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“森”と”菌”の深ーい関係~京大発ベンチャーが目指す、菌を活用した多様な森づくりとは?~

森と菌。実は関係があるんです。菌の専門家、京都大学東樹先生にインタビュー。

“森”と”菌”。皆さん、一見全く関係なさそうなこの2つの単語が、実はとても深ーい関係があるのをご存じでしょうか?
● 森には多様な生物が存在し、お互いに色んな影響を与えながら森がつくられています。例えば、植物の種が鳥の糞で運ばれてきたり。ミミズが、土の中いることで土が柔らかくなったり。そんな生態系の中に、”菌”という生物も存在します。
● そんな菌の話を、菌の専門家であり、かつ自身も大学発ベンチャーとして菌を使った森づくりなどの事業化を目指している、京都大学の東樹准教授にお話を伺いました。

京都大学 東樹先生

京都大学 東樹先生プロフィール
京都大学 生態学研究センター 准教授 東樹 宏和氏。2007年九州大学大学院理学府博士後期課程修了(理学博士)。2017年4月から、 京都大学生態学研究センター准教授(現職)。「生物多様性」「種間相互作用ネットワーク」「生態系設計」「持続可能な農業」などをキーワードに掲げ、動物、真菌、植物、細菌などを研究する生態学者。大学発ベンチャー「サンリットシードリングス」社の創業者・取締役も務める。

(インタビュアー GREEN FORESTERS 中井、中間)

地下の”真菌類”が植物の根に共生し、”菌根”となって栄養や水分の吸収を助ける。

中間 今日はお時間ありがとうございます!まずは東樹先生の専門領域について教えてもらえますでしょうか?

東樹 まず菌類と言ってもいろんなものがいます。細菌(バクテリア)や古細菌(アーキア)となど「原核生物」と呼ばれるグループや、アメーバに近い粘菌(変形菌)、さらに、生物の系統の中では動物に比較的近い真菌類というグループに大別されます。真菌類はいわゆるカビやキノコの仲間なのですが、今までに種名がつけられているもので10万種ほど、その他ちゃんと種が規定されていないものも含めれば数百万種が地球上に存在すると言われています。

東樹 DNA解析の技術向上により、一気にこの領域の情報量が増え、色んな研究者が真菌類の研究を始めました。だいたいの研究者が”●●菌”の専門家として特化していった中、私は植物と真菌がもたらす”相互作用”に着目して研究してきました。

中間 植物と真菌の相互作用って、具体的にはどういう作用があるのですか?

東樹 真菌が植物の根に侵入して”菌根”というものを形成することがあります。菌根が形成されると、土壌中の栄養や水分を吸収しやすくなったり、病原菌に耐性が付いたりします。

東樹 こうした菌根に関する研究には100年以上の歴史があります。昔ヨーロッパ人が、オーストラリアに自国のマツを持って行って植えても、上手く育たなかった。それを、土ごともっていったら、上手く育ったということで、どうやら菌が作用しているらしい? そんな観察事例の積み重ねで研究が進展していったようです。

植物と地下真菌の持ちつ持たれつの関係

(東樹研究室WEBサイトより引用)

実はまだよく分かっていない”内生菌”の世界とそのポテンシャル

中間 なるほど。こういった相互作用は、人間でコントロールして、森づくりに活かせるものなのでしょうか?

東樹 こういった相互作用をもたらす真菌類のうち、”アーバスキュラー菌根菌”と、”外生菌根菌”というものがよく知られていて、研究も進んでいるのですが、これらは殆どが人工的に培養できないものになっています。なのでこれらを人間がコントロールすることはなかなか難しいです。

東樹 一方、研究を進めていくと、どうやら上記の菌根菌のカテゴリーに当てはまらない”内生菌”というものが多数存在し、植物の生長に影響を与えていることが分かってきました。しかも、内生菌には人工的に培養が可能な種類もある。これらの機能を明らかにすることで、植物と真菌の地下の共生ネットワークを最適化し、生態系が本来持つ機能を引き出せないか…というのが、今私がやろうとしている研究の一例になります。

中間 内生菌にはまだ分かっていないことも多いのですね。

東樹 そうなんです。内生菌という分類自体ももはや、良く分からない”その他”的な雑な分類なので(笑)。ただ、その分ここにポテンシャルがあると思っています。

ネットワーク

(東樹研究室WEBサイトより引用)

大学発ベンチャーで実現したい、菌を活用した”バックキャスト”の森づくり

中間 実際に、内生菌を使えば、どういったことができるのでしょうか?

東樹 菌根菌と同様、栄養や水分を吸収しやすくなったり、病原菌に耐性が付いたりといった効果があることは分かってきました。また、苗木のうちに菌を共生させることで、その効果がより大きくなることも分かってきました。
東樹 なので菌を共生させた苗木などを生産することができれば、ある程度生態系を狙った形に誘導することも可能になるのでは、と考えています。

中間 生態系を誘導できる?

東樹 そうです。例えば最終的にこんな森にしたい、という狙いがあったとします。そこに向けてバックキャスト的に考えて、2Dと3Dで色んな種類の植物を配置していきます。その際に、一部内生菌で環境ストレスや病害への耐性を強化した苗などを活用することで、通常では定着しにくい環境下でも植物の生育や森の遷移を促進できないかと考えています。

中間 すごい。。それが実現できたら、森林管理や林業の世界はかなり変わりそうです。

東樹 菌が持つ作用はだいぶ分かってきたので、あとは実際に苗木業者さんや林業現場の方々と協力して、試していければと。サンリット・シードリングスという新しい会社で、そうした科学的な知見を森づくりに活かす方法を模索しています。
https://www.sunlitseedlings.com/

スギ・ヒノキを悪者にしたくない。多様性のある森の中で活きる”スギ・ヒノキの価値”。

中間 現状、日本の林業はスギ・ヒノキ等の人工林が中心になっています。菌の専門家からみて、林業の現状をどう思いますか?

東樹 実は私は、スギ・ヒノキはとても好きなんですよね。そういったスギ・ヒノキが厄介者にされている現状がちょっと悲しいなと。

中間 生態学の先生から、そういった感想がでてくるとは意外です!

東樹 スギ・ヒノキは材としてとても優秀だと思います。まっすぐなだけでなく、柔らかくて加工しやすくて、触っていても温かみを感じます。また、混交林の中にスギが一本生えているのを見ると、非常に生命力を感じます。ただあまりに人為的に増えすぎて、価値が下がっているのが現状なのかなと。

東樹 50年後にどの材に市場価値があるのか分からない中、1種類の材に集中投資していること自体がリスクだなと感じます。例えば、最初から多様な種類を植えておき、それぞれの材の価格が一番高い時に、択伐的に伐採することができるのでは?と素人ながらに感じます。そうすれば、皆伐による災害リスクの上昇や景観の悪化といった要素を排除しながら、森林を永続的に管理していけるかもしれません。伐採などの技術について私は分かりませんが、生物同士の共生関係や競争関係を俯瞰することで、持続可能な森づくりの道が拓けてくるのではないかと思います。

中間 なるほど。そうすると、スギ・ヒノキも多様な材のひとつに位置づけられるのですね。

東樹 そうです。スギ・ヒノキにプレミアムを付けるために、広葉樹林を増やすことができればな…などと思っています。

中間 いまの林業業界には無い発想かもしれないですね。ぜひこういった多様な森づくりに、GREEN FORESTERSも一緒に取り組められればと思います!!

インタビュー風景

インタビューの様子。左から弊社中井、東樹先生、中間(筆者)

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