『5-2-3』の特長
0-0
名古屋対浦和の上位対決はスコアレスドローに終わった。
両チームともに決定機があり、それを逃してしまったことで勝利を逃してしまった。ボール保持率は浦和の方が上回ったがチャンスの数、決定機の数で言えばほぼ五分五分で、シュート数に関して言えば名古屋の方が上回った。
現代サッカーにおいて、ボール保持はあくまで1つの要素でしかなく、ボール保持率が高いからと言って試合を優勢に進めているとは限らない。名古屋の『5-2-3』(3-4-3)のフォーメーションはボール保持率は低くなるものの、効果的にチャンスを作っていた。名古屋がこの試合の前までに2位に付けていた強さがこの試合でもよく体現されていた。
『5-2-3』のボール保持
名古屋のビルドアップ時は3-4-3のシステムとなり、3CB+2ボランチで組み立てる。組み立てると言っても、あまりこの試合ではビルドアップに拘りはなく、無理して繋ごうとせずに早めに前線のマテウス、永井、ユンカーに預けてしまおうという姿勢も見せていた。
名古屋のビルドアップに対して浦和は4-4-2のシステムで基本陣形を形成。CFの興梠、もしくはOMFの小泉が名古屋のダブルボランチのどちらかをマークして、もう1人がCBまでプレスに出る。伊藤が残りのボランチまで牽制できる立ち位置を取り、スタートの陣形が完成する。そこから下の図のように興梠(もしくは小泉)が片方のサイドへと誘導して、SHがCBまで飛び出すプレスをかけた。しかし、名古屋は立ち上がり藤井の落ち着いて浮かしたパスや、パスコースを消されないように森下への角度を作って、大久保の外切りプレスを回避したので浦和は序盤からハイプレスが機能不全となった。
名古屋の左サイドでは大久保のプレスを剥がしたところから一気に前進。浦和はRSHの大久保がCBまで飛び出した際にRSBの酒井が森下までスライドする準備をしていたと思うが、永井が酒井をピン止めしたので森下が浮く形となってしまった。プレスを掻い潜られると伊藤がカバーをしたり、酒井が遅れ気味に飛び出して背後はショルツがカバーしたりと、ハイプレスが不発に終わると個々の守備力の高さで決定機には繋げさせなかった。
浦和はハイプレスが上手くいかなかったので徐々に撤退守備をすることが増え、名古屋を自陣まで前進させることを許容し始めた。名古屋はビルドアップに関して強く拘りはないが、ここまでボールを持てる展開になったのは意外だったかもしれない。CBからWBにボールを入れれば浦和は撤退していったので、ビルドアップで浦和のハイプレスの網に掛かる場面は少なかった。
浦和は名古屋のWBに対してSHが対応する場面が増えていった前半だった。
しかし、名古屋は押し込んでからの『崩し』はそこまで手が込んでないので、シンプルなクロスやCKを獲得して、マテウスの左足の鋭いキックでチャンスを作るくらいしか選択肢がなかった。それでもマテウスの左足は十分に脅威となっていたことは確かである。
後半は名古屋も少しボールを保持する時間も増やしつつ、虎視眈々と『1発』も狙っていた。浦和は後半からSHをCBにぶつけた際にSBも連動してWBまで前にズレるように整理されていた。なので前半のようなCBからWBへのパスで撤退というような場面は少なくなった。
名古屋は54分に『1発』のチャンスが到来。RCBの野上からのロングフィードで浦和のハイプレスをひっくり返すと、浦和のロングボールの処理が上手くいかずに永井が背後に抜け出して決定機を作った。
名古屋はこれまで浦和の両CBのカバー範囲の広さと対応力によってロングボールからなかなかチャンスを作れていなかった。しかし、この場面では浦和を前に引き出して背後にスペースを作り、永井のスピードでDFを置いてきぼりにするシンプルな攻撃が実りかけた場面だった。
後半から浦和はSBをWBまで縦スライドさせることで最終ラインは3vs3の数的同数を受け入れていた。前に圧力をかける分、後ろのリスクは増えるので当然こういった場面も出てくることは考えられた。ショルツとホイブラーテンがほぼ完璧に抑えていたが、この場面では名古屋が浦和の隙を突いて決定機を迎えた。
名古屋は59分にも藤井がドリブルで浦和の1stラインを超えてハイプレスを剥がし、ユンカーへ鋭い縦パスから良い攻撃が生まれた。後半の方が浦和が撤退守備の回数を減らしたこともあって、好戦的に前にボールを運べるようになっていた。
『5-2-3』のハイプレス
名古屋は守備時はハイプレスと自陣でのブロック守備で割り切った戦い方をしていた。ハイプレスがハマらなければすぐに諦めて自陣へと撤退して守備陣形を作り直す。
浦和は4バックでのビルドアップと岩尾が下りた3バックでのビルドアップを使い分ける。それに対して名古屋はハイプレス時には「人を捕まえる」ので4バックだろうが3バックだろうがそこまで影響はなかった。
名古屋はCFのユンカーが岩尾を監視役となり、体力の消耗を最大限減らしつつ守備に貢献させる。マテウスと永井がCBへのプレス係でハイプレスのスイッチとなる。米本は前に出て伊藤を捕まえ、稲垣が中盤にいる選手(小泉や関根、興梠など)を捕まえる。WBは積極的に飛び出して圧力をかけて、ボールを奪えればショートカウンターに繋げ、奪えなければ撤退してゴール前を固める。
名古屋は前半の序盤にいくつか浦和の右サイドでハメてボールを奪ってのショートカウンターという場面を作ることができた。また、下の図のように浦和にボールを蹴らせて空中戦に強い3バックが跳ね返すというような名古屋の強みが出るようなプレスの構造になっていた。
名古屋は71分に浦和にロングボールを蹴らせたところから関根のコントロールを狙って、米本がボールを奪うとマテウスの決定機まで繋げた。名古屋はセカンドボールの奪ってショートカウンターという理想的な流れだったが、残念ながら決めきることはできなかった。名古屋としては決めていればしてやったりの場面だった。
名古屋のハイプレスに対して浦和は試合の経過とともに解決策を見出していく。
浦和が前進の手掛かりにしていたのが、名古屋のWB-シャドー間だ。名古屋の5-2-3というシステムの構造上、中盤は2枚しかいないので特にシャドーの背後にはスペースが生まれがちとなる。稲垣と米本が豊富な運動量でカバーしてはいたものの広大なスペースを2人が全て埋められることは不可能な場面も出てきた。
13分の場面はLSBの明本が高い位置を取りRWBの内田をピン止め。内田-マテウス間にできたギャップに小泉が流れてきてホイブラーテンからパスを受けた。この時は米本がしっかりとマークについていたものの小泉の巧みなキープで小泉がパスを出せる体制に持っていった。そして、CFの興梠が下りてきたことによって稲垣は興梠に引っ張られて、伊藤が浮く状況が局面的に生まれて、小泉から伊藤へとパスが繋がり浦和のチャンスに繋がった。
浦和の中盤3枚(岩尾、伊藤、小泉)に対して名古屋はダブルボランチ(稲垣、米本)+ユンカーで数的同数にすることで対応。浦和は「どうやって中盤で数的優位を作るか」というところで興梠が偽9番の動きで中盤を厚くする場面はいくつかあった。しかしながら、CBの中谷も勇気を持って興梠の下りる動きによく付いていっていたので、浦和はもうひと工夫(明本の偽SBなど)あればもう少しスムーズに前進できたかもしれない。
浦和が名古屋のハイプレスをびっくり返してチャンスを作ったのは47分の場面。西川から正確なロングフィードが小泉に渡り、この時点で名古屋は後手の守備となり急いで撤退。しかしながら、中盤には広大なスペースがあり、小泉から酒井への横パスに対して永井がプレスバックしていたが戻りきれずにアタッキングサード侵入を許す形となった。酒井、伊藤と繋ぎ、最後は興梠がミドルシュートを放った。浦和が流れの中で初めてバイタルエリアに上手く侵入してシュートまでいった場面だったように思う。
『5-2-3』の守備ブロック
ただ、名古屋も全ての場面でプレスに行ける訳ではなく、割り切って撤退する場面も多くあった。前線3枚は名古屋の得点源であることから、守備で全ての体力を使わせることはできないので撤退守備は仕方ない選択となる。
名古屋は撤退すると下の図のように5-2-3の守備ブロックを作り、マテウスとユンカーはほぼほぼカウンター要員で前線に残し、永井は名古屋の左サイドの守備もサポート。稲垣と米本だけではスライドしきれない場面もあるので永井の守備での貢献は名古屋にとって重要だった。
一方で浦和はブロックの中、特にライン間を使えないまま、追い出されてはサイドを変えてを繰り返していた。
浦和としてはユンカーやマテウスといったキャラクターをよく理解していたと思うので、カウンターのリスクマネジメントも頭の中にあり、迂闊にブロックの中に入っていきボールロストからカウンターを警戒していたとように見受けられた。その結果、ブロックの外回りでのボール保持が増えていった。
浦和としては23:10のようにRCBのショルツがユンカーの脇からボールを持ち運び興梠へパスを出したシーンが唯一のCBの攻撃参加だったように思う。個人的にはもう少しCBの攻撃参加があってもいいのかな(特にユンカーのプレスの圧力は弱いので)と思ったが、それよりもユンカーのカウンターの脅威を減らしたかったのだろう。
下の図のように永井のプレスも効いていて、タイミングよくCBまで飛び出して牽制をかけていたのも効いていた。また、名古屋の3CBのカバー範囲が広く、連動してスライドもかけれていたので1vs1で抜かれない限りは穴を見せなかった。浦和の左サイドでは野上、右サイドでは藤井が潰し役となりPA内への侵入を許さなかった。
57分には浦和は速いテンポでボールを繋ぎ、名古屋のマークを振り切ったところから小泉の決定機を迎えた。下の図のようにショルツからの縦パスを大久保がダイレクトで3人目の動きで平行サポートに入った伊藤へと繋いだことで、名古屋はマークしきれない状況が生まれ、伊藤が酒井とのワンツーでハーフスペースに侵入して丁寧な折り返しから小泉のシュートまで繋げた。
立ち位置で優位性を出すのではなくコンビネーションで優位性を出して、ゴールへと迫った場面だった。浦和は何度かコンビネーションで「人を捕まえる」名古屋の守備を剥がして前進する場面があったが、チャンスになりそうな場面でミスパスが出たりともったいないことも多かった。
『5-2-3』のカウンター
『5-2-3』守備の魅力は5レーンを埋めて穴をづらいだけでなく、カウンターも打ちやすいという利点だ。
撤退守備では名古屋の3バックについて話したが、ダブルボランチの2人にもスポットライトを当てたい。この試合、攻守に渡り奮闘していた稲垣と米本は5-2-3の守備ブロックでは中央を閉じる役割を担った。ライン間やハーフスペースで受けようとする、大久保、小泉、関根らには厳しい寄せで自由を与えず、ボールを奪えば前線にボールを供給してカウンターに繋げた。
30:25では名古屋の狙いとしていた撤退守備からカウンター繋げられた場面だった。浦和は大外でボールを受けた大久保からハーフスペースへ顔を出した伊藤へとパスが渡った。すると米本が素早く寄せてボールを狩り取り前線に残したマテウスへとパス。マテウスの高いキープ力と絶妙なスルーパスで後ろから上がってきた永井へとボールが渡った。
永井がPA付近までドリブルでボールを運ぶと後方から森下もオーバーラップして上がってきたので永井+森下vsショルツの2vs1の局面を作ることができたが、ショルツのギリギリでの冷静な対応で永井のパスを読んでカット。シュートまで持ち込ませなかった。
この場面以外にも名古屋は何回かカウンターからチャンスになりそうな場面があったが、状況判断やパスの精度に精彩を欠き、決定機には繋がらなかった。しかし、ユンカー、マテウス、永井の3トップは縦に速く、高いクオリティーも見せられるので浦和からしたら厄介な存在だったことには間違いない。彼らの存在によって浦和はCBが攻撃参加を自重したり、大胆にボランチがゴール前まで顔を出すような場面が普段に比べて少なかったように感じられた。
最後に
両チーム決定機がありながらゴールが生まれなかった試合となった。名古屋の『5-2-3』(3-4-3)のシステムは名古屋の選手たちのキャラクターと相性が良さそうで、攻守に渡り特長を見せていた。
5-2-3の特徴としてハイプレスとローブロックを使い分けることができ、カウンターも打ちやすい。また、自然と5レーンを使った攻撃と5レーンを埋める守備ができる利点がある。
名古屋はもう少し幅を効かせて浦和を左右に振ることができれば、もう少しギャップが生まれて3トップにもボールが入るようになるのかなという印象を受けた。当然、3トップは強烈なキャラクターを持っているがよりそのキャラクターが全面に押し出せるのではないかと思う。
浦和は5レーンを埋めてくる相手に対して、相手を動かしてスペースを創り出すような工夫があればもう少しチャンスを作れたのではないかと思うが、そこまでの落とし込みはまだされてなさそうだった。新体制でこれからACLの決勝も控えている浦和にとって何を優先して落とし込んでいくかというプロセスの中にあると思うので、できないことがあるのは仕方がない。浦和はこの試合を通じて危ない場面もあったが0で凌いでいたのでアディショナルタイムの決定機は決めたかった。
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