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ベースの異なるポゼッション

2-0(トータル2-1)
ルヴァンカップ準決勝の横浜Fマリノス対浦和レッズの試合は1stレグを終えて横浜が1-0で先手を取った。浦和ホームで迎えた2ndレグでは後半のショルツのPK2発で浦和が逆転勝利でアビスパ福岡との決勝戦へと駒を進めた。

この試合で興味深かった点は両チームのボール保持での考え方だ。浦和は立ち位置によってプレスの逃げ道を作るのに対して、横浜はコンビネーションで前向きの選手を使う(ブライトンのような)作り方となっていた。そこで今回両チームのプレス回避について注目していく。


CMの段差

試合の立ち上がりはアウェイの横浜がボールを握った。横浜の特長はなんと言ってもボール保持の陣形だ。

下の図のようにSBが高い位置を取り、基本的にボールサイドと反対のSBはハーフスペースを主戦場にする。ボールサイドのハーフスペースにはトップ下の西村やCFのアンデルソンロペスが下りてきてポストプレーをこなす。ダブルボランチは縦関係になり、段差を作ることでパスコースを増やすことが徹底されている。

横浜の基本的なボールの陣形

横浜は何度かCM(ボランチ)の段差を利用して浦和のハイプレスを回避した。例えば2:08ではRCB上島からパスを受けた山根がダイレクトで喜田へとパスを出す。上島→喜田へのパスコースは早川によって消されているのでパスを出すことはできないが、山根を経由することで喜田へのパスを通すことができる。

2分の横浜のビルドアップ

浦和は横浜の2CB+ダブルボランチに対して、2トップ+1ボランチの3人で対応した。3人が上手くマーカーを消しながらボールホルダーへとアプローチをかけることで数的不利を隠していたが、横浜はCMの高さを変えて段差を作ることで消されている選手へのパスコースを作り出した。特にアンカーの位置に入ることが多かった山根は視野が広く、自分の斜め後ろへのパスをどんどん通していて、期待の若手に感じた。

横浜はこのビルドアップの流れでボールを受けた水沼が大きく逆サイドへとサイドチェンジ。LWGのエウベルがボールを受けるとハーフスペースにいたLSB永戸がスプリントしてPAのポケットへと侵入してクロス、水沼がシュートを放ったが岩尾にブロックされた。

横浜のサイドチェンジからの攻撃

PAのポケットにSBが飛び出してこれることが横浜の強みでもある。SBがハーフレーンにもともと立ち位置を取っていることで動き出しもスムーズで、更にはWGをワイドでプレーさせてあげることもできる。前半の立ち上がりは横浜らしい攻撃が見られた。

横浜がチャンスを作った場面はビルドアップで浦和のハイプレスを剥がした時が多かった。22分の永戸のバーを叩いたミドルシュートも後方からのビルドアップからだった。

下の図のようにホセカンテがGK一森へとプレス。一森は慌てずにアンカーの位置にいる山根へと縦パス。縦パスを受けた山根は上島へと捌いて、上島が喜田へと縦パスを入れる。喜田が松原へと展開することで完全に浦和のプレスを剥がした。先程と同様にこの場面の中に横浜は『消されている選手』へ角度を変えることでぱすを作り出している。一森→上島へはパスコースが消されているが山根→上島へはパスを出すことが可能。上島→松原へのパスコースは無いが、喜田→松原へのパスコースはある。浦和の消す(スクリーンする)プレスを高い技術と連携で攻略した。

22:14の横浜のビルドアップ

後半に入ると横浜はなかなかビルドアップからの出口を見つけることができずに浦和にボールを握られる時間帯が続いた。特に前線から下りてきてハーフスペースで受けようとする西村やアンデルソンロペスが浦和の両CBに潰されてしまい、苦しい時の逃げ道がなくなってしまったことは大きな原因だろう。

個人的に感じたもう一つの原因は後半からCBからボランチへのパスが出なくなったことだ。まず後半から浦和がボランチの一角をボールサイドのボランチ(下の図では渡辺)を明確に捕まえにいくようにしたことでCBからボランチへパスが入れ難くなったことが大きい。93:02では浦和のプレスの誘導によって外回りのボール保持となり、最終的に右サイドの松原のところでハメられてしまった。

93分の横浜のビルドアップ

運動量が落ちて最適なポジションまで移動しきれなかったことも考えられる。また、浦和もかなり圧力を強めていて、特にアンカーに入る山根に対して厳しくプレスに出ていた。ボランチへのパスを狙い所にされていたこともあり、後半はCMの段差を使ってのプレス回避が上手くいかなかった。

3つのプレス回避

関根の偽SB

立ち上がりこそは横浜にボールを握られたものの前半13分を過ぎたあたりからは浦和がボール保持する時間が増えていった。

浦和のボール保持で逃げ道となったのがRSBで起用された関根だった。1stレグで2枚の警告を受けて退場処分となった酒井の代わりにこの試合でRSBを務めた関根。普段は2列目を務めることが多い関根だが、この試合でのSBとしてのパフォーマンスは非常に優れていた。

14:26の場面では関根の内側に入ってプレスの逃げ道を作った。西川からRCBのショルツへとボールが入るとエウベルがショルツへとプレス。関根が山根の斜め後ろに立ち位置を取り、ショルツからの縦パスを受けたことでプレスを剥がした。縦パスを受けた関根は逆サイドの荻原へとサイドチェンジをして一気にスピードアップし、この流れから早川の幻のゴールも生まれた。

14分の浦和のビルドアップ

横浜は浦和のダブルボランチのケア+ハーフレーンに現れる関根や小泉のケアにからに手を焼いていた。守備時には西村とアンデルソンロペスが横並びになり4-4-2気味の守備陣形になるが、2トップで西川+2CB+岩尾をケアしていたのでなかなかボールホルダーへ制限をかけることができなかった。

26:06も同様に関根がサイドから中央へ絞ってくる偽SBの動きで西川からボールを受けてプレス回避に貢献。

しかし、逆に関根が幅を取って普通のSBの立ち位置を取っている時には、横浜が上手くサイドへと誘導してハメることができていた。20:30では喜田が安居へプレッシャーをかけて外側へと誘導。パスを受けた関根に対してエウベルがプレスに出て、逃げ道を作ろうと前線から下りてきたCFホセカンテに対してもLCBの角田が密着マークでボールを狩り取った。

20分の横浜のハイプレス

73:16も同様にサイドでボール受けた関根からホセカンテへの縦パスを角田がカット。喜田がセカンドボールを途中出場のヤンへと素早く繋げてショートカウンターへ移行したが、浦和のプレスバックも素早くシュートを打つことはできなかった。

後半から浦和は選手の立ち位置を入れ替え、小泉がRSH、早川がLSH、髙橋がホセカンテと2トップを組んだ。51:59では先程と似たようなボール保持の陣形からチャンスを作った。RSBの関根がワイドの高い位置へと張り出して、ハーフスペースには小泉が顔を出す。ショルツから小泉へと縦パスが入り、小泉の素晴らしいターン&スルーパスで関根が背後に抜け出してチャンスを作った。

51分の浦和の攻撃

エウベルは試合を通じて守備時のタスクが曖昧にさせられてしまった。「関根のケア」、「ショルツへのプレス」、「ハーフスペースへのパスをブロック」の3つの守備の選択肢の中で決断を強いられて、終始上手く立ち回ることができていなかった。特に前半と後半で浦和のポジション変更によって、端的に言うと関根の攻撃時の役割がCM→WGへと変化したこともエウベルが上手く対応できなかったことに影響しているはずだ。

西川のロングフィード

GK西川のロングフィードは横浜のハイプレスを苦しめた大きな飛び道具だ。ロングフィードを正確に通されてしまうとハイプレスに出ていった選手たちは押し戻されることになる。例えば5:01では西川から正確なロングフィードが関根へと通った。このパスによってエウベルはプレスバックを余儀なくされる。 

西川のロングフィードがあるだけ横浜のDFラインは押し下げられてしまう。

このアップダウンの連続は特にサイドの選手の体力を奪い、プレス時の鋭さやカウンターに出ていく体力をボディーブローのように削って行った。浦和サイドからすると前線にホセカンテや髙橋といった空中戦で計算できる選手がいることも大きかった。

SBの背後

横浜のSBを釣り出して、そのSBの背後のスペースを攻略する攻撃は効果的だった。横浜はWGが相手CBへとプレスに飛び出して、SBが相手のSBまでスライドする『縦スライド』を使うチームだ。しかし、縦スライドはサイドでボールホルダーに強い圧力をかけることができる一方で、弱点としてSBの背後にスペースが生まれてしまう。浦和はこの縦スライドの弱点であるSBの背後のスペースを積極的に活用していた。

23:35では下の図のように横浜がLCBホイブラーテンに対してRWGの水沼が飛び出して、LSBの荻原に対してもRSBの松原がスライドして対応。すると、その背後にはスペースが生まれるので小泉がそのスペースへと飛び出して早川から3人目の動きでボールを受けようとしたがタイミングが合わなかった。

23分の浦和のサイド攻略

タイミングこそ合わなかったが荻原、早川、小泉の3人の意思疎通が取れており、出し手と受け手だけの関係性ではなく3人目も絡んだ良い狙いだった。

46:25では右サイドでボールを受けた関根に対して、永戸が飛び出したことで背後にスペースが生まれたため、髙橋が中央からサイドへと流れてボールを受けた。背後を取った髙橋からホセカンテへ折り返しのパスが通り、ホセカンテのシュートで終わった良い攻撃だった。

46分の浦和の右サイドからの攻撃

横浜はハイラインで守るため背後には広大なスペースが生まれる。矢印が前向きに守備することができている時には各選手の対人の強さが出て強度の高い守備になっているが、矢印が後ろに向くと守備の粗さが見受けられた。

ドリブラーの価値

ドリブラーは攻撃で質的優位を発揮できる貴重なキャラクターである。ドリブラーの価値には様々なものが考えられるがその一つが『タメを作れる』ことだ。

77:19の場面では岩尾からパスを受けたRSH大久保がLSBの永戸へと向かって行くようにドリブルをする。ボールを受けてすぐに放すのではなくドリブルが入ることで、周りの選手がポジション移動、修正をする時間を稼いでくれる。この場面でも大久保がドリブルをしたことで関根がダブルムーブメント(二連続の動き)で大久保から横パスを受けることができた。そして、関根とのワンツーで大久保がPAのポケットへと侵入してチャンスを作った。

77分の浦和の崩し

特に前半は髙橋が右サイド高い位置でボールを受けて1対1の局面を作ることが多かったが彼はドリブラーではないので、大久保のような『タメを作る』というよりかは『起点を作る』働きの方が多かった。

怪我明けの大久保だったが特にアタッキングサードの攻撃を活性化させ、41:46の決勝点に繋がったPK獲得の場面でも、岩尾からボールを受けるとゴール方向へとドリブルを開始して永戸と渡辺を惹きつけた。大久保のドリブルした数秒間によって荻原もゴール前まで上がる時間が生まれ、最終的にPK獲得となるプレーに関与した。

横浜も後半途中から水沼に代えてヤンマテウスを投入したことで、右サイドの攻撃にも変化があった。85:29ではヤンマテウスがボール受けて攻撃のタイミングを調整。この間にRSBの松原が高い位置を取ることができたので、この試合ではなかなか見られなかった右サイドでのSBによるポケット侵入をすることができた。残念ながらヤンマテウスからボールを受けた松原のクロスは精度を欠いてしまった。

ドリブラーがいることでタメを作ることができ、相手DFを引っ張り出すことで他の選手にスペースを与えることができるため、チームにとって不可欠なキャラクターであることは間違いない。

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