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ぐん税ニュースレター -社会保険労務士の部屋から- バックナンバー 2021年4月号

この記事は2021年4月に発行されたニュースレターvol.18から「社会保険労務士の部屋から」の記事を再編集したものです。法改正などは最新の記事および官公庁の情報をご確認ください。

社員に周知していない就業規則は有効? それとも無効?

4月と言えば出会いの春。フレッシュな新入社員が入社し、社内に活気が溢れている会社も多いと思 います。入社の際には、新入社員と交わす雇用契約や会社のルール説明など、人事・労務面において様々な対応が求められます。そう、人事担当者にとって4月はとても忙しい時期なのです。

ところで、皆さんの会社には 『就業規則』はありますか?そして、きちんと従業員に周知していますか?
一般的に、会社の規模が小さいほど労務管理に対する意識が低い傾向にあり、就業規則が無いことや、あったとしても過去に作成したまま見直しをしていないケースがよくあります。就業規則が無い、または古いままという会社は早急に整備をして下さい。なぜなら、会社のルールを明確にする必要性があるのはもちろんですが、年々増加する労務トラブルを未然に防ぐためには就業規則の存在が重要だからです。
しかし、整備をしてきたからといって安心はできません・・・ それは!就業規則は従業員に周知をして初めて効力を発生するものだからです。就業規則を作成し、労基署に届け出るところまではできていても、周知をおろそかにしている会社は意外と、いえ、かなり多いです。
例えば、社長の机の引き出しや、鍵付きのキャビネットにしまい込んではいませんか?これでは従業員が見たくても見ることができず、就業規則を周知させたことにはなりません。
ここで、就業規則の周知義務違反による労働問題についての裁判判例をご紹介します。

フジ興産事件 最高裁H15.10.10

会社Aは、懲戒事由を定めた就業規則を労基署に届け出ていたが、 のちにその就業規則を改訂し、改めて新しい就業規則を労基署に届け出た。ある時、 従業員Bが顧客とのトラブルを度々発生させたり、上司へ反抗的な態度や暴言を繰り返す行為が目立つようになったため、職場秩序を乱したとして新し
い就業規則に基づき、会社Aはこの従業員Bを懲戒解雇した。しかし、懲戒解雇の事由が発生した時点では、従業員Bが勤務する職場には就業規則が備え付けられていなかった。そこで、従業員Bは懲戒解雇の根拠となる事実が発
生した時点では、職場に就業規則が存在しなかったとして懲戒解雇の無効を主張し、会社Aを提訴した。

結論
就業規則は存在していたが従業員に周知する手続きがされていなかったことから、その法的規範の性質を有さないこととなり、この懲戒解雇は『無効』である。

この事例では、会社Aは、就業規則を作成し労基署にも届け出ていました。 しかし、肝心な従業員への周知ができていませんでした。労働基準法には従業員が10人以上となったら就業規則を作成し、労基署へ届け出ると定められています。これは法令順守の観点から言えば正しいことです。しかし、この判例からご理解いただけるように周知を怠っていた場合、就業規則の存在そのものだけでは全く意味をなさないということをご理解いただけると思います。

まとめ

経営者のなかには、就業規則を社員に見せたくないと考える方もいます。 就業規則に規定したとおりに有給を与えたり、残業代を払ったりしていないから従業員に気付かれたくない等、理由は様々あるようです。しかし、こうした誤った保管方法によって、就業規則が周知されていないと判断されれば、就業規則の内容が全て無効になってしまうことになります。
近年は、小さな会社であっても就業規則の作成とその周知に関わる労働トラブルで、会社が苦境に立たされる事例が非常に多く見られます。さらに現在では、争いに発展した場合、労働者側が有利となるケースが多く、会社側にとっては厳しい傾向にあります。
たとえ小さな会社だとしても、社内ルールがあり、従業員にしてもらっては困ることがあるはずです。 就業規則が無い、あっても周知していないことは会社にとって大きなリスクを負うことになるので、一度自社の状況を見直し、不備がある場合には早急に対応することが求められます。

社会保険労務士 高橋


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