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現代サッカーゆえに気をつけたいこと

2007年にiPhoneが発売されて以来、毎年のように進化を続けながら現在はiPhone15までアップデートされた。現代サッカーも様々な戦略や戦術が開発され、ピッチ上で表現されるパフォーマンスは数年前に比べると体系化され緻密な構造となっている。

サッカーの性質を見てみるとパフォーマンスは5つの要素から構成されている。

パフォーマンスの5つの要素

その要素の中でも戦術は議題に取り上げられることが多く、物凄い勢いで研究や解析が進められている。私自身も戦術を学ぶことが好きで、ピッチ上で表現される戦術的な動きやアクションは日々参考にさせてもらっている。

しかし、最近よく現場で見るのが戦術に偏った指導だ。先程の図で紹介したように、良いパフォーマンスをするためには5つの要素を網羅する必要があるのだが、試合や練習後にされる議論は戦術のことばかりでゲームの本質が見えていない場面をしばしば目の当たりにする。当然、戦術の良し悪しがパフォーマンスや結果に影響することはあるのだが、それは他の4つの要素にも言えることである。


土台はできているか?

U-8のサイドチェンジ
以前、U-8の担当コーチが不在だったために、U-8を1日だけ見たことがあった。この学年はプレシーズンで他の指導者が少なかった時期に1ヶ月くらい見ていたので、選手の名前や特徴は何となく把握していた。やんちゃで元気な選手が多くエネルギーのあるチームだった。

ウェールズU-8ナショナルカップ

しかし、久しぶりにU-8を担当してみると、以前のエネルギッシュな戦いぶりは見られずに、どこか縮こまっているようなパフォーマンスだった。前は1vs1でも恐れずに仕掛けていっていた選手も目の前のDFを見るとパスで逃げる。5人制で4人のフィールドプレイヤーは綺麗すぎるくらいに菱形の陣形を作っていた。肝心の試合の方はパスばかりで前に進む意識が低く、自分がボールを失いたくないからパスをするような爆弾ゲーム状態。結局、どこかでボールを失って失点を繰り返す地獄絵図が1試合目では繰り広げられていた。

1試合目が終わった後に選手の1人に「いつもどんな練習しているの?」と聞くと「サイドチェンジの練習」と言っていた。そこでようやく綺麗すぎるまでのボール保持の陣形と爆弾ゲームのようなポゼッションに合点がついた。5人制でサイドチェンジは有効なのかというのはまた別の議論だとして、そもそもU-8の選手たちはサイドチェンジを理解しているのだろうかというのが非常に興味深く感じた。

個人的に指導者は自分の色や哲学を出すべきだと思っているのだが、選手のキャラクターや年代、性格なども考慮する必要があると思っている。U-8という学年を考えると『サイドチェンジ』というような戦術的な要素よりも、『正確にボールを蹴れる・止めれる』、『身体を使いこなす』、『頑張る』、『楽しむ』とかの方が大事ではないのかなと思う。選手がすでにサイドチェンジができる技術を身につけていて、サイドチェンジの有効性を理解しているのであればそれを落とし込むのもありだとは思うが、そうでない選手たちに最初に指導することが『サイドチェンジ』というのは気になった。

つまり、サイドチェンジを教えることが悪いのではなく選手が成長していくプロセスの中で「いつ何を教えるか」ということが重要なはずだ。

U-16の対戦相手対策
U-16の指導者はリーグ戦で勝利するために対戦相手分析をやり始めた。その試み自体は良いのだが、毎回の練習の内容が「相手がこうしてくるから…」と相手が主語になり、週替わりで一貫性のないバラバラな練習が行われるようになった。ある週は4-3-3のハイプレス回避、ある週はマンツーマンのプレス回避、ある週4-2-3-1のプレス回避の練習が行われた。

相手によってビルドアップの形を変えて柔軟に対応することは必要だろう。しかし、形を変えるほどの果たして土台はできているのだろうか。また、週に2回しかない練習の中で選手たちに何を学ばせるかという視点は重要になる。プロのように毎日活動があり、相手を想定した練習を行う時間を十分に確保できるのであれば良いのだが、週に2回の練習の中で「どうやって上積みを作るのか」、「どうやって自分たちのストロングを出すのか」、「どうやって課題を改善するのか」、「どうやってチーム・選手を育てるのか」という意図のもと練習内容を取捨選択する必要がある。

机上の空論

また、よく見かけるのが戦術ボードと睨めっこしている指導者だ。ことあるごとに戦術ボードを引っ張り出してきて「ここはこうで、あれはあれで、、、」と戦術の議論が繰り広げられる。1つの理論としてそういった話をする分には良いのだが、指導しているチームについて話す場合、それはチームやゲーム内の文脈が伴っている必要がある。

私が実際に会った指導者でいつも戦術の話をしている人がいたことがある。ある日、U-19の試合を見た後にその指導者から「相手の4-2-3-1の守備に対して3-2-5でボール保持をするという内容で、攻撃側はWBで相手のSBをピン留めして、ATMとCMの4枚で相手の中盤3枚に対して数的優位を作って…」という話を延々と聞かされたことがあった。

3-2-5vs4-2-3-1

私が試合を観た感想としては戦術面での問題というよりは選手1人ひとりの技術レベルの低さや個人戦術での乏しさの方が気になった。7mのパスがズレていたり、パスがバウンドしているようなクオリティーが散見していた。更には3CBsのワイドCBは1stタッチで身体を開きすぎて中央を覗くことができていなかったり、スペースがあるのに運ばずに横パスを選んでいたり。

ゲームの見方は人によって変わるし、正解はないので良い悪いという話ではないのだが、もっと包括的にゲームの文脈を捉える必要があるのではないかと感じた。

そのU-19の試合で言えば3-2-5のLWBが1vs1の局面で剥がせる、仕掛けれる選手だったので、中央の数的優位に拘らなくてもLCBからLWBへのパスが通れば前進できていた。逆に右サイドではRWBが相手のSBをピン留めして、RCBがボールを持った時にハーフスペースへ縦パスを通せれば良かったなとも思った。

選手の能力が全て同じでロボットのように感情や環境的な影響を受けずに均一なパフォーマンスをすることができるのであれば、戦術ボードで「あーして、こーして」と話すのは問題ない。あるいは、一般的なセオリー的な意味合いでそういった類の話をするのは勉強にもなる。しかし、ゲームは生き物であり文脈は変わり続ける。試合後の振り返りで選手のキャラクターやゲーム内の文脈を取り除いて戦術ボードのマグネット動かすだけではゲームの本質が見えてこないのではないだろうか。

自戒も込めて

例えば、試合に負けた際、何か上手く行かなかった時に戦術的な原因にこじつけて解決したように捉えるのは"楽"である。なぜなら、戦術にはセオリーがあり、それぞれの戦術には長所と短所があるので、簡単に解決策へと導いてくれるからだ。

私自身も試合後についつい戦術的な終着点に行き着こうとしがちなのだが、少し冷静になって「ゲームの本質が見えているのか?」と自問するようにしている。もしそれが本当に戦術的な原因であれば良いのだが、時にそれは単純にCBの技術的な能力が低いがために中盤へのパスが通らないのかもしれない。あるいはスペースがあるのにも関わらず、ボールを運ばずに距離のある状態で20mの縦パスを通そうとしているから難しいのかもしれない。もしくは、そもそも中盤でのフリーな選手を認知できていないかもしれない。どこでチーム・選手がつまづいているのかによって解決策も変わってくる。

戦術的な発展が著しい現代サッカーだからこそ指導者としてゲームをどのように捉えて、どのように指導していくかが試されている。

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