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現実は小説より奇なり【天皇杯: 決勝】浦和レッズvs大分トリニータ

いよいよ天皇杯も決勝戦となり、優勝の可能性は浦和レッズと大分トリニータの2チームに絞られました。

レッズは準決勝でセレッソ大阪を2-0で完封勝利し天皇杯でここまで無失点と非常に守備が安定しているチームです。リカルド体制で初年度ながらタイトルまであと一歩というところまで来ています。2018年以来の天皇杯制覇と再びアジアの舞台で戦うために負けられない一戦です。

一方の大分は準決勝で新しい布陣でJ1王者の川崎フロンターレに粘り強く戦いPK戦の末勝利して、決勝戦まで勝ち上がってきました。J2への降格が決まっていますが、今シーズン限りで退任する片野坂監督の下悲願の天皇杯初制覇を目指します。


マッチレポート

スタメン

レッズ(赤): 4-2-3-1
大分(青): 4-3-1-2

レッズは準決勝のセレッソ大阪戦からメンバーを1人変更。宇賀神がベンチとなり明本が左SBに入り、小泉が左SHで起用されました。大分は準決勝の川崎戦から採用している4-3-1-2の中盤がダイヤモンドの陣形で、スタメンは準決勝と同じメンバーで試合に臨みました。


試合内容

前半立ち上がりは浦和が積極的に攻める展開に。前半6分に関根と小泉が右サイドでドリブルからPA内に侵入し、関根がマイナス方向に折り返したボールを江坂が冷静にゴールに流し込みレッズが早々に先制する。先制点で勢いに乗るレッズは12分に柴戸からのパスを受けた伊藤がミドルシュートを放つも僅かにゴール左に外れる。初優勝がかかる大分は20分に伊佐のクロスから渡邊がシュートするが西川の正面。42分に伊藤が横パスをインターセプトし、すかさず背後へ走り出していたユンカーへスルーパス、PA内でユンカー
がE.トラヴィザンにタックルを受け倒されるもVARで確認した結果ノーファウル判定に。前半はレッズの1点リードで折り返す。

大分は後半からシステムを4-4-2に変更し町田が左SH、渡邊が右SHという布陣に。開始早々の後半1分に渡邊のクロスに町田がゴールを狙うもシュートは岩波に当たり枠から外れる。徐々に大分がレッズ陣内に押し込み始め、レッズが耐える展開が続く。すると24分にレッズが鋭いカウンターを見せる。西川がボールをキャッチし素早く関根へ配球、関根が力強いドリブルでボールを運ぶと背後へ抜け出した江坂へスルーパス、江坂がGK高木をかわしてシュートを放つも高木が何とか横っ飛びでセーブしゴールを防ぐ。その後、レッズは宇賀神、槙野、大久保を投入して逃げ切りを図る。41分にはショルツのクリアボールを渡邊がシュートを放つが西川がセーブ。後半45分に大分は獲得したFKをショートパスで繋ぎ前進し下田がクロス、ペレイラが頭で押し込み土壇場で同点に追いつく。このまま延長戦へ突入かと思われた後半45+3分、レッズはCKのクリアボールを柴戸がボレーシュート、柴戸のシュートを槙野が頭でコースを変えてボールはゴールに吸い込まれる。このゴールが決勝点となりレッズが3年ぶりに天皇杯王者となり来シーズンのACLへの切符も手に入れた。

試合結果

天皇杯 JFA 第101回全日本サッカー選手権大会 決勝
2021年12月19日(日) 14:04キックオフ・国立競技場
浦和レッズ 2-1(前半1-0) 大分トリニータ
得点者 6分 江坂 任、90分 ペレイラ(大分)、90+3分 槙野智章
入場者数 57,785人


試合ハイライト動画



浦和を担う漢

大分の狙い

大分は準決勝からこれまでの3-4-2-1のシステムを4-3-1-2に変更してきました。そして決勝戦でも継続して4-3-1-2で挑んできました。このシステムの1つの狙いとしては守備時のサイドへの圧縮だと思います。

大分は下の図のように守備には2トップが片方のサイドを遮断しながらボールサイドの方へ追い込みをかけます。そして柴戸を下田が捕まえて柴戸を経由してのサイドチェンジを封じ込みます。ボールサイドのSBもしくはSHがボールを持っている時に大分の3CMFがスライドしてプレスの圧力を強めそこで奪う、もしくはサイドから中央へのパスをインターセプトするというのが大分の4-3-1-2での守備の狙いでした。

この大分の守備は日本代表がオマーンと戦って0-1で敗れた際にオマーンがこの4-3-1-2のディフェンスを採用していました。この守備は中央を封じながらボールサイドへの守備を強め、奪った時には前線に2トップと1トップ下の3枚がいるのでカウンターを打ちやすいという利点があります。

今シーズンの大分がレッズと対戦する時はこれまで守備時には3-4-2-1を可変させて5-4-1のブロックを作り、自陣でのスペースをできるだけ埋めることで相手のミスを誘発しカウンターへ繋げるというような戦い方をしていました。この試合での守備と比べると守りに比重を置いていて「得点を奪われないような守備」をしていました。しかし、今回のシステムの変更でより相手を陥れて得点に繋げようというような「ボールを奪う守備」に変わっていたと思います。そういった意味ではこれまでの対戦に比べて危険度が増した印象でした。

あの頃の姿

危険度が増した大分の守備に対して果敢に立ち向かっていったのが関根でした。ここ数試合の関根のパフォーマンスを見るとこれからの「浦和を担う漢」の姿がありました。

前半の得点に繋がった4:49のシーンでは大分の狙いとするサイドでの圧縮により、酒井からパスを受けた関根が渡邊に強いプレスを受けました。しかし、関根は裏街道を使ってスルリとかわすとそのままドリブルでサイドの深い位置まで運んでいきました。大分が狙いとしていたサイドで潰す守備を関根個の力で打開したシーンでした。

4:49のシーン

そして、関根のドリブルが止められた後に小泉がボールを拾って強引にドリブル突破を試みます。そして再びボールが関根にこぼれて再度関根はドリブルでDFをかわし江坂へのラストパスを送りました。この場面で良かったのが関根も小泉も相手に向かっていくドリブルをしたということです。あの場面ではボールをキープすることやパスをして状況を変えるなど様々な選択肢があったと思います。多少強引にでもドリブルでゴール方向へ向かっていったことでレッズの1点目が生まれました。31:20のシーンでもディフェンダーに向かっていくドリブルでファウルを獲得しました。ボールロストを恐れずに相手DFに向かってドリブルをする姿は関根が海外に移籍する前の何も恐れない若さを活かしたプレイを彷彿とさせ、レッズサポーターが大好きな関根の姿だったのではないでしょうか。

試合後のインタビューでもレッズを引っ張っていくという想いをコメントしていました。

(交代のときに宇賀神選手とやりとりをして涙も流しているように見えたが、そのときのおもいを聞かせてもらいたい)
「タイトルを獲れる、獲れるかもしれないからとかではなく、僕自身すごくお世話になっていた選手というのがたくさんいて、その選手とやるのが今日が本当に最後だったので、そういう意味でこらえきれなかった部分はありました」

(関根選手に託されたという意味合いもあるのかと思うが、そこへのおもいなどは?)
「僕たちがやるしかないですし、先輩たちがどれだけのことをやってきたかというのは僕は見てきたので、そこに負けないくらい自分たちも強いチームを作っていきたいなと思います」

引用:天皇杯 決勝 vs 大分「劇的展開で4度目の天皇杯優勝!アジアへ!」
(浦和レッズオフィシャル)


小泉シフト

この試合でリカルド監督は小泉を左SHで起用してきました。小泉のSHというのはこれまで試合の流れの中で交代などによってSHを務めることがあったとは思いますが、基本的にはトップ下での起用が多く、意外なメンバー選考だったと思います。

とは言え、左SHで起用された小泉は守備時に左SHのポジションに入るだけで、小泉のタスクは基本的にいつもと変わらず中央のポジションから広範囲に駆け回りパスを受けて次に繋げるというものでした。小泉が中央で仕事をするので左ワイドでは明本がアップダウンを繰り返し明本の強みを活かせるようなシステムでした。

大分の混乱

大分はこのレッズのシステムにに対して序盤は混乱しているように見受けられました。3:15のゴールキックの場面では下の図のように小泉のマークが定まっておらず柴戸から小泉、小泉から江坂へと2連続で縦パスを通すことができました。残念ながら江坂のところで潰されてしまいましたが、大分の混乱は如実に現れていたシーンでした。

前半3:15


中盤の数的同数

そしてこの小泉シフトを採用したことで大分の守備に混乱を生じさせることに成功します。下の図のように小泉が中央に絞ってくることで中盤には柴戸、伊藤、小泉、江坂の4人がボールを受けることができます。そして大分の中盤も3CMF+下田の4人なので数的同数になります。これによって酒井やショルツが2トップの脇から運び上がった時に大分は3CMFのボールホルダーへプレスに行くためのスライドができない、プレスが遅くなることになりました。

大分の混乱

レッズの最終ラインの3バックの一角が大分の2トップの脇からドリブルで運び上がった時に大分の3CMFは自分のマークを放してプレスに行くべきか、それとも他の選手(トップやSB)にボールホルダーへプレスさせて自分は中央へのパスをインターセプトするタスクに徹するのかで迷いが生まれます。その結果がボールホルダーへの寄せが甘くなり、マークも中途半端になってしまって守備が上手くハマらないという状況が生まれました。

11:18の場面では大分が酒井へのファーストディフェンダーが決まらず、中盤の小泉のマークも曖昧になっていたところをレッズが上手く突いて小泉を経由してサイドチェンジで展開を変えて、明本がクロスを上げるところまで持っていくことができました。

前半11:18

明本はフリーでかなり余裕があったので、シンプルにクロスを上げるよりもドリブルでPA内に侵入したり一工夫入れられるとビッグチャンスに繋がったかもしれませんが、いずれにしても良い形での攻撃でした。

29:45の場面でも左サイドでショルツがドリブルで持ち運んだところから最終的にPA内に侵入することに成功しました。

前半29:45のシーン

アグレッシブな両指揮官

リカルド監督の一手

リードして後半を迎えたレッズですが後半からプレスのかけ方に変化がありました。前半は4-4-2で2トップが3バックに対してサイドに誘導するような形でプレスをかけてボランチには柴戸または伊藤が捕まえるというようなやり方を採用していましたが、後半は大分が最終ラインでボールを保持している際にはSHを前に出す形でよりボールホルダーへ圧力をかけられる形に変更しました。

レッズの後半のプレス

17:33のシーンではレッズが高い位置でプレスをかけ下田の小林(裕)へのパスを江坂がカットしてユンカーがシュートを放ったシーンがありました。また36:05にはペレイラのボールを明本が奪いファウルで止められていなければビッグチャンスに繋がるような状況でした。

一方でレッズのSHを前に出すプレスに対して逆に大分に利用されてしまう場面もありました。

後半17:55

17:55のシーンでは下田が関根と伊藤のギャップを通す縦パスでハーフスペースにいた町田へボールが渡り、簡単に前進を許してしまう形となりました。


片野坂監督の一手

1点ビハインドの大分は後半から4-4-2のフォーメーションに変更してきました。ハーフタイムでの修正は攻守に渡り見受けられました。

・攻撃

前半の大分のビルドアップ

攻撃面ではビルドアップの形を整理した印象があります。

後半の大分のビルドアップ

3-1-5-1でのビルドアップは変わりませんが下田が3バックの左に入り、小林(裕)が1ボランチに入る形が多くなりました。そして二列目の選手達がビルドアップのサポートをするためにボールを受けようとレッズの2列目の前まで下りてくることが減り、ライン間で縦パスを受けることに徹していました。これによって後方からの渡邊、小林(成)、町田への縦パスで前進される場面が前半よりも増えました。

10:29や13:41のシーンでは最終ラインからレッズのダブルボランチの間を通されて小林(成)にボールが入り、レッズのブロックの内側に侵入されてしまいました。

・守備
守備面ではよりリスクをかけたプレスを大分は仕掛けてきました。レッズが自陣深い位置でボールを保持している時にはボールサイドのSBを上げて最終ラインを3バックにし、より前線での圧力を強められる形に変更してきました。

後半の大分のプレス

前半に比べるとレッズがなかなかボールを奪った後に繋げないことが増え、後半の20分過ぎくらいまでは押し込まれる苦しい展開となりました。


最後に

大分の意地

後半27分にユンカーを下げて宇賀神を投入してからは徐々に守備の強度を上げて逃げ切りを図ったレッズですが、大分に土壇場で同点にされてしまいました。天皇杯はここまで無失点で勝ち進んできましたし、リーグ戦でも守備固めで多くの勝点を積み上げてきたのでレッズの選手達やリカルド監督も逃げ切る自信はあったと思いますが、まさかの失点となりました。

後半の45分に大分が土壇場で同点に追いつきレッズとしては延長戦も覚悟するような展開となりました。失点の場面では大分がFKをショートパスで角度をつけたことによって、レッズのDF陣がボールウォッチャーとなりファーサイドにいたペレイラに得点を許す形となりました。最初にペレイラをマークしていたのは酒井だったと思いますが、酒井はショートパスで繋いできた大分を見て右サイドの方へカバーのために移動していったように見えました。その結果、マークが足りなくなりクロスを上げられた時には対応できない状況でした。FKを直接ゴール前に放り込むだけであればレッズもしっかりと対応できていたと思いますが、時間のない中で大分が1つ工夫してクロスを上げたというところがポイントだったかなと思います。

浦和の漢

あの時間帯で同点となりメンタル的にもやられる展開でしたがもう1点取りに行こうと立ち上がれるのが槙野でした。まず槙野のゴールシーンを振り返ると柴戸のミドルの前にしっかりとラインを確認してオフサイドにならないポジションを取っていますし、ボールが来たらコースを変えようと体の準備をしているのがわかります。あのシュート性のボールを頭でコースを変えつつしっかりと枠に流し込むことはとても簡単なことではないと思うので技術的にも素晴らしいゴールでした。柴戸が左足ながらもボレーシュートを放った点も良かったと思います。

そして槙野のゴールのキッカケとなったCK獲得のプレイでは途中出場の大久保の巧みなキープがありました。高く上がったボールを繊細なタッチでピタッと足下に止めて仕掛けたところからCKを獲得することができました。途中出場ながら素晴らしい仕事をしたと思います。

準決勝は宇賀神がゴールを決め、決勝では槙野がゴールを決めレッズを退団する花道を自分達で作るのがまさに長い間レッズを引っ張ってきた漢の姿だなと感じました。そして今シーズンでの引退する阿部にトロフィーを掲げる場を作れたことはレッズに関わる全ての人が望んでいた光景だったと思います。関根は交代時に涙を見せていましたが、それだけ偉大な先輩達が今シーズンでチームを去っていくということだと思います。偉大なレッズの漢達が残してくれたもの、見せてくれた姿、伝えてくれた魂を来シーズンのアジアの舞台でも表現していかなければいけません。このオフシーズンでレッズは大幅な選手の入れ替えが起こっています。来シーズンはまたガラッと変わった雰囲気にはなると思いますが、この試合で見せてくれた浦和の漢たちの熱い想いは伝承していってほしいです。


試合の内容的にも展開的にも決勝戦に相応しく面白い試合だったかなと思います。江坂が裏に抜け出してGKと1vs1になったシーンで決めていればさらに楽な展開にはなったかと思いますが、江坂が高木をかわしたタッチがやや外側に流れた分だけ角度がなくなり高木に防がれる形となりました。ただ、高木のふぁいんということには間違えありません。大分の細かな選手の立ち位置の修正やレッズのユンカートップから偽9番へのシフトチェンジなど両指揮官の駆け引きなどもあり、とても高度な一戦だったのではないでしょうか。

レッズはこれでアジアへの出場権を獲得しました。多くの選手がアジアで初めて戦うことになると思いますが、どのようなパフォーマンス見せてくれるのか期待です。まずはオフでしっかりと身体も心もケアして来シーズン良い形でスタートできるようにしていってほしいと思います。

改めまして浦和レッズ、天皇杯優勝おめでとうございます!
そして選手、コーチ陣、スタッフ、関係者の皆さん、今シーズンお疲れ様でした。




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