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進歩と新たな壁【Jリーグ】セレッソ大阪vs浦和レッズ

リーグ戦3連勝中と波に乗るレッズはアウェイでセレッソ大阪と対戦しました。セレッソは怪我人が出ていることもありリーグ戦ここ3試合勝利がありませんが、上位につけていて個々のスキルがとても高いチームです。

対照的な両チームですが、両チームともに新指揮官を迎えてのシーズンとなっていて注目の一戦でした。

スタメン

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レッズは武田が前線の徳島戦で怪我をしたことで伊藤(敦)を先発で起用。小泉がやや前目でプレーし、伊藤(敦)がやや下がり目で柴戸がアンカーという布陣でした。

一方のセレッソは前節の徳島戦と同じメンバーで4-4-2のフォーメーションで試合に臨みました。やはり注目は今シーズンから復帰した大久保とセレッソ期待の若手、西川(潤)です。


試合内容

前半からレッズがボールを保持しセレッソ陣内に押し込む展開。アタッキングサードからの質が低くシュートまではなかなか持っていけない。対するセレッソは清武を起点にボールを運ぶ。44分に小泉がミドルシュートを放つもキムジンヒョンに止められる。どちらも得点奪えずに前半は0-0で折り返す。

後半から両チームとも選手を変更。レッズは伊藤(敦)に替えて興梠を投入。セレッソは両SHの清武と西川(潤)を下げて、中島と山田を投入。セレッソは後半から前からプレスをかけ始め試合がオープンな展開になり、両チームシュートが増える。65分にセレッソのCKから丸橋がシュート、ボールはゴールに吸い込まれセレッソが先制する。失点後、レッズは興梠や関根の決定機があったが決められない。試合終盤にレッズは杉本を投入、槙野をトップに上げパワープレーを試みるも最後まで得点を奪えずに試合終了。セレッソが1-0と勝利した。


試合スタッツ

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試合ハイライト動画


徳島戦の課題修正

・ビルドアップの形
前節の徳島戦で右サイドのビルドアップが上手くいきませんでした。そこでレッズは西が3バックの右に立ち位置を取り槙野、岩波、西の3人で最終ラインを形成しました。

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柴戸が三列目の中央に構え、伊藤(敦)が柴戸の左に並ぶ形が多かったです。

伊藤(敦)は左SBの位置に入り4バックにしたりボランチの位置でビルドアップをサポートしたりと相手のプレスを見てかなり柔軟に立ち位置を変えていました。

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そして小泉は2列目がスタートポジションで必要に応じて柴戸の右側に下りてビルドアップをサポートする役割をこなしました。

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前節かなり苦しんだビルドアップでしたがとても改善みられた試合でした。セレッソが激しくプレスをかけてこなかったこともありますが、ビルドアップの形(誰がどこに立ち位置を取るか)を変えたことで終始安定していました。

岩波のヒートマップを見ても今節の方がより中央でプレーしていたことがわかります。そしてパス精度をみても今節は95%と前節の81%を大きく上回っています。

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岩波をプレスを受けにくい(あまり強いプレスのこない)3バックの中央の位置でプレーさせたことでよりビルドアップが安定したことがわかります。



ジレンマ

ボールは保持しているものの、なかなかシュートまでいけない、ゴールへの迫力が足らないレッズは後半から伊藤(敦)に替えて興梠を投入しました。

セレッソが後半からプレスをかけ始めてスペースができたこともありますが、後半の方がシュート数も増えましたし、決定機をいくつも作ることができました。しかし、それと同時に前半はほとんどセレッソにチャンスがありませんでしたが、セレッソにもいくつかチャンスありました。

<スタッツ>
スタッツを見ても前半と後半で両チームのシュート数が大きく変化しています。

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この変化は後半から両チームがより攻撃的な布陣になったからだと思います。その結果オープンな展開で試合は進みました。


・攻撃の起点
興梠の投入で中央で起点を作ることができるようになりました。興梠は中央からあまり持ち場を変えずにプレーし両サイドでは目まぐるしく選手がポジションチェンジするような戦い方となりました。

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51:15では岩波から中央でパスを受けてしっかりとボールを収め、反転して明本へスルーパスを出しチャンスを作りました。とても”興梠らしさ”が出たシーンだったと思います。また68:30では武藤のクロスから惜しいヘディングシュートなどもありました。

やはり武藤とのプレーは連携の良さが伺えますし、興梠が入ったことでサイドだけでなく、中央にも起点を作ることができるので攻撃もより迫力が出ました。コンディションがまだ完璧ではないように思えましたが、やはりレッズの攻撃を牽引する存在だなと感じました。


・守備の強度
興梠の投入で攻撃に新たな起点を作ることができましたが、それと引き換えに守備の強度は半減してしまいました。

その理由の1つは興梠の守備での貢献度です。興梠は守備はしますが、武藤や明本のような運動量豊富に2度追いを惜しまずにガンガンプレスをかけられるタイプではなく、自分の持ち場でしっかり守るタイプです。前線からのプレスが欠かせないリカルドサッカーで前線からのプレスで相手を追い込むような場面は前半に比べ後半は減ってしまいましたし、前線のプレスバックも強度が低かったように思えます。

そしてもう一つの理由が伊藤(敦)が下がってボールを刈り取る場面が少なくなったことです。伊藤(敦)のポジションには小泉が入りましたが、やはりボールハントという点では強度が下がったように思えます。小泉もサボらずにしっかりと守備をすることができるタイプですが伊藤(敦)に比べるとボール奪取力はやや劣るかなと思います。この交代で中盤でボールを奪いきる場面が前半よりも減ってしまいました。

もちろんレッズが得点を奪うため、攻撃的にいくための交代だと思いますし、守備での強度が低下するリスクを承知で興梠を投入したと思います。

試合後にリカルド監督もそのことについては言及していました。

後半に関しては少しリスクを冒して中盤の選手を外して、前線の選手を入れてゴール前での違いを作れる状況を狙って、交代も含めて行いました。悪くはなかったのですが相手にゴールを決められてしまって、ただ、ゴールを決められたあともしっかりとやるべきことはやれていました。

引用:監督コメント(Jリーグ)

興梠の投入によって得られる攻撃力と失う守備力というジレンマは今後レッズが悩むテーマになりそうです。


『正しく』・『適切に』・『狙いを持って』

この試合のレッズは『丁寧に』『キレイに』崩すことに固執しすぎた印象を受けました。

リカルド監督が試合後のインタビューでこの手数の多い攻撃に関してコメントしているのがとても興味深い内容だったので紹介します。

--以前、クロスを簡単に上げないなど攻撃のときにもっと我慢が必要と話していたが、観る側からすると勝手なもので、手数をかけ過ぎにも見えてしまう。バランスが難しいと思うが、どのあたりを求めていきたいか?

サッカーは面白いもので、いつそのシチュエーションが現れるかは違うと思います。時には何分も(パスを)回してからでないと適切な瞬間が訪れなかったり、逆に2つ3つのパスで打開できるような状況もあったりします。なのでわれわれがやるべきことは、正しい瞬間、適切なタイミングに狙いを持ってボールを入れられるかどうか、そういったところが大事だと思います。

引用:監督コメント(Jリーグ)

確かに自分も以前の記事で単純にクロスを上げているというような分析をした記事を書きました。観る側は本当に勝手なもので上手くいけば賞賛し、上手くいかないと批判します。ただここで大事なのは何故上手くいかなかったのか何故上手くいったのかを理解することだと思います。

サッカーはとても複雑なものでクロスが少ないから沢山クロスを上げればいいということではありません。リカルド監督もコメントしているように『正しく』『適切に』『狙いを持って』パスやクロスを入れることが大切です。

ではこの正しく、適切に、狙いを持ってのパスやクロスとはどういったものなのかということになります。

<49:55>
例えば49:55のシーンでは小泉がフリーでボールを受けました。この時にゴール前では2vs3の状況ができていました。そしてファーサイドには関根がフリーでしたし、関根を含めると3vs3の状況です。

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この場面ではPAのポケットに興梠を走らせたり、ゴール前にクロスを上げて武藤に合わせたりもしくは関根までサイドチェンジをするべき場面だったかもしれません。

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しかし、小泉の選択は明本をパス交換をした後に槙野へのバックパスでした。

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もちろんバックパスをする選択が必ずしも間違っているわけではないと思います。実際にこの後に槙野が関根にサイドチェンジをしてシュートまでいくことができました。

しかし、リカルド監督の言う正しい瞬間、適切なタイミングはこういった場面でクロスやパスを入れることだと思います。

<67:22>
67:22に関根のドリブルから武藤とワンツーでシュートまで行くシーンがありました。この場面ではリカルド監督の言う『狙いを持って』ボールを入れることができていた場面だと思います。

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奥埜をかわした後に武藤とワンツーをして上手く抜け出すことができました。

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このシーンで武藤と関根のワンツーは『狙いを持って』ボールを入れることができていると思います。関根は武藤にパスした瞬間に走り出していますし、2人ともワンツーのイメージを共有することができています。ワンツーという狙いを持って武藤にパスをすることができたのでシュートを打つことができました。


精査が必要な取り組み

・ショートコーナー
ここ数試合でレッズはショートコーナーをやることが増えました。前線の高さなどを考慮しての取り組みだと思います。ですが、ショートコーナーはあまり上手くいっていないように見受けられます。

前節の徳島戦ではショートコーナーからゴールを決めました。ああいったクロスを上げるタイミングが合わせる選手も分かっていて、しっかりと反応できる形はいいと思います。ですが、レッズのショートコーナーではクロスを上げきれずにバックパスになったり、クロスを上げられないままボールを失うことがよくあります。

この試合でも75分に右からのCKでショートコーナーをしましたが、関根のパスが西に合わずにゴールラインを割ってしまいました。ショートコーナーをやるのであればしっかりと設計されたものにしないとチャンスを潰してしまうことになるので、ショートコーナーに関しては見直す必要があると感じました。


・パワープレー
88:08に槙野から上がりたいとリカルド監督にアピールして、リカルド監督が上がれとジェスチャーしています。それ以降、槙野はずっと最前線に残りレッズのパワープレーが始まりました。しかし、あまり効果的に攻めることができませんでした。多分、パワープレーの練習はしていなかったと思うので、ぶっつけ本番でのパワープレーだったと思います。

パワープレーが上手くいかなかった原因は2つあるかなと思います。
1つは割り切って前線にロングボールを入れられなかったことです。パワープレーするのであれば中盤を省略して前線にパスを供給することが優先となりますが、ロングボールの本数は少なかったかなと感じました。良いところからクロスを上げようという意識がまだ残っていて、繋ぎの部分で時間を消費してしまう場面が見受けられました。87分から約2分間レッズはセレッソ陣内でボールを保持していましたが、最終的に西が仕方なくクロスを上げるような形になってしまいました。

2つ目はディフェンスラインが低かったことです。ロングボールを入れた後のセカンドボールは絶対に回収しなければいけません。なのでディフェンスラインはいつもよりも高く設定しないといけません。セカンドボールを回収できないとカウンターを受けることになりますし、相手ボールとなり時間を消費されてしまいます。

この2つのことがチームとして意識できていなかったので中途半端なプレーが増えてしまい、パワープレーが上手く行かなかったのかなと感じました。


最後に

前節の徳島戦でレッズが勝利したような形でセレッソにやられてしまいました。こういう試合では「たられば話」が出やすいですが、しっかり何が上手くいって何が課題なのか理解する必要があると思います。

前節上手くいかなかったビルドアップを1週間で改善したことは素晴らしいことだと思います。そして、次に待ち受けていた壁はアタッキングサードでの攻撃でした。『決定力』が足りなかったということは簡単ですが、それまでのプロセスも見ていく必要があると思います。今後レッズが得点する、勝利するためには『正しく』『適切に』『狙いを持って』がカギになってくると感じました。

成長をみせている今のレッズならこの新たな壁も乗り越えていけると思いますし、どんな成長を見せてくれるのか今後が楽しみです。

次節はホームで大分戦。ここからまた勝利を重ねていくことに期待です。ここまで読んでいただきありがとうございました。


出典:


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