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グリム童話を読む配信。『いばら姫』〈4〉

ドイツ語の復習のために、グリム童話を原文で読み配信する試みをしています。

今は、ディズニー映画『眠れる森の美女』で知られる『いばら姫』を13回に分けて読んでいます。今回はその4回目です。

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ご馳走をのせる金の皿が12枚しかないという理由で、王様と王妃様の赤ん坊の誕生を祝う宴に招かれなかった13人目の女が、いきなり現れ、「生まれた姫は15歳の年に錘(つむ)に刺さり死ぬだろう」と、不吉な言葉を残して去っていった、というのが、前回の配信の内容です。詳しくは、ひとつ前の記事にて。

それでは、『いばら姫』4回目の配信で読んだ部分を見ていきます。まずは原文を引用します。その下にある日本語は拙訳です。

◇ グリム兄弟の童話集|Dornröschen(4/13)

Alle waren erschrocken; da trat die zwölfte hervor, die ihren Wunsch noch übrig hatte, und weil sie den bösen Spruch nicht aufheben, sondern ihn nur mildern konnte, so sagte sie: >>Es soll aber kein Tod sein, sondern ein hundertjähriger tiefer Schlaf, in den die Königstochter fällt.<<
Der König, der sein liebes Kind vor dem Unglück gern bewahren wollte, ließ den Befehl ausgeben, daß alle Spindeln im ganzen Königreich verbrannt werden sollten. An dem Mädchen aber wurden die Gaben der weisen Frauen erfüllt; denn es war so schön, sittsam, freundlich und verständig, daß jedermann, der es ansah, es liebhaben  mußte.
皆が動揺していたところに、12人目の女が進み出てきました。彼女はまだ祝辞を贈っていませんでしたが、だからといって、あの意地の悪い言葉を帳消しにする力はなく、呪いを和らげるしかできなかったため、こう言うのでした。「王様の娘が身を落とすのは死ではない。百年ものあいだ目覚めぬほどの深い深い眠りである」と。
何としても我が子を不運から守りたい王様は、王国にあるすべての錘(つむ)を焼き尽くすよう命じました。ただそうはしたものの、あの聡明で不思議な力のある女たちに贈られた言葉はやがてうつつとなりました。お姫様はそれはそれは美しく、しとやかで、親切で、物分かりがよかったので、その姿をひと目見た者は誰しも好きになってしまうのでした。(意訳)

12人目の女の機転で、幼気なお姫様の命は奪われずにすむようで安心しましたね(ただ死であれ深い眠りであれ、姫の身に何か起きる事態が避けられないのなら、15歳ではなく100歳くらいになるよう言ってもらったほうが……笑)。

◇ ◇ ◇

それでは、初めて知った単語、知っていても表現が気になる単語を見ていきます。

aufheben|動詞 
[ここでの意味]帳消しになる、相殺される
mildern|動詞
① 和らげる、弱める、しずめる、軽減する
②(刑罰などを)軽くする
bewahren|動詞
[ここでの意味]防ぐ、守る
jn.〈et.〉vor et. bewahren (〜を〜から)守る
der Befehl|男性名詞
① a.命令、指図、指示、指令 b.〈電算〉コマンド
② 命令〈指揮〉権
ausgeben|動詞
[ここでの意味]布告する、(命令などを)伝達する
verbrennen|動詞
[ここでの意味]〈et.〉(〜を)燃やす、焼く、灰にする、焼却する、(村・町などを)焦土化する
erfüllen|動詞
① a.満たす、いっぱいにする、埋め尽くす b.(想念・感情が〜の)心を占める、心をいっぱいにする
② (義務・任務などを)果たす、(要求・願いなどを)満たす、叶える、実現させる
sittsam|形容詞
礼儀正しい、しつけのよい、つつましやかな、しとやかな、おとなしい
verständig|形容詞
思慮(分別)のある、利口な、賢い、理解のある、物分かりのよい

◇ ◇ ◇

ところで、この物語の、お姫様の誕生を祝う宴に13人目が招かれないという件。仕事である資料をめくっていたら、その部分に関係ありそうな話を見つけたので、かいつまんでここに記しておきます。

キリスト教を信仰する国では「13」という数字が不吉に思われることは知られていますが、19世紀のフランス・パリでは、夕食会に集う人数が13人になりそうなときは、主催者が見ず知らずの人をあえて雇い、その夕食会の席に着かせて食事をともにすることがあったそうです。

この習わしはつまり、夕食会の出席者が13人になるからといって、客から誰かを外すわけにはいかないので、あえてもう1人加えて14人にして、不吉な数の13人になることを避ける、というわけですが、この14人目の客は、フランス語の「14番目」の意味である「カトルジエム(quatorzième)」と呼ぶそうです。

これはフランスの風習で、物語のドイツにも当てはまるのか分かりませんが、ただ客を招くなら、もてなす主人が何らかの配慮をして然るべきなのは、古今東西同じだと思うので、客を減らさないですむ方法は何かあったのではないかと。

でもここで思い出してほしいのが、『いばら姫』の王様は、客人のためのご馳走をのせる金の皿を12枚しか持っていなかった、という点です。フランスのカトルジエムならぬ、「フィアツェーント(vierzehnt)」の客を招く手立ては、そもそも彼にはなかったわけで、なるほどね。そういう意味の伏線だったのか。と、思った次第です。

vierzehnt|序数   第14の、14番目の

*参考*
アプリ版『独和大辞典 第2版』(小学館)
池田香代子訳『完訳クラシック グリム童話』(講談社)

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