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エリート集団の魅せる高度な攻防【カタールW杯:Bグループ】イングランドvsアメリカ

0-0。両チームに決定機があった試合は意外にもスコアレスドローに終わった。イングランドはプレミアリーグを筆頭に欧州のリーグで輝きを見せるエリート集団で構成されていることは言わずもがな。そして、アメリカも多くの選手がヨーロッパで活躍しているヤングスターの集まりで次期エリート候補だ。そんなエリート同士の対戦は高度な戦術と駆け引きが繰り広げられた。

サッカーIQ200

イングランドの選手たちはほとんどがプレミアリーグでプレイしており、ペップグアルディオラ、アルテタ、グラハムポッター、コンテなど名将の下で日々トレーニングを行っている。この試合のスタメンで唯一のプレミアリーグ外のリーグでプレーしているベリンガムもドイツの強豪ドルトムントに所属しており、折り紙付きのヤングスターだ。そんな彼らはサッカーIQが並の選手に比べて格段に高く、状況に応じてベストな決断を下し行動することに長けている。

試合の序盤からそんなエリート集団のサッカーIQの高さが垣間見えた。イングランドは2CBs+ライスの3人でビルドアップ。この3人が適度な距離を取りながらアメリカのウェアとライトのプレスをいなして、序盤の主導権を握った。ストーンズがボールを持った際にサカが内側に入り縦パスを受ける。この時にトリッピアーは大外で角度を作り、後ろ向きのサカのサポートに入る。サカがボールをトリッピアーに落とした瞬間に中央のベリンガムがアメリカのLSBロビンソンの背後を取り、一気にチャンスを作った場面があった。

イングランドのビルドアップと右サイドのユニット攻撃

ある程度ビルドアップの形や立ち位置は整理して試合に臨んでいると思うが、サイドでここまでユニットで攻略できるのは彼らのサッカーIQの高さに起因しているはずだ。スペースと状況を認知して最善の選択を決断し、実行するには頭の良さやサッカーセンスが必要となる。このベリンガムによるLSBの背後を取る動きはこの試合で数回見られ、アメリカのミドルブロックを攻略する1つの有効手段となっていた。

また、ビルドアップの形もアメリカのプレスに合わせて柔軟に陣形を変化される。主に陣形の変化のタクトを振るうのがライスで、下の図のように彼がマグワイアの左手に下りてサポートに入った際にはLSBのショーが高い位置を取り、LWGのスターリングがハーフレーンで縦パスのパスコースを作る。

イングランドのビルドアップの形

前半の序盤は特にアメリカがプレスに行ってもハマらずにイングランドがアメリカ陣内に押し込む展開が続いた。

洗練されたチーム力

多くのチームが前半のうちには修正できずにHTに改善を図ることが多いのだが、アメリカは前半のうちにイングランドのビルドアップに対応してきた。アメリカはLWGのプリシッチをストーンズまで飛び出してプレスをかけることでイングランドのビルドアップを制限。イングランドの2CBs+ライスに対して、アメリカの3トップを当てることでボールの動きを制限することができた。

アメリカのプリシッチを前に飛び出させるプレス

もちろんイングランドは個の力でマークされていてもボールを展開したり、ケインが50/50のボールを収めて起点を作ったりした場面もあったが、アメリカはこのプレスに変更してから主導権を握り返した。

先程のプレスが上手くハマり、アメリカがボールを握る時間も増え始めた。アメリカもボールを持つと丁寧に後ろから繋ぎ、イングランドゴールに迫った。アメリカは主にLCBのリームを起点にビルドアップ。下の図のようにケインがアンカーのアダムスを消しながらプレスをかけるが、角度を付けてアダムスへボールを集めてそこからプリシッチや右サイドのマッケニー、デストに展開することができていた。

アメリカのビルドアップ

結局、前半はイングランドはなかなかアメリカのビルドアップに対してプレスをかけることができず撤退守備になることが多かった。

また、RIHのマッケニーも右サイドでプレスの逃げ道としてよく機能した。下の図のようにCBからの縦パスを引き出そうとするアダムスとムサに対してイングランドはマウントとベリンガムが監視。マッケニーは中央に居るままだとライスに捕まりボールを受けることができないので、大外に流れてデストからのパスコースを作る動きを再三行っていた。

イングランドのミドルブロックとマッケニーを経由したプレス回避

アメリカは左サイドではプリシッチがドリブルでマークを剥がして前進、右サイドではマッケニーがサイドに流れてパスを受けて前進を可能にした。アメリカはしっかりと「チームとしてどうやってイングランドのプレスやミドルブロックを攻略するか」が体系化されていた。

しかし、ユニット攻撃でチャンスを作ったイングランドもチームの構造を利用してチャンスを作ったアメリカもゴールを決め切ることができなかった。

イングランドの誤算

後半に入り、テコ入れをしてきたのはイングランドだった。前半の終盤にアメリカにボール保持に苦しんだイングランドは4-3-3気味のプレスに変更。マウントを前に出し、サカがやや下りて相手を監視する右肩下がりのプレスに変えてきた。そして立ち上がりに早くも効果が出る。リームからパスを受けたジマーマンに対してマウントがアダムスを消しながらプレス。ジマーマンがバックパスしてターナーに渡っても、マウント連続してプレスをかけ直線的なプレスをかけることができたことでターナーにボールを蹴られせることができた。

後半開始のイングランドのプレス

前半の終盤はアダムスの監視に追われてボールホルダーにアプローチをできなかったマウントだったが、4-3-3でアメリカのビルドアップの形に合わせることでボールホルダーに圧力をかけることができた。また、右サイドで大外に流れてプレスの逃げ道になるマッケニー対してはライスが付いていくことで解決策を見出した。

しかし、ここでイングランドの誤算だったのがケインのワークレートの低さとアメリカのLCBリームの技術力だ。下の図のようにケインがリームと対峙した時にケインのプレスが緩いこととリームがドリブルでボールを持ち運ぶスキルがあったので簡単に1列目を突破されてしまう場面があった。そうなると、サカがカバーするために飛び出してプレスをかけるが、リーム+ロビンソンvsサカという2vs1の局面になっていてボールをハントすることは難しくなった。

リームの持ち上がり

試合の終盤にはリームに対して2人でプレスをかけた場面があったが、華麗なダブルタッチでかわしてボールを前進させた場面は見事だった。リームがここまでビルドアップスキルを持っていたことはイングランドにとっては誤算だっただろう。

一方でイングランドのボール保持はプリシッチが飛び出してきたことでフリーとなったRSBのトリッピアーを使って攻め上がる場面を増やした。プリシッチが前に飛び出してプレスかけた時にストーンズは冷静にボールを浮かせてトリッピアーにボールを届けたり、ベリンガムが緊急サポートとして2列目からライスの横に下りてきて縦パスを引き出してプレス回避したりと選手のスキルでこの問題を改善した。するとプリシッチは徐々にストーンズにプレスをかけることができずにトリッピアーを監視する意識を強め、アメリカは4-3-3のプレスから試合序盤の4-4-2のミドルブロックが増えた。

濃厚な駆け引き

両チーム共に高度な駆け引きを繰り広げる中で先に動いたのはイングランド。スターリングとベリンガムに代えてグリーリッシュとヘンダーソンを投入。イングランドはマウントとヘンダーソンにCBとSBの間に流れてボールを受けるリンクマンとしてのタスクを与えた。これによって「アメリカの両IHを引っ張り出して中央にスペースを作ること」と「リンクマンとしてボールを受けて両WGによりボールを届ける狙い」があったのではないかと思うが推測するが、あまり効果的ではなかったように思う。

下の図のように特にイングランドは右サイドでヘンダーソンが流れてボールをストーンズから引き出す。この時にプリシッチが前に飛び出してきたので、トリッピアーがフリーになるがトリッピアーにボールが渡るとアメリカのLIHムサが豊富な運動量で大外のトリッピアーまでスライドして高いボールハント能力で攻撃の芽を摘んだ。

イングランドのリンクマンを取り入れたボール保持とアメリカの素早い中盤のスライド

本来であれば大外のトリッピアーに対しては圧力をかけられないはずだがアメリカの中盤のアスリート能力はこの試合を通して衰えることはなかった。

試合のアディショナルタイムを含めたラスト15分はややオープンな展開になった。この時に広大な中盤のスペースを管理する両チームのアンカーの存在が目立った。アダムスやライスはオンザボールのボール捌きは卓越したスキルがあるが、カウンター時や中央での1vs1の局面でバトルに勝つ力があり、何度も両チームの攻撃を止めてピンチを未然に防いだ、

また、両チームの途中出場の選手たちも精力的にプレーした。イングランドは特にグリーリッシュがボールを持つとマークされていてもボール運び、アタッキングサードまで侵入することができた。グリーリッシュ投入前はやや停滞感が見受けられたイングランドだが、彼の投入は攻撃を活性化させた。一方でアメリカもマッケニーに変わって入ったアーロンソンが様々な場面で顔を出してボールを引き出してボールを前進させた。また、アメリカは前線のウェアとライトを下げてサージェントとレイナを投入したことで、イングランドの最終ラインに圧力をかけ続けられたこともチーム力の高さを示した。

イングランドは勝てばグループ突破が決まっただけに勝ちたかった試合だが、予想以上にアメリカが洗練された良いチームだったので勝点1でもまずまず。一方でアメリカは勝点1を手にして最終戦のイランを迎えるのは悪くはない。しかし、この試合の内容を見てみると決定機を作っていただけに勝点3が欲しかったというゲームになった。両チームモダンフットボールを展開し、高度な攻防を繰り広げた素晴らしい試合だった。

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Gyo Kimura
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