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したたかな戦い方【Jリーグ】FC東京vs浦和レッズ

前節、セレッソ大阪に完勝し勢いに乗るレッズは8位のFC東京とアウェイで対戦しました。FC東京とは開幕戦で対戦した以来の対戦となり、長友の加入などもあるので前回対戦とはチーム事情が変わってきていると予想されます。

FC東京との勝点の差は5ポイントしかなく、レッズとしてはACL争いという面でしっかりと勝利して突き放したいところです。


スタメン

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FC東京はミッドウィークに行われた名古屋戦からメンバーを5人変更。名古屋戦で負傷交代した小川はベンチ外。また名古屋戦の肘打ちで退場となったレアンドロも出場停止となっています。古巣対戦となる青木は先発。東京は4-2-3-1を採用して永井の1トップという布陣で試合に臨みました。

一方のレッズは前節のセレッソ戦と同じスタメンで臨みました。


試合内容

試合開始直後に試合が動く。1分に森重のロングフィードから背後に抜け出した田川が左足でボールをゴールに流し込みホームのFC東京が早くも先制。8分にはスローインを受けた平野から安部がボールを奪いシュートするが西川セーブ。その後は徐々にレッズペースに。14分に江坂がFKで右上に狙いすましたシュートを放つも東京のGK波多野がセーブ。レッズは押し込んではいるものの崩すまでには至らずにシュートまでいけない。34分に東京はFKのこぼれ球を安部がシュート、ディフレクトしたボールをオマリがシュートするもボールは枠の上に外れる。37分にレッズは関根から左サイドの明本に展開しグラウンダーの速いクロスを入れるも飛び込む選手がおらず。45分にレッズは右サイドで細かいパスを繋ぎ、平野からボールを受けた酒井がGKの股を抜くシュートを決める。一度はオフサイド判定となるが、VARでゴールが認められてレッズが同点に追いつき前半を1-1で折り返す。


HTに東京は渡邊と高萩を下げてD.オリベイラと東を投入し、より攻撃的なメンバーに変更。46分にD.オリベイラが左足を振り抜くがボールは僅かにゴール左に外れる。52分に平野が切り返しでDFをかわし、左足でシュートするも波多野がセーブ。60分に森重のクロスに田川が頭で合わせるがクロスバーに当たりゴールにはならず。66分に関根が左足で強烈なシュートはバーに直撃、跳ね返ったボールを江坂が冷静に無人のゴールに流し込みレッズが勝ち越す。68分には途中出場のユンカーが関根のスルーパスに反応しシュートするも波多野のセーブで追加点にはならず。試合終盤には東京はDFのウヴィニをトップに投入しパワープレーに出るがレッズも槙野を投入し対応。そのまま試合は終了し2-1でレッズが勝利した。

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・試合ハイライト動画


・試合スタッツ

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ボディーブロー

早々に失点してしまったレッズはリードしてより守備に比重を置いてくる東京の守備を崩すことが必要になりました。

下の図のように東京はトップ下の高萩を1つ前に出して4-4-2でレッズのボール保持時には対応してきました。2トップがボランチを挟み込んだところから2トップが片方のサイドに追い込んで奪うことを狙いにしていたと思います。

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東京が1番警戒していたのは中央から中央へ入る縦パスでボランチからDFラインと中盤のライン間にいるレッズの選手への縦パスはとても高い意識で警戒していたと思います。レッズとしては中央から中央への縦パスを狙ってはいますが東京と中央は塞いできていたのでサイドからの展開が増えました。

・2トップを消耗させたCBの運び出し
レッズは下の図のように平野が最終ラインに加わり2トップの脇から前進しました。特に左サイドではショルツがドリブルで持ち上がって数的優位を作って攻撃にアクセントを加えるシーンがいくつかありました。

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16:42ではショルツがドリブルで運んで明本へスルーパスを送るシーンがありましたし、37:21ではドリブルで持ち上がった後にシュートを打つなど積極的に攻撃参加していました。

CBsが持ち上がるところやフリーで鋭い縦パスやサイドチェンジなどを見せると東京もCBsをフリーにしてはいけないと認識してプレスをかけなくてはいけなくなります。ボランチを挟んだところからプレスがスタートするので強い圧力をかけるには長い距離をスプリントする必要がありとても体力の消耗する作業になります。この守備の作業を前半の多くの時間で東京の2トップに行わせて体力を奪い取っていったのは非常に良かったと思います。

・シャドーのサポート
この試合でビルドアップがスムーズにいった理由として2シャドー(汰木と小泉)のサポートが非常に適切だったことが考えられます。

平野が最終ラインに下りて3バックを作った時に東京は2トップだけでは脇から前進されてしまうので、SHを前に出して縦スライドすることでボールを奪いにいくような姿勢を見せる場面がありました。SHが前に出ていった際のプレスの逃げ道としてシャドーがSHの脇まで下りてくることでプレスを回避しました。

29:42では下の図のように渡邊がショルツまで前に出てプレスに行こうとする場面がありましたが、その時には汰木がライン間から下りてくることでショルツからのパスコースを確保して渡邊のプレスを回避することができました。

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このシャドーのサポートがあることで、東京はSHを前に出してもプレスを剥がされてしまうので、プレスに行くことが難しくなり、結果的にレッズの3バックに対して2トップが追い回すような時間が増えました。

また、右サイドでは小泉が下りてきてボールを引き出していました。平野が下りて3バックを形成する時間がない時には小泉が右下に下りてくることでプレスを回避しました。この時に関根と酒井でSBとSHをピン止めして固定したことで小泉が下りるスペースが生まれています。

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この試合では東京のプレスの人数に対して、数的優位を作ってビルドアップを構成する意識が強かったので、とてもスムーズに前進することができました。

・ボディーブローの効果
2トップの脇からの前進やサイドの幅を広く使った攻撃を続けていることで次第に東京の選手たちの意識が外へ向き始めます。前半はほぼレッズがボールを握って東京の選手達を守備で走らせていたので、それがボディーブローのように東京の選手たちを疲弊させました。

そしてそのボディーブローの効果がレッズの1点目のシーンで表れます。下の図のようにショルツから平野が2トップの間でボールを受けて前を向くことができました。2トップはかなり3バックへのチェイスで体力を消耗していたので前半も終わりに近づいたところで制限がかけられない状態になっていました。そして平野は東京のダブルボランチの背後に下りてきた江坂に鋭い縦パスを送ります。中央から中央への縦パスは東京が1番警戒していた部分ですが、東京のボランチが一瞬反応が遅れて江坂へパスが通りました。

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ここから右サイドに展開して酒井、平野、柴戸、のトライアングルで右サイドを攻略して酒井が最終的にゴールを決めました。このトライアングルも3人目の動きがあったので東京のDFがマークしきれない状況を作り出したことも良かったと思います。

ここでのポイントは中央から中央への縦パスが入り、そこからワイドに広げたことで東京のブロックが多少コンパクトさを失い、柴戸からハーフスペースの平野に縦パスを入れられたことです。中央の江坂のところで起点を作れたことが大きかったと思います。


諸刃の剣

前半のうちに追いつかれてしまった東京はHTにD.オリベイラと東を投入。59分にはアダイウトンを投入と攻撃に重心を置くようなメンバーを投入してきました。レッズとしては攻撃に特長のある選手が入ってきたことで、失点のリスクという意味では脅威が増えましたが、東京の守備の綻びが出やすくなった点では得点を奪いやすくなったと言えます。実際に前半はかなりコンパクトに保っていた東京の守備陣形が60分くらいから間延びし始めます。

レッズの2点目のシーンでは下の図のようにアダイウトンが岩波まで食い付いてプレスに来てくれたことで、アダイウトンが飛び出した背後のスペースが空きました。岩波から平野を経由してフリーの酒井が前進し相手陣内に侵入することができました。岩波から平野へパスした時もD.オリベイラのプレスが遅れたので平野は楽々と酒井に繋ぐことができました。

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酒井が前に運んで小泉にボールをスイッチした後にも前線とその後ろの選手との間にスペースができていました。前半は高萩や永井がプレスバックして埋めていましたが、選手が入れ替わったこともありスペースが空きました。下の図のように平野が空いたスペースで、小泉からボールを受けて左サイドの関根に展開し、関根が左足でシュートまで持ち込みました。右サイドで1度起点を作ったことで、東京の守備ブロックはレッズの右サイドに寄ったので左サイドで関根がドリブルで仕掛けて時間を確保することができました。

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東京はより攻撃的な選手を投入し勝負に出ましたが、攻撃的な選手を多く使うということは諸刃の剣なので守備でトラブルが起きやすいことが多いです。レッズはそこを上手く突いて得点を奪えたので試合巧者だったと思います。


定石

・苦しい時間帯
レッズが1点リードした後、飲水タイムから東京はフォーメーションを3-5-2に変更し、より前に圧力を出せる布陣にしてきました。

この変更によって、下の図のようにレッズのビルドアップの陣形と東京のプレスの陣形が噛み合う形となり、レッズはビルドアップに苦戦します。これまではレッズがボール保持している時に、レッズの選手たちは東京の選手の間に立ち位置を取れていましたが、東京の選手に捕まる形となり、この試合で初めてポゼッション率で下回る時間帯を迎えました。

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73:48では小泉のところで安部に潰されてショートカウンターを受け、長友のクロスからアダイウトンにヘディングされた場面がありました。レッズはこの試合で初めてのボールを持てない苦しい時間帯を迎えたと思います。

データを見ても試合時間残り15分のところはFC東京がポゼッションで上回る形となっています。

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・試合のクローズ
レッズがボールを握れずに苦しい時間帯に入ったことを認識したリカルド監督は、槙野をクローザー且つパワープレー対策として、田中を運動量の担保とカウンター要員としてピッチに送りこみました。最近ではこの交代は見慣れた光景で、レッズがリードして試合終盤を迎えた際には、槙野を投入して後ろを3バックにしてガチガチに固めつつ、田中やユンカー、大久保といったカウンターに精を出せるタイプの選手を投入しながら隙あれば追加点を狙います。槙野の投入で東京のパワープレーをしっかりと対策できましたし、田中はWBの背後のスペースにドリブルや飛び出してCK付近でボールキープするシーンがありましたので、とても効果的な交代策だったと思います。

リカルド監督はポゼッションを志向してはいますが、ボール保持に拘らずにポゼッションできないならカウンターベースで背後を突いていくような割り切りができる監督です。そういったリアリストの面も着実に勝点を積み重ねられている要因かなと感じました。

リードして終盤まで持ち込むことができれば、伊藤やユンカー、大久保、田中といったリリーフ陣を投入し、クローザーの槙野で試合をクローズさせるという定石ができあがっているのがレッズの今の強みかもしれません。この試合でも特に危ない場面を作らせずにしっかりと試合を終わらせて勝点3を手にしました。

最後に

試合の入りで失点してしまいゲームが難しい展開となりましたが、焦らずにボール保持をして、失点のリスクも管理しながら攻め立てていくような自分たちのスタイル淡々と続けていったところにレッズの成長を感じました。失点してパニックなってもおかしくない状況やボール保持できずに押し込まれるような状況でも、動じずに自分たちのプレーを貫く姿は、本当に強いチームの戦い方になってきたなという印象を受けます。途中から入ってくる選手たちもしっかり自分のタスクをこなしていることも大きいと思います。

戦術面ではボランチが最終ラインに下りた3-1のビルドアップに江坂、小泉、汰木のサポートが入る形が1番安定してボールを前進できるのかなと感じています。相手のプレスのかけ方によっては酒井が最終ラインに入って3-2のビルドアップの形にしたり、2CBsだけで最終ラインを構成したりとバリエーションがあるので、どの形でも安定してボールを前進させることができるようになると相手は対策しづらいのかなと思います。ビルドアップが安定してくるとFC東京のようにブロックを作って引いてくるチームが出てくると思うので、それをどうやって崩していくかが今後の課題になってくるのかなという印象です。1点目のようなトライアングルを作ったところから3人目の動きでPA内に侵入していく形はとても有効だと思うので、練度を高めて試合で使えるようになってくれば崩しの質が上がるのかなと思います。

次節はACL圏内を争うヴィッセル神戸との対戦です。神戸はレッズよりも1試合少ない状態で同じ勝点で並んでいるので、絶対に叩く必要があります。神戸は武藤や大迫、ボージャンといった個の質が高い選手たちを夏に補強しているので警戒が必要です。一戦必勝の大一番、熱いサポートで選手たち後押ししましょう。We are Reds!



出典:



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