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5バックを攻略せよ【Jリーグ】浦和レッズvs大分トリニータ

前節チャンスを活かせずセレッソに敗戦を喫したレッズはリーグ戦6連敗中と下位に沈む大分との対戦。上位進出のためにホーム埼玉スタジアムで勝点3を獲得したいところ。

両チームともにポゼッションを重視しどちらがボールを握れるのか、またレッズは大分の5バックをどう崩していくか注目が集まった。

スタメン

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レッズは前節のセレッソ戦から1人変更。ミッドウィークのルヴァンカップで2得点を決めた杉本がトップに入り、伊藤(敦)はベンチスタートとなった。

一方、大分は前節の柏戦から5人変更。GKにポープウィリアム、ボランチに小林(裕)、左SHに香川、CFに伊佐が入った。


試合内容

試合開始早々ゲームが動く。山中の浮き球のパスに飛び込んできた西が右足でボレーシュートを決めレッズが先制。しかし、24分に町田のシュートを槙野が足に当てるもボールはゴール吸い込まれ1-1の同点に。41分には再び町田の追加点が決まり大分が逆転、大分の1点リードで前半を折り返す。

後半からレッズは杉本に下げて伊藤(敦)を投入。時間が進むにつれ徐々にレッズペースに。そして60分に汰木、69分には興梠と田中を投入し攻勢に出る。75分にセットプレーで上がっていた槙野が小泉のパスから右足でゴールにねじ込み、レッズが同点に追いつく。82分には明本のアーリークロスに小泉が潰れて、こぼれ球を古巣対戦となる田中が押し込みレッズが逆転。試合終盤には大分が長沢を中心としたパワープレーをしてくるも西川が好セーブ連発で守りきった。試合は3-2でレッズが勝利した。

・試合スタッツ
左がレッズ、右が大分です。

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・試合ハイライト動画


大分の二段回5バック

大分は5-4-1でブロックを作って守備していましたが、二段階の守備陣形を作りレッズの攻撃に対応しました。同じ5-4-1のフォーメーションで守ってきますが、自陣と相手陣内でシャドーの位置が変わっていました。

・レッズ陣内
レッズ陣内でブロック作るときはシャドーがボランチよりもやや前に出ます。ですので見方によっては5-2-3のような形にも見えます。

それに対しレッズは2-3-5でビルドアップ。中盤の3人は柴戸の隣に小泉と西が並ぶような形です。

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<柴戸遮断>
大分はレッズ陣内にボールがある時は伊佐が背中で柴戸をマーク。これによって柴戸へのパスコースが消され、CBから柴戸へのパスコースを遮断してきました。

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柴戸経由でのパス回しが出来ずにレッズは大分のブロックの外からのボール回しになりました。

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<シャドーのプレス>
西と小泉に対しては大分のシャドーがプレスをかけにきます。例えば小泉がボールを受けると町田がプレスします。

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小泉が工夫してブロックの中で受けると大分のボランチが出てきてブロックから追い出されてしまいました。

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<大外への対応>
大外にいる山中と関根には大分のWBが対応します。最初は背後をケアするためにそこまで厳しくマークにつかず、大外にボールが入ると激しくプレスをかけてきました。

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<ハーフスペース潰し>
そしてレッズのハーフスペースにいる選手には大分の小出と三竿がマーク。レッズは得意なハーフスペースを使っての攻撃が封じられてしまい苦しみました。

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・大分陣内
レッズが何とか自陣から前進すると大分はブロックを第二形態へと変化させます。両シャドーがボランチと同じラインに並び完全に5-4-1のブロックを作ります。

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これによって最終ラインと二列目に網を張りライン間を狭くしバイタルエリアを使わせないように守ってきました

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特に大分の中盤の選手間はケアしていてバイタルエリアにいる選手(この場合は明本、武藤、杉本)にパスを通させない意識が高かったです。

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レッズが上手くハーフスペースにいる選手にボールを入れると周りにいる選手がすぐにプレスをかけてきました。

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そこで奪われたり、バックパスせざるを得ない状況になりブロックから追い出されてしまいました。

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また、レッズがよく見せるサイドチェンジも4バックに対しては有効ですが、大分は5バックなのでスライドが必要ないのであまり有効ではありませんでした。

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5バック相手のサイドチェンジはパススピードと精度がより求められるので、サイドチェンジから上手く攻めることができたシーンは少なかったです。

・渋滞
この試合では武藤がCFで杉本がシャドーのような形でやや下がったポジションでプレーしていました。これがかなりレッズが大分陣内に入ってから攻撃が停滞した原因でした。

武藤の良さは斜めへのランニングや流動的にポジションを変化させながらプレーできる部分ですが、杉本がシャドーに入ったことで選手のローテーションやポジションチェンジが少なくなってしまいました。杉本が自分のポジションから移動しない、あるいは選手がいるところに移動してしまうことで選手の渋滞が起き全体的に動きがなくなる(動けなくなる)ことが起きました。

5バックが相手の場合はそれぞれのレーンに必ずDFがいます。選手が静止している状態でボールを受けようとすると厳しいマークでボールを失ってしまいます。

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ですので、選手の動きがないとマークを剥がせません。そしてその動きはスペースを潰さないために被ってはいけません。理想はこのように様々な動き方を連動して行えることです。

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リカルド監督も試合後の会見でそのことについて言及しています。

(先日の公開練習でやっていた2つの形を前後半で切り替えた形になったが、どういう理由でそのようにしたのか?)
「狙いとしては、使っていきたいスペースを有効に使えていけなかったという部分で前半に難しさがあったので、途中で交代するような形になりました。ただ、相手の形が普段と違うこともありますし、それから杉本健勇をよりFWに近い、シャドーで起用しましたけれども、FWに近い選手といった意味では、やりなれていない部分もありました。

途中からはそのポジションに小泉佳穂を入れたわけですけれども、彼の方がより、もともとそこの立ち位置の選手なので、見つけていきたいところを使えたのかなと思います。結果的にそれがうまくいったと思います。ただ、そういった交代だけではなくて、途中から入った伊藤敦樹や田中達也など、交代の選手たちも含めた全員で、チームが一つになって戦ったことで、それが全て絡み合っていい結果が出たのかなと思います」

引用:リカルド ロドリゲス監督 大分戦試合後会見(浦和レッズオフィシャル)

いつものCFではある程度ポジションにとどまって起点になるような役割が出来ますが、この試合のシャドーでの役割としてはもっとスペースに走りこむ、動いてスペースを空けることが必要でした。


5バック攻略法

では大分の5バックに対しどうやってレッズが攻略するのかがポイントでした。

・ボランチを網の中へ
レッズはハーフタイムに杉本を下げて伊藤(敦)を投入。小泉が一列前にでて伊藤(敦)と柴戸のダブルボランチにしました。

ビルドアップ時の修正は明確でダブルボランチを大分の5角形の網の中でプレーさせました。SBはワイドにポジションをとって左右非対称の陣形を作りました。

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前半は伊佐が背中でボランチへのパスコースを消していましたが、ボランチが2人になったことで、どちらかのボランチへのパスコースができます。例えば伊佐が柴戸を消してきたら、伊藤(敦)へパスを回します。

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網の中にから追い出そうと大分のボランチが前に出てくると小泉が下りてきてパスを受けます。この時に関根が内側に入り西が高い位置を取ること相手のDFをピン留めします

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そして小泉がフリーでボールを受けることができました。

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大分の小林(成)がハーフスペースへのパスコースを遮断すると今度はサイドの西がフリーになります。

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その結果、大分は二列目で網にかけてボールを奪うことができずに、撤退を余儀なくされます。

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レッズは前半はブロックの外でのボール回しになっていましたが、ボランチを網の中でプレーさせることでブロックの中へ侵入することができたので前進することができました。

また、ボランチにパスを入れることで、シャドーを引き付けて、SBへというようなパス交換もできるようになり、スムーズにビルドアップすることができました。

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ヒートマップをみても前半は左サイドでのプレーが多かったのに対し、後半は右サイドからの攻撃が増えました。小泉が左から右サイドに移動したことや、左右非対称のビルドアップで右サイドに人数が増えたことも影響していると思います。

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・凸凹作り
前進することができたレッズは今度は大分の第二形態をどう崩していくかになります。相手が5バックを敷いてきた場合、基本的にスペースがあるのはDFラインの背後です。

前半は背後を突くようなシーンがあまり見られませんでしたが、ハーフタイムにリカルド監督が「裏に抜けていく動きを増やそう」という指示を出したこともあり、後半から徐々に背後への動きが増えました。

色が付いているところが背後のスペースです。そして、赤いエリアがよりゴールに直結するような危険なエリアです。前半は特にこの赤いエリアに入る回数が非常に少なかったです。

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しかし、ただこの背後を使うにはスペースが狭いですし、相手もマークしてくるので工夫が必要です。より背後へのスペースを作り、マークを剥がしていくには大分のDFラインに凸凹を作る必要があります。


ハーフスペースにいる明本や小泉がボールを受けようと下りてくると、大分のDFも引き出されてDFラインに凸凹ができます。

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するとDFが引き出された背後にスペースができ、武藤が積極的にそのスペースに走りこんで狙っていました。特にこの斜めのランニングはDFがマークを付きづらなるので重要です。

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レッズの先制点のシーンでも杉本と明本が斜めにランニングをして背後を取ったところから、チャンスは生まれました。

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しかし、前半に背後を取れたのはこの得点のシーンのみでより後半の方が背後への意識は強かったです。

試合後に小泉も凸凹を作ることに関して言及していました。

(試合2日前の公開トレーニングでは、大分の最終ラインの選手を引っ張り出して裏を狙いたいのだろうと思ったが、実際にはなかなか出てきてくれなかったと思う。特に前半は難しかったと思うが、どう攻略したいと考えていたのか?)
「相手の最終ラインを引っ張り出したかったですが、どこをどうやって引っ張り出すのかという成熟度が、個人個人の意識もチームとしての表現もまだまだだったと思います。個人としてもう少しできたと思うところは、相手が出て来ないのであればボールを動かし続けて出てくることを待つ、相手が出てくるまで動かす、おびき出すというところで僕がチーム全体をコントロールすべきだったと思っています」

引用:第11節 vs 大分「西、田中の加入後初ゴールも生まれて逆転勝利!」(浦和レッズオフィシャルサイト)


・ハーフスペース勝負
先程紹介したように大分はレッズのハーフスペースにいる選手に厳しく寄せて潰してきました。後半途中から汰木が入り小泉と汰木でハーフスペースでボールキープできるようになったことは大きいと思います

3点目の場面では自陣からのビルドアップから生まれた得点でした。汰木が下りて槙野からボールを受けます。この時に槙野は町田にかなり寄せられていましたが、汰木に正確なパスを送りました。左足でパスをしないと通らない場面で利き足でない左足で正確に縦パスを入れたのは素晴らしかったです。

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パスを受けた汰木も坂に激しいプレスを受けましたが上手く体を当ててボールキープし反転から明本へパスしました。この試合はことごとくハーフスペースで潰されてきましたが、終盤でようやくキープし次につなげることができました。そしてパスを受けた明本は持ち前の馬力を活かして井上に並走されながらもドリブルで持ち運びました。山中だと並走されながらボールを運ぶことは厳しかったと思うので交代が上手くハマった場面でした。

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明本からアーリークロスが入り、小泉が走りこみました。小泉は試合終盤で体力的にも厳しいと思いますがよくスプリントして飛び込んだ場面でした。

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小泉がGKとDFを引き付けて潰れて、最後は田中のゴールでした。田中や興梠がしっかりと詰めていたので生まれたゴールでした。

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ハマらないプレス

この試合のレッズのプレスはあまり効果的ではありませんでした。特に前半はプレスを剥がされる展開が続きました。

・2トップの守備
前半に全くハメることができなかった1番の原因は2トップが上手く連動できずにプレスが緩かったことです。武藤と杉本が片側を遮断しながらプレスをかけることが出来ていなかったのでサイドでハメることができませんでした。9:11の場面ではレッズの左サイドに人数をかけて追い込んだ時に簡単にCB(坂)を経由して右サイドに運ばれてしまいました。

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このシーンでは左サイドで人数をかけて奪いに行っていたので逆サイドに逃がしてはいけない場面でした。ですので武藤がまず右サイド遮断するようにプレスをかけるべきでしたし、杉本も坂に対して右サイドを切りながらプレスをかけることべきでした。


・明本の立ち位置
まず明本の立ち位置があまり良くなかったです。明本はシャドー(町田)へのパスコースを消しながらプレスをかける難しい役割でした。

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逆サイド遮断しながら寄せて小出もしくは松本で奪うことが理想でした。

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しかし、明本のプレスをかけるタイミングが遅れていたので小出にプレッシャーがかからない状況になってしまいました。また遅れて出て行ったので立ち位置が中途半端になり、パスコースを制限することができませんでした。

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8:45はその典型的な場面で小出から町田へパスが入りプレスをかわされてしまいました。この試合で言えば汰木の方がしっかりと間合いを詰めることが出来ていたので、そういった意味でも明本をSBに移動させたのは良い修正でした。

徳島戦の前半でも明本の立ち位置やプレスをかけるタイミングは適切ではない場面があり、プレスに関しては彼の課題かなと感じました。しっかりと寄せることができているときは、とても効果的なプレスになっているので改善に期待です。


・杉本の危機察知能力
大分に押し込まれたときの杉本の危機察知能力の低さは課題かなと感じました。この試合では特にボランチまでプレスバックする意識が見られなかったので、大分のボランチのところでレッズの中盤と杉本で挟み込むような守備ができませんでした。

14:45や15:25では杉本がプレスバックして下田をマークしていなかったので香川から下田へパスが通り展開されてしまいました。

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しっかりとプレスバックしていれば柴戸と杉本で挟み込んで奪えるようなシーンでした。

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しかし、杉本のプレスバックがなかったので下田は前からくる柴戸だけ気を付けてプレーすればいいので激しいプレッシャーを与えることができませんでした。

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後半は小泉が一列上がったことでプレスバックからボールを奪う場面も増えました。杉本にプレスをサボっているというよりは、どこが一番危なくて(パスを通されたら嫌な場所で)パスコースを消さなければいけないかを理解していないように見受けられました。特にこの試合ではシャドーとしてプレーしていたと思うので、プレスバックの質の低さが目立ってしまいました。


最後に

やはり5バックを相手にするとハーフスペースを潰されてズレを作れずにマークを剥がせませんでした。しっかりと5バックで引かれたときになかなか攻め手が見つからず効果的な崩しはできませんでした。

しかし、3点目はビルドアップで相手を引き出してスペースを作り、上手く裏に抜け出して奪った素晴らしいゴールでした。交代策も的中し汰木のキープ、明本の馬力、興梠と田中の詰めなど交代の効果が表れた場面でした。

一方で課題も多く露呈しました。岩波のビルドアップ力や杉本が入ると流動性がなくなり背後の動きが減ること、試合終盤の守備の不安定性などいくつか気になった点がありました。あまり様々なことに触れると記事がまとまらないので取り上げませんでしたが、まだまだ修正、改善が必要かなと感じました。

次節は調子の良いアビスパ福岡との対戦です。堅実な守備を敷いてくることが予想されますが、この試合で勝った勢いをそのまま福岡戦にぶつけてほしいと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


出典:


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