからバイタルエリアの守備がルーズになっていたと思います。これは選手の意識というよりは混乱が大きかったのではないかなと感じました。

後半の途中からシステムを4-1-4-1に変えて柴戸がアンカー気味にプレーしそのやや前で武藤と小泉が並んでいました。そして得点後の時間帯は4-4-1-1のような陣形で守っていました。4-4-1-1で守っている時に小泉がボランチに入ったのですが柴戸よりも高い位置で守っていた場面があり、選手達の意識の中で4-1-4-1(1アンカー)なのか4-4-1-1(ダブルボランチ)なのか統率が取れていないように伺えました。阿部が入ってからも明本と阿部の距離感が気になりました。武藤が埋めるスペースなのか、ダブルボランチが管理するスペースなのか見ているだけではよくわかりませんでしたが、阿部の脇だけ空いていました (阿部が入る前も柴戸(左ボランチ)と小泉(右ボランチ)が並んだ時に柴戸の左脇は空いていました)。

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そして、川辺がそのボランチの脇のスペースに入ってきてミドルシュートを決められてしまいました。

・セオリー
セオリー的には阿部を投入し守備を固めるということは間違っていなかったと思います。阿部は経験豊富で危険なエリアを埋めることができますし空中戦にも強いです。

ただ、山中をそのまま左SBに残したことは評価が分かれるポイントだと思います。あらゆるリスクを排除するのであれば競り合いが強く山中よりも守備ができる明本を左SBにすればあの失点はなかったかもしれません。「守備固め」をするのであればそこまで徹底すべきだったかもしれません。

・理想
個人的には時間の進め方として引くのではなくボールを保持しながら終わらせるやり方ごベストだったように思えます。得点までの時間帯はかなりボール保持できていましたし、試合を支配していました。なるべく高い位置でボールを保持することでゴールから相手を遠ざけることもできますし、上手くいけば追加点を奪うこともできます。何より今のレッズはしっかりとボールを動かして相手を剥がす、ボールを握ることができるようになりました。自信を持ってレッズのスタイルを貫けるようになった時にもう1つ成長できるのかなと感じました。

このような話は結果論になってくるのであまり好きではありませんが、失点するまでに伏線があったことも事実で時間の進め方にはもう少し考えなおす必要があるかもしれません。


最後に

土壇場で勝利を逃したこの試合は観ている方も選手達も結果と内容含めてストレスを感じる1戦でした。もちろん勝点3を逃したという見方もできますが、3バックに変更してきた広島は力のあるチームでしたし、内容的には引き分けという結果は妥当だったかな思います。

広島の中盤の圧力はかなりレッズの調子を狂わせるものでしたし、やりづらかったと思います。その中でもしっかりと攻略の手がかりを掴み得点を奪うところまでこぎつけたことは評価できると思います。特にこれまで見られなかった3人目の動きからの流れるような攻撃は見事でしたし、激しいプレスを逆手にとって相手を崩した攻撃は今後の試合で活きてくると感じました。

次節はホームで名古屋戦です。個々の質が高く組織的な守備をしてくる名古屋相手にレッズの攻撃がどれだけ機能するのか楽しみです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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