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【イベントレポート】「イスラエルのスタートアップの現状と日本企業の取り組み〜戦時下での協業・投資・M&Aの可能性〜」


はじめに

先週4/11(木)、株式会社K Squared主催、イスラエル大使館、TMI法律事務所、Frontline Initiative後援の下、「イスラエルのスタートアップの現状と日本企業の取り組み〜戦時下での協業・投資・M&Aの可能性〜」が開催されました。およそ150名の方々にお申し込みいただき、盛況のうちに終えることができました。

当イベントでは、イスラエルに強く関係する政府関係者およびベンチャーキャピタル、日本企業、業界専門家の方々をお迎えし、現在の環境下におけるイスラエルスタートアップと最適なビジネス戦略を展開する方法についてお話いただきました。

なお、当イベントのモデレーターは弊社共同代表取締役の赤野が務めました。


株式会社 K Squared 共同代表取締役 赤野健吾

Opening Remarks として

開催の挨拶として、イスラエル大使館経済担当公使兼経済貿易ミッション代表のDaniel Kolber氏にお話いただきました。


イスラエル大使館経済担当公使兼経済貿易ミッション代表 Daniel Kolber氏

「オンラインイベントのサポートができること、大変光栄に思います。たくさんの方々のイベントへの参加は、日本の企業がイスラエルとのコラボレーションへの関心を示していると感じております。過去10年間、日本とイスラエルとの関係の中で、貿易、ビジネス、投資の非常に強いモメンタムがありました。ピーク時の2021年には、日本からのイスラエルの投資を含め、世界中から3億ドルもの投資がありました。昨今の危機的状況下においては、2023年最後の4半期に比べて、特にサイバーセキュリティの分野への投資は少し回復してきました。日本とイスラエル間の直行便は先月開始され、より二国間のビジネス交流の活性化を待ち望んでいます。日本にいると、イスラエルの現在の状況に対する理解が少し難しいと思いますが、イスラエルのほとんどの地域では通常の生活を送り、引き続き日本や世界に向けて革新的な技術開発を続けています。また、日本政府からの多くのサポートもいただいていており大変感謝しています。改めて、本日ご参加の皆様、ありがとうございます。引き続き、皆様とご一緒できることを楽しみにしています。」


Session1「今更おさらいイスラエルの技術と遅い日本・早いイスラエル、ビジネス時差を埋めるには」

Seession1では、元防衛副大臣である中山泰秀氏に登壇いただき、「今更おさらいイスラエルの技術と遅い日本・早いイスラエル、ビジネス時差を埋めるには」というタイトルで、イスラエルのビジネスや技術の特徴についてお話いただきました。

元防衛副大臣 中山泰秀氏

◾️なぜイスラエルが注目されるのか
スタートアップの聖地であるシリコンバレーのスタートアップの技術シーズのうちの75%が、イスラエル生まれのものです。(川の流れは、 イスラエル > シリコンバレー > マーケット)国内でも注目されるドローン技術は、1960年代にイスラエルで初めて作られた技術であり、イスラエルには0→1の技術がふんだんにあります。

資料一部抜粋

◾️0→1の技術を生み出すイスラエルの特徴
兵役制度

日本国内(菅政権時)の防衛予算は5兆3000億円(対GDP費1%)で、その半分が人件費となっています。対して、イスラエルの国防予算は対GDP比4%であり、教育予算は対GDP費7%。イスラエルでは、男女ともに懲役制が課せられ、高校を卒業後は3年の兵役期間を経ます。そのため、国民皆兵の中でのネットワーキングを使い、兵役後は自身の使命感を持って大学で勉学をしたのちに、社会に出る時にはフォーカスされたものを作り上げていくという社会環境が整っています。

イスラエルの地理的・地政学的環境と技術
また、イスラエルは、国土の60%が砂漠にもかかわらず、食料自給率は93%、さらに排水再利用率は世界最高の86%と、Food Tech/Agritechの先進国としても知られています。
地理的・地政学的に過酷な環境にある中、「『無資源国家』であり、唯一の資源は、人間の『知恵』であるという」点は、イスラエルと日本の共通項として認識されています。その一方で日本は、海洋面積を入れると世界で10位以内の国土面積を有する海洋国家であるが、海洋資源を上手く活かせていないのが現状です。イスラエルの食料自給率と比較して、日本の食料自給率が37.8%しかないことを考えれば、いざという時にエネルギー供給や食料輸入が遮断された場合にどうするか。ハイテクやDeepTech以外にもイスラエルから学ぶべきことは多いと考えます。

また、イスラエルのスタートアップは、日本とパートナーシップを組みたいと考えています。日本が新たにシリコンバレーのポジションをとるのだとすれば、源流であるイスラエルからの0→1のテクノロジーを日本へ移転・製造し、Made in Japanのプロダクトとして海外に輸出することが重要です。


Session 2「戦時下におけるイスラエルスタートアップの現状と現地での取り組み」

Seesoion 2では、まずSynergy7 CEO Harel Ram氏にご登壇いただきました。Synergy7はイスラエル南部ベエルシェバに位置しているインキュベーションセンターです。 イスラエル国防軍のサイバー部隊の拠点があり、軍、大学、インキュベーションセンター、スタートアップが密接に関わっているエリアです。
Harel氏には、現在のイスラエルスタートアップエコシステムの現状と、インキュベーションセンターの取り組み及び、スタートアップ ポートフォリオをご紹介いただきました。

Synergy7 CEO Harel Ram氏

Synergy 7:LinkedInFacebookInstagram

◾️戦時下におけるイスラエルスタートアップエコシステムの現状

”昨今の戦争は、スタートアップエコシステムを含む国内経済に悪影響を与えている。セキュリティ上の継続的な懸念により、投資家の信頼を低下させており、スタートアップが資金調達を行うことが困難になっています。さらに、戦争による全体的な不安定さと中断が日々の運営に影響を及ぼしており、創業者やスキルを持つ専門家が予備役義務に呼ばれることもあります。
Synergy7は、この戦争の重要な時期にネゲブ地域の有望なスタートアップと共に力を合わせるため、世界中のエンジェル投資家を招待する独自のプラットフォームを導入しました。彼らは、影響力のある投資、融資、緊急資金提供を通じて違いを生み出すことができるだけでなく、貴重なメンターシップや戦略的なアドバイスも提供することができます。”(一部抜粋)

ーー 影響により、イスラエルのスタートアップエコシステムはとても厳しい状況にあります。しかし、我々は、”NO MATTER WHAT(なんとしても)”を掲げて、先端技術を届けるため、技術開発を中断せず、スタートアップへのサポートもやめませんでした。我々は、この(困難な)時を克服する術を知っているし、ビジネスを継続し続ける方法も知っているため、今イスラエルにコミットできる賢明な投資家は、投資の良い機会を得ることができると考えます。そこで今回は我々のポートフォリオの中から一部スタートアップを紹介します。

◾️Synergy 7がサポートするスタートアップ企業

一部抜粋
一部抜粋

次にAnD VenturesのAriel Cohen氏にご登壇いただきました。同氏は、ガザでの戦争下において様々な困難を強いられるアーリーステージのスタートアップに対する支援を目的とした投資家コミュニティ”FRONTLINE INITIATIVE”を設立されており、「イスラエルスタートアップコミュニティが、いかに有事の際にも迅速かつ結束力のある動きができるのか」という切り口から、イスラエルスタートアップの現状と、FRONTLINE INITIATIVEの活動についてお話いただきました。


AnD Ventures / FRONTLINE INITIATIVE General Partner Ariel Cohen氏

◾️イスラエルスタートアップの現状

ーー イスラエルのスタートアップエコシステムは、国内GDPの18%を占めています。また、全ての職業の14%及び専門家の50%がスタートアップで働いています。しかし、昨年10月からとても困難な年を迎えており、サポートを必要としており、我々は、スタートアップへの支援に乗り出すことを決断しました。

2023年10月以降はVCからのスタートアップ投資額が58%減少しており、危機的状況となっています。また数百名ものファウンダーが戦線に召集されたタイミングがあり、私の知るスタートアップの1社は、3名のファウンダー全員が前線で戦っている事例もありました。

◾️FRONTLINE INITIATIVEについて
私たちのミッションは、戦時中に勇敢に国を守る創業者たちの会社を守ることにより、イスラエルのテクノロジー・エコシステムの基盤を強化することです。私たちは、「スタートアップ・ネーション」としての革新的な精神が、逆境に直面しても不屈にすることに尽力しています。

FRONTLINE INITIATIVEは、世界中の投資家とイスラエルスタートアップの国内初オンラインマッチングプラットフォームです。これは無償で、投資家は誰でも参加することが可能です。すでに232ものスタートアップが参加しており、年間継続収益(ARR)が$100,000を超えています。プラットフォームへの登録のみで、登録しているスタートアップへコンタクトをとることができる。


Session3 「現在の日本企業によるイスラエルのスタートアップとの共同事業、投資、またはM&Aの展望」

Session3では、まずTMI総合法律事務所パートナーの田中真人氏にご登壇いただきました。同氏は、イスラエルの大手法律事務所であるHerzog Fox & Neeman 法律事務所での勤務経験があり、現在も日本・イスラエルのビジネス法務案件に数多く携わっていらっしゃいます。

TMI総合法律事務所 Partner 田中真人氏

◾️イスラエルにおける現在の動向等

◾️投資家による、シリコンバレーとイスラエルの比較
イスラエルとシリコンバレーのスタートアップエコシステムを比較すると、第一にシリコンバレースタートアップと比較してバリュエーションが低いことが挙げられます。第二に、スタートアップエコシステムに入りやすく、(シリコンバレーの場合、インナーサークルと呼ばれるネットワークの中に入らなければ、スタートアップに出会えない)2012年から2017年に⾏われた投資件数について、海外投資家が含まれているラウンドの割合が、シリコンバレーにおいては24%のところ、テルアビブでは71%あり、最初から海外投資家が入ることを前提としているということがあります。

◾️戦時下での資金調達状況等
戦時下の前のコロナ禍では、イスラエルは年々最高資金調達額を更新してきており、2021年には過去最高額だった2020年の資金調達額(約103億ドル)の2.5倍の約256億ドル(うち、外国からの投資額は186億ドル)となっています。日本からイスラエルへの投資では、2021年に前年比190%増の29.5億ドルの投資額となっており、同年のイスラエル企業への投資全体の15.8%を占めています。

10月7日の事件以降、最初の2、3週間は学校・レストラン・小売店等は閉まっていたが、”NO MATTER WHAT”の精神により急速に回復を図っており、現在は10月7日以前の状況に戻っている。また、10%程度の労働力は予備役に就いているものの、イスラエル企業の強いビジネス継続意欲もあり、それ以外のイスラエル人は通常のビジネスオペレーションに戻っています。現地の日本企業駐在員も一部イスラエルに戻り始めました。
現在の状況下では、日本企業は投資に対しては保守的になりがちですが、手元10件ほど投資案件が動いている状況で、これまでと同様の活動をされている日本企業もいます。

◾️現況における協業・投資の機会
イスラエルのハイテク企業の資金調達状況は、2022年の資金調達額と比較して2023年は約60%減少しています。それにより調達需要が高まっているため、有利な条件での投資・協業の機会が広がっていると言えます。

次に、世界有数のパートナーとの協力のもと、セキュリティと防衛に関する高度なサイバーセキュリティ・ソリューション、コンサルティング、 調査を提供しておられる、株式会社アスピレイション(以下、アスピレイション)CEOの石塚 宏一氏にご登壇いただきました。当セッションでは、同社の活動についてご紹介いただきました。

アスピレイション株式会社 CEO 石塚宏一氏

アスピレイションは、イスラエルの国有の会社を始め最先端企業多数と提携し、日本にはない革新的かつ必要なソリューションを、防衛省をはじめとする政府関係や大企業等へ導入している会社です。
特に扱っている分野として、セキュリティ・防衛に関わるところが多く、特に、スタートアップで言えば、サイバーセキュリティを扱っています。

◾️サイバーセキュリティ分野におけるイスラエルの技術
今年1月以降、海外メディアでサイバーリスクに関する発言が出てきています。民間のセキュリティに加え、国家安全保障の面でも非常に脅威が高まってきています。
イスラエルの技術の特徴として、技術の先進性はもちろん、現場で検証・実証されているというところにあります。そのため、安全保障面で不可欠な技術であると認識しています。

イスラエルのスタートアップの成功要因として、以下の3つが挙げられます。
第一に、世界初の技術であり、現場検証が進んでいる技術としての「イノベーション」
第二に、変化し続ける脅威に対するソリューションの開発及び、市場への導入と、市場からのフィードバックに基づくカスタマイゼーションを実行する「スピード」
最後に、ビジネスを進めていく、問題を解決していくという「パッション」が非常に強い。
こういった点がイスラエルスタートアップの原動力の源となっていると考えます。


最後に

当イベントでは、ビジネスや外交においてイスラエルと長く関わってきた官民のトッププレイヤーの方々はじめ、イスラエルスタートアップエコシステムにおいて積極的な活動を展開しているVCや、インキュベーションセンターの代表に登壇いただき、イスラエルの現状とビジネスについて深い知見を得ることができました。

今後も、継続的にイスラエルの状況について、最新の情報をキャッチアップしていく機会を作っていけたらと考えています。

また、弊社ではnoteやホームページにてSecurity Tech / Defense Techに関する情報発信を行っています。先端技術の領域についてキャッチアップしたいという方はぜひチェックしてください。

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note:https://note.com/ksquared_corp
会社ホームページURL:https://ksquared-corp.com/

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